半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

(2012.06)
エコカー補助金終了後の反動減をどう読むか
-390万台から265万台へ32%ダウンへ
菅野 守

構成
1.はじめに
2.新車販売の動向
3.自動車購入関連支出の動き
4.新車販売の今後の見通し
5.結語

1.はじめに
 2012年5月の「月例経済報告」において、基調判断が9ヶ月ぶりに上方修正されるとともに、「回復」に類する表現が4年3ヶ月ぶりに復活するなど、景気の現状と先行きに対する政府の認識は、楽観的な方向へ変化しつつある。
 景気に対する判断の上方修正の材料として特に注目されているのが、自動車販売の好調ぶりである。2012年に入り震災復興事業が本格始動し、東北を中心に公共事業を始めとして復興特需が盛り上がりをみせるとともに、復活したエコカー補助金も需要の盛り上がりを後押ししている。前回のエコカー補助金が早期に予算切れとなった経験から、業界内では今回のエコカー補助金も早めの2012年7月に予算切れで終了するのでは、との噂が流れている。予算切れ前に補助金を確実に獲得すべく、消費者も早めの購買に動いている雰囲気のようだ。
 加えて、3党合意がなされた消費税増税法案では、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へそれぞれ引き上げる予定である。前回1997年4月に3%から5%へと税率がアップした際にも、その前の1997年1月~3月期にかけて駆け込み需要が生じたことは、よく知られている。自動車に関しては、エコカー補助金との合わせ技で、消費税増税前の駆け込み需要が前倒しで起きている可能性も考えられる。
 本稿では、好調ぶりをみせる自動車販売の動きを、売り手である業界側のデータと買い手である消費者側のデータからそれぞれ確認した上で、新車販売の今後の見通しを予測し、復活したエコカー補助金終了後の反動減の影響の考察・検討を試みた。ただし、本稿で採用した予測は、公表されている新車販売のデータそのものの変動パターンを解析し、外挿的方法で実際のデータを延長させる形で推計したものであり、考慮すべき質的な要素全てを綿密かつ詳細に検討したものではない点には、留意を要する。

2.新車販売の動向
 日本自動車販売協会連合会が毎月公表している「新車販売台数概況」や全国軽自動車協会連合会が毎月公表している「軽四輪車新車販売速報」などをもとに、新車販売台数の推移を確認しておこう。
図表1.新車販売台数の時系列推移
 図表1では、各月ごとに、新車販売台数の過去12ヶ月分の累積値を算出し、その時系列推移を描いたものである。乗用車計の数値は、普通乗用車+小型乗用車の数値と、軽四輪乗用車の数値とを合計したものである。各年の12月末における過去12ヶ月分の累積値が、年間の販売台数となっている。
 乗用車計の年間新車販売台数は、2007年が約440万台、2008年は約423万台、2009年は約392万台、2010年は約421万台、2011年は約352万台である。2007年から2008年にかけての落ち込みは、2008年9月のリーマンショックを契機とした景気の反転を受けたものとみられ、2008年から2009年にかけての更なる大幅な落ち込みは、リーマンショック後にグローバルレベルで深刻化した不況の影響と考えられる。過去12ヶ月分の累積販売台数でみると、2009年7月の約373万台がこのときの底となっている。2009年4月より1回目のエコカー減税+補助金がスタートしてはいるが、2009年時点では目に見えた効果はまだ出てはいなかったようだ。
 エコカー減税+補助金による需要喚起の効果がはっきりしてくるのは、2010年に入ってからのことである。2010年の年間新車販売台数は、2008年に近い水準まで大きく復調している。想定以上の需要の盛り上がりもあり、エコカー補助金自体も、当初の期限からかなり前倒しの2010年9月初旬に予算切れで打ち切られている。過去12ヶ月分の累積販売台数でみると、2010年8月の約451万台がピークとなっている。水準としては、リーマンショックの遠因となったサブプライムローン問題が顕在化する2007年7月頃より更に前の、2007年5月並みに匹敵する高さである。
 エコカー減税+補助金で2010年は押し上げられた新車販売台数も、補助金がなくなった2011年には、大幅な反動減が起こっている。過去12ヶ月分の累積販売台数でみると、2011年9月の334万台が底となっている。落ち込み幅は、年間新車販売台数で約69万台、過去12ヶ月分の累積販売台数でみて約117万台である。反動減の規模は、年間新車販売台数では2009年から2010年にかけての増加分を超えていることは勿論のこと、過去12ヶ月分の累積販売台数でみても、2009年7月から2010年8月にかけての増加分である約77万台を顕著に上回っており、反動減の影響の大きさがうかがえる。
 2012年にどうなるのかは今後の動向次第だが、過去12ヶ月分の累積販売台数の動きをみると、2012年に入り急回復の動きがみられる。2012年1月よりエコカー補助金が復活したことが、こうした動きに寄与していることは間違いない。加えて今回は、エコカー補助金による需要喚起効果が、予想外に早く表れているようだ。過去12ヶ月分の累積販売台数は2012年3月に400万台を突破、2012年5月には430万台に乗せている。前回のエコカー減税+補助金が行われた時期で言えば、400万台は2010年1月に匹敵する水準、430万台は2010年5月に匹敵する水準である。400万台から430万台の変化に、前回のケースでは4ヶ月かけて到達したところ、今回は2ヶ月で到達している。前回のケースでは、ピークとなった450万台前後へ乗せるのに3~4ヶ月かかっていることを踏まえると、今回は2012年7月あたりで450万台前後に乗せる可能性もありそうだ。業界内で、今回の補助金が2012年7月に終了との噂が流れている点とも符合する。

 本コンテンツは全5章構成、約8,700文字と図表8点で構成されています。全文は、会員サービスでのご提供となっております。
 以降の閲覧には会員サービスご登録が必要です。

メ会員のご案内についてはこちらをご覧ください。
会員の方は、下記をクリックして全文をご利用ください。
 

参照コンテンツ

新着記事

2024.11.20

24年9月の「旅行業者取扱高」は19年比で75%に

2024.11.19

24年10月の「景気の先行き判断」は2ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.11.19

24年10月の「景気の現状判断」は8ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.11.18

企業活動分析 アルファベット(グーグル)の23年12月期は、グーグルサービスがけん引し売上過去最高を更新

2024.11.18

企業活動分析 アマゾンの23年12月期はAWSがけん引し営業利益前年比3倍へ

2024.11.15

24年9月の「現金給与総額」は33ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.11.14

24年9月の「消費支出」は5ヶ月連続のマイナスに

2024.11.14

24年9月の「家計収入」は5ヶ月ぶりのマイナス

2024.11.13

24年9月は「完全失業率」、「有効求人倍率」とも改善

2024.11.12

企業活動分析 ローソンの23年2月期は、「地域密着×個客・個店主義」徹底し増収増益

2024.11.12

企業活動分析 セブン&アイHDの24年2月期は海外事業の影響で減収も過去最高益を更新

2024.11.11

24年10月の「乗用車販売台数」は2ヶ月連続のプラス

2024.11.08

消費者調査データ No.416 レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア

2024.11.07

企業活動分析 楽天グループの23年12月期は27期連続増収も、モバイルへの投資で4期連続の赤字

2024.11.07

24年9月の「新設住宅着工戸数」は5ヶ月連続のマイナス

2024.11.06

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場  背景にある簡便化志向や節約志向

2024.11.05

企業活動分析 ファンケルの24年3月期算は国内売上がけん引し、3期ぶりの増収増益へ

2024.11.05

企業活動分析 コーセーの23年12月期は、国内好調も中国事業低迷で増収減益に

2024.11.01

成長市場を探せ コロナ禍の落ち込みから再成長する惣菜食市場(2024年)

2024.10.31

月例消費レポート 2024年10月号 消費は緩やかな改善が続いている-政治が消費回復のリスクに

2024.10.31

消費からみた景気指標 24年8月は6項目が改善

週間アクセスランキング

1位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

2位 2017.09.19

MNEXT 眼のつけどころ なぜ日本の若者はインスタに走り、世界の若者はタトゥーを入れるのか?

3位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

4位 2024.02.02

成長市場を探せ コロナ禍乗り越え再び拡大するチョコレート市場(2024年)

5位 2021.05.25

MNEXT 眼のつけどころ プロ・マーケティングの組み立て方 都心高級ホテル競争 「アマン」VS.「リッツ」(1)

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area