(1)生活実感に即した消費指標
最近、景気の先行きへの不安が高まりつつある。政府の月例経済報告や日銀の短観はともに、景気の現状は弱含みと見ており、更なる下ブレリスクも高まっているとのスタンスを強めている。GDP統計では2007年度は一貫して実質プラス成長を保ってきた消費も、2008年の4‐6月期は実質マイナス成長となった。消費者態度指数の動きから示唆される消費マインドの悪化傾向は、2008年に入ってからより鮮明なものとなっている。消費の先行きについては予断を許されない状況にあり、今後の消費動向の見極めが難しい岐路に我々は今立たされているといえよう。消費に焦点を当てた研究・分析を一貫して進めてきた当社では、消費関連の政府統計および業界統計の中から代表的なものをピックアップし、1990年以降における前年同月比の変化の推移を、月次ベースの長期時系列データとして提供している(詳細は「消費からみた景気指標」参照)。消費の変化を捉えるこれらの統計をベースに、消費者の生活実感に即した消費の指標を次のような方法で構成した。
指標のベースとなる統計データは、次の三つのカテゴリーに整理される(図表1)。
第1のカテゴリーは、支出全般の傾向をとらえるデータ群である。そこには、消費者側から支出全般の傾向をとらえたものとして消費支出、平均消費性向、預貯金の三つが、販売側からとらえたものとして百貨店売上高、チェーンストア売上高が該当する。第2のカテゴリーは雇用・収入環境をとらえるデータ群であり、有効求人倍率、月間所定外労働時間のふたつが該当する。第3のカテゴリーは、支出の中身をとらえるデータ群である。その内訳を見ると、ひとつは日常的支出に分類されるものであり、チェーンストア売上高のうちの食料品売上や衣料品売上、外食のファーストフード売上やファミリーレストラン売上などが含まれている。大型耐久財として新設住宅着工戸数や新車販売台数、その他の耐久消費財としてチェーンストア売上高のうちの家具・インテリア売上や家電製品売上、更にレジャーとして旅行業者取扱額などがある。
消費の変化傾向を捉えるために、指標のベースとなる統計データ16種類からチェーンストア売上高を除く15種類を選別し、景気動向指数のDIの作成手続きにならって、そのうちで対前年同期比がプラスになった個数の比率を%表示で算出した。ちなみに、チェーンストア売上高をINDEXの構成要素から除いたのは、チェーンストア売上高全体の動向と、そのサブカテゴリーにあたる食料品、衣料品、家具・インテリア、家電製品の4種を併せた売上高の動向との間で、相関が高くなるからである。そのため、支出の中身の変化を捉えるものとして、4種の売上高の方をINDEXの構成要素として優先させた。
このようにして作られた消費の指標を以降では、消費INDEXと呼ぶこととする。
図表1.消費INDEXの構成要素一覧 |
(2)消費INDEXを通じてリアルな消費の姿をとらえる試み
この消費INDEXは、月ベースでの家計の入りと出の両面で、消費者の「さいふのひも」の締り具合を表現したものといえる。月ベースでの家計の入りの変化は主に、パートなどを含めた働き口の見つかり具合(その代理指標が有効求人倍率)と残業代の増え方(その代理指標が月間所定外労働時間)でとらえられる。家計の出を表す支出の中身として我々が注目するのは、食品(外食含む)と衣料品を中心とする日常的支出、住宅や自動車などのように投資的側面の強い大型耐久財、家具・インテリアや家電製品などのように前者と比べてれば投資側面がやや弱いその他耐久消費財、旅行を中心としたレジャーである。
これらの入りと出の兼ね合いから決まる支出全般の状況を表すのが、支出の金額ベースの伸び(その代理指標が消費支出)や、月ベースの収入から支出へお金が回っている割合(その代理指標が平均消費性向)などである。月ベースの収入変動とは独立になされる可能性のある、大型耐久財やその他の耐久財などへのまとまった支出の変動を裏側からとらえているのが、消費者の支出余力の変化(その代理指標が預貯金)である。
INDEXに採用したデータには制約や限界が伴うが、この消費INDEXでは、大手業者経由で買い物をする、一般的な勤め人家計の「さいふのひも」の締り具合の変化傾向が表現されているとみなせる。
こうした消費の指標をもとに、消費の長期的な変化傾向を読み解く試みは、過去にも行っている(詳細は「提言論文:消費指標にみるこの10年」参照)。今後、月例消費レポートとして、各月のトピックとして注目すべき消費関連指標の動向を整理しつつ、消費INDEXの推移をもとに現況判断と見通しを示していく。
(1)過去5年間の消費INDEXの動き
図表2.消費INDEXの時系列推移 |
図表2には、月次ベースでのINDEXの原数値の動きを示した折れ線グラフ(水色線)と、原数値グラフの近似曲線(濃青色線)が表示されている。INDEXの数値は、2006年3月に86.7で最大になっているが、これは当該年月に15種類中13種類で前年同月よりも数値が改善したことを意味する。他方、2003年5月、2003年11月、2007年5月、2008年5月の4回は、INDEXの数値が13.3で最小となっており、当該年月に15種類中2種類しか前年同月よりも数値が改善していなかったことを意味する。
原数値グラフの近似曲線は、6次の多項式で近似したものである。この近似曲線をもとにINDEXの趨勢をみると、消費は03年以降上昇トレンドに入り、04年には上昇ペースが加速している。05年に入ると上昇ペースが緩やかになり、同年半ばにピークを打って後は06年を通じて下降トレンドにあったが、07年に入り一旦下落に歯止めがかかった格好であった(図表2)。
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