(1)乱高下する資産価格
日本の資産価格は、世界的な金融危機が本格化する中で大幅に下落して後、2009年入り後も乱高下を繰り返している。日経平均株価は、2008年7月24日時点では1万3,603円31銭を記録、円ドル相場も2008年8月15日時点では1ドル=110円51銭を維持していた。だが、8月半ばごろより緩やかに始まった株価の下落傾向は、リーマン・ブラザーズの破綻を契機に加速。バンク・オブ・アメリカによるメリルリンチの買収合意やAIGへの公的資金投入による救済などを受けて、2008年9月18日には株価は1万1,489円30銭をつけて一旦歯止めがかかったかに見えたが、米国ではその後も他の金融機関の破綻懸念がくすぶり続け、ワコビアやモルガン・スタンレー、シティグループなどといった名だたる米国大手金融機関が株価急落の餌食となり、合併や出資、政府保証などの形での救済を受けざるを得ない事態に陥った。更に、急速な金融収縮の動きが実体経済にも悪影響を及ぼし始め、米国経済が1929年大恐慌以来の未曾有の不況に直面する可能性が高まってきた。
米国におけるこうした金融と実物両面でのマイナス・インパクトからは日本経済も逃れきれず、10月に入り株価とドルは下げ足を速め、株価の最安値更新と円の最高値更新が続いた。2008年10月27日には株価は7,162円90銭となりバブル崩壊後最安値を更新、円ドル相場は1ドル=92円86銭を付けるに至った。その後、株価は下落に歯止めはかかるが、乱高下が続いてきた。円ドル相場は一時円安に戻るも一過性の動きに止まり、12月に入ってからは円高が更に進行、2008年12月18日には一時1995年7月以来の円高ドル安水準となる1ドル=87円13銭を付けた。2009年入り後は、今後への期待感から株価の上昇と円安が続き、株価は2009年1月7日に9,239円24銭まで、円相場は2009年1月6日に1ドル=93円66銭まで戻している。
2008年後半にみられたような底なしの株安・円高が収束し、株や為替に持ち直しの兆しが見えてはいるものの、相場は目先の材料に左右される不安定な状況にあり、ボックス圏での推移が続いている。
(2)リスク資産売買に積極的な家計
図表1.投資部門別 東証株式売買高構成比の推移 |
株について、2007年1月以降の東証第一部と第二部の月間売買高合計をみると、概ね400~500億株前後で推移しているが、特に値下がりの激しかった2008年10月には東証第一部と第二部の月間売買高が合計で624億株、前年同月比で40%近くも増加している。
株式売買高の投資主体別構成比見ると、株価の下落が加速しはじめた2008年9月以降、外国人の売買高ウェイトは9月時点の42.5%から12月の33.3%まで一貫して下落し続けるのに対し、個人の売買高ウェイトは9月時点の20.3%から12月の28.0%へと一貫して上昇を続けている(図表1)。
下落相場の中で、個人投資家は株の売買を積極的に進めている。
(1)リスク資産への新規投資に意欲的な低収入・低資産・不安定雇用の男性団塊ジュニア
株式や外貨商品への個人投資家のうち、最近3ヶ月以内にリスク資産売買を活発化させている個人投資家とは、どのような人たちであろうか。2008年12月に弊社ネットモニターを対象に行われた「JMR資産選択行動調査」によると、株式関連商品では、国内株式の保有者率は全体の37.8%、株式投資信託は15.9%、外国株式は4.1%である。外貨関連商品では、外貨預金は11.3%、外貨現金は5.7%、FX(外国為替証拠金取引)は3.7%である。最近3ヶ月以内で初めて保有した資産として、株式関連商品では、国内株式が全体の1.0%、株式投資信託は0.3%、外国株式は0.2%である。外貨関連商品では、外貨預金は1.0%、外貨現金は0.9%、FX(外国為替証拠金取引)は0.7%である。
図表2.性別・世代別 リスク資産保有者比率 |
図表3.性別・雇用形態別 リスク資産保有者比率 |
図表4.性別・世帯年収別 リスク資産保有者比率 |
図表5.性別・金融資産残高別 リスク資産保有者比率 |
「主要リスク資産 新規保有層」と「主要リスク資産 既存保有層」のそれぞれについて、属性特徴を整理しておこう。
性別・世代別に見ると、「主要リスク資産 新規保有層」が顕著に多いのは男性団塊ジュニア、比較的多いのが男性少子化世代や男性ポストバブル世代である。「主要リスク資産 既存保有層」が顕著に多いのは、男性断層世代以上と女性団塊世代以上である(図表2)。
性別・雇用形態別に見ると、「主要リスク資産 新規保有層」が顕著に多いのは男性パート・アルバイトと女性派遣・契約社員であり、ともに雇用の不安定な層である。「主要リスク資産 既存保有層」が顕著に多いのは、男性自営業&家族従事者、やや多めなのが男性正規雇用層である。ベースは少ないので留保は要るが、男女の経営者は「主要リスク資産 既存保有層」でもある(図表3)。
性別・世帯年収別に見ると、「主要リスク資産 新規保有層」が比較的多いのは、男性では男性300万円未満層と男性300~500万円未満層、女性では女性700~1,000万円未満層と女性1,000万円以上層である。「主要リスク資産 既存保有層」が顕著に多いのは、男女ともに、700~1,000万円未満層と1,000万円以上層である(図表4)。既存保有層は男女問わず高収入層で多い。他方、新規保有層は、女性では高収入層で多いのに対し、男性では低・中収入層で多い。
性別・金融資産残高別に見ると、「主要リスク資産 新規保有層」が特に多いのは、男性では男性500~1,000万円未満層である。比較的多いのは、男性では1,000~3,000万円未満層と男性3,000万円以上層、女性では女性1,000~3,000万円未満層である。「主要リスク資産 既存保有層」が顕著に多いのは、男性では男性500~1,000万円未満層、男性1,000~3,000万円未満層、男性3,000万円以上層である。女性では、女性1,000~3,000万円未満層と女性3,000万円以上層である(図表5)。男女ともに、新規層・既存層の違いを問わず、金融資産残高500万円を超えると、リスク資産の保有率が高いことがわかる。特に新規保有層については、女性では1,000万円を超える高資産層で多い反面、男性では、500~1,000万円未満という中資産層で多い。
雇用が安定し高収入・高資産層という従来のリスク資産投資家とは異なり、特に男性におけるリスク資産の新規投資家は、雇用が不安定で収入は比較的低いが、資産はほどほどに持っている層であることがわかる。
(2)リスク資産の新規投資家で強い将来不安と上昇・顕示志向
リスク資産投資家層に特徴的な意識をみてみよう。図表6.リスク資産保有者セグメント別 価値意識上昇・顕示志向該当項目 |
ふだんの生活について、「非常に不安である」の回答率が全体ベースでは29.4%であるのに対し、「主要リスク資産 新規保有層」では43.8%にも上る。「主要リスク資産 既存保有層」で「非常に不安である」の回答率が25.3%、「主要リスク資産 非保有層」での回答率が31.9%であることを踏まえても、「主要リスク資産 新規保有層」では、ふだんの生活に対する不安意識が他の層と比べて顕著に強いことがわかる。
生活で不安に感じる項目として提示した30項目のうち、「主要リスク資産 新規保有層」で上位に挙がっているのは、「景気の悪化」(新規保有層での回答率:68.8%)、「医療費の増加」(同56.3%)、「財政赤字など政府の財政悪化」(同53.1%)、「消費税率の上昇」(同50.0%)、「食品の安全性」(同46.9%)などである。「主要リスク資産 新規保有層」における生活での不安材料の上位項目には、景気の悪化や医療費の増加、財政赤字など政府の財政悪化、消費税率の上昇といった経済的側面のものが目立つ。
提示30項目のうち、「主要リスク資産 新規保有層」の回答率が、「主要リスク資産 既存保有層」または「主要リスク資産 非保有層」との回答率よりも10%以上高い項目について、新規保有層での回答率の高い順に列挙すると、「医療費の増加」(新規保有層での回答率:56.3%、非保有層との差:13.0%)、「財政赤字など政府の財政悪化」(同53.1%、非保有層との差15.8%)、「食料の自給率の低下」(同43.8%、非保有層との差10.5%)、「自分の将来が見えないこと」(同43.8%、既存保有層との差:18.3%)、「自分や家族の失業」(同40.6%、既存保有層との差:18.3%)などが挙がってくる。「主要リスク資産 新規保有層」では他の層と比べて、医療費増加や財政赤字といった負担増加懸念や失業などといった、将来における具体的な不安に加えて、自分の将来に明るい展望が描けないという漠然とした不安もより強く抱えているといえよう。
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