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(2009.07)
月例消費レポート 2009年7月号
エコ景気対策で高まる景気底打ち感も、見えぬ本格回復シナリオ
主任研究員 菅野 守

1.はじめに
 景気底打ちの判断が各方面から出だしている。
 内閣府が2009年7月6日発表した2009年5月の景気動向指数(速報値、2005年=100)によると、景気の現状を示す一致指数は前月比+0.9ポイントの86.9と、2ヶ月連続での上昇となった。数ヶ月先の景況を示す先行指数も+0.8ポイントの77.0と、3ヶ月連続でのプラスとなっている。
 2009年6月17日に公表された2009年6月の月例経済報告によると、景気の現状について5月時点の「景気は、厳しい状況にあるものの、このところ悪化のテンポが緩やかになっている」から「景気は、厳しい状況にあるものの、一部に持ち直しの動きがみられる」へと2ヶ月連続で上方修正されており、「悪化」という表現が2008年11月以来7ヶ月ぶりに削除された点は特筆できる。
 個別項目のうち、個人消費、輸出、輸入、生産、倒産件数の五つは上方修正された。中でも個人消費は、消費総合指数が2ヶ月連続で上昇となったことや、経済対策の効果で、自動車販売など一部に持ち直しの動きがみられることを受けて、2007年6月以来2年ぶりの上方修正となった。他方、設備投資と住宅投資はともに「減少している」から「大幅に減少している」へと下方修正されている。海外経済については5月に引き続き据え置きの判断となったが、地域別ではアジアについて、「中国では景気は持ち直しつつあり、それ以外の国・地域では全般的に深刻な状況にあるが、一部で生産に持ち直しの動きがみられる」へと上方修正がなされている。
 景気の先行きについては、「当面、雇用情勢が悪化するなかで、厳しい状況が続くとみられるものの、在庫調整圧力の一層の低下や経済対策の効果が景気を下支えすることに加え、対外経済環境が改善することにより、景気は持ち直しに向かうことが期待される」とし、前月と同様、今後への明るさを示唆する内容となっている。ただし、内閣府幹部からは「今表れてきている一部の持ち直しの動きが広がり、持続しなければ景気回復ということにはならない」との指摘の上で「国内での調整圧力が残る中で、海外部門において中国などを中心に若干輸出関係が良くなってきているということで、何とか支えているところがあるため、そこがまた失速するということになると、2番底に陥るリスクがある」との見解も出されており、景気の先行きに対する警戒姿勢は崩していない。
 日本銀行が2009年7月1日に発表した2009年6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、大企業製造業の業況判断指数(DI)は-48であり過去最悪だった前回の3月短観と比べ+10ポイント、大企業非製造業のDIも-29と前回より+2ポイントとなっており、水準は低いながらもそれぞれ2年半ぶりの改善となった。他方、中小企業については、製造業DIが-57となり前回と同水準、非製造業がマイナス-44と9期連続の悪化となっており、景況感の回復の出遅れが目立つ。先行きについて、大企業製造業のDIは-30、大企業非製造業のDIは-21と更なる改善が見込まれてはいるものの、2009年度の設備投資計画は大企業製造業で前年度比-24.3%と6月調査としては過去最大のマイナス幅を記録しており企業の投資へのマインドはなお低い。雇用判断DIからも、雇用の過剰感はなお強い。
 底打ちの動きは、国全体だけでなく、地域経済でも認められている。
 経済産業省は2009年6月15日に開催した拡大経済産業局長会議において、全国10地域全体の景気の総括判断を、前回3月の「後退している」から「低迷しているものの一部に持ち直しの動き」へと、2006年4月以来約3年ぶりに上方修正した。全国10地域のうち沖縄を除く9地域で景況感が上昇しており、北海道、東北、関東の3地域では「一部に下げ止まりの動きがある」との判断が、他6地域では「一部に持ち直しの動き」との更に踏み込んだ判断が示されている。特に、東海など、自動車や家電生産が盛んな地域ほど景況感の改善が顕著に認められるという。唯一下方修正となった沖縄では、新型インフルエンザの影響で修学旅行などのキャンセルが相次ぎ、主力の観光業が低迷したことが、景況感の悪化に響いた模様だ。
 日本銀行により7月6日の支店長会議を経て取りまとめられた2009年7月の地域経済報告(さくらリポート)では、生産や輸出が持ち直しを受けて、9地域すべての総括判断が2006年1月以来3年半ぶりに上方修正された。ただ改善の水準自体は低く、景気の現状については「下げ止まりつつあるものの、引き続き厳しい」としており、特に、設備投資や個人消費の回復は鈍い。消費の先行きについては「ボーナスの大幅カットが避けられず、当面厳しい状況が続く」との見方が強く、設備投資も北海道、東海、近畿で減少幅が拡大していることから、「民間需要は引き続き弱まっていく可能性が高い」とする白川総裁の発言を含め、秋以降の景気の先行きに対しては慎重な見方を崩していない。
 景気はひとまず最悪期を脱したが改善の勢いはなく、「回復」と呼ぶにはほど遠いのが現実だ。雇用や設備投資に対する企業の姿勢は厳しく、個人消費も水準としては低調である。底入れした景気が再び下ぶれする懸念も根強い。政府は「景気底打ち」を宣言したものの、経済対策による「上げ底」の側面が強い。政策の効果が持続しているうちに自律的な本格回復に結びつけられるか、二番底へのリスクも孕みつつ日本経済は正念場を迎えている。

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