半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

(2009.12)
月例消費レポート 2010年1月号
「景気の二番底」「デフレスパイラル」の危機孕み2010年幕開け
主任研究員 菅野 守

1.はじめに
 景気の先行きに対する危機感は、消費者・企業・政府に止まらず、日銀も加えた四者間でのコンセンサスとなりつつあるようだ。
 2009年12月22日公表の2009年12月の月例経済報告によると、景気の現状については11月と同様、「景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。」とし、基調判断は5ヶ月連続の据え置きとなった。前月に新たに示された「緩やかなデフレ状況」との判断は、今月も維持している。景気の先行きについても前月同様、景気の下押しリスクへの警戒感を維持しつつも、景気の持ち直しへの期待材料として新たに「緊急経済対策の効果」の文言を加えており、経済対策の効果などでこの先底堅い推移が続くことへの期待感が示されている。
 個別項目を見ると、住宅建設は、新設住宅着工戸数が前月比で増加していることを材料に「緩やかに減少している」から「おおむね横ばいとなっている」へと、2009年9月以来3ヶ月ぶりに上方修正された。設備投資は「下げ止まりつつある」から「下げ止まりつつあるものの、このところ弱い動きもみられる」へと下方修正された。設備投資に対する判断は2009年11月に2ヶ月ぶりに上方修正されたばかりであり、上方修正の翌月に下方修正されるという1ヶ月での判断逆戻りは近年では異例のことである。設備投資の供給側統計である資本財出荷が持ち直しの動きを示している一方で、2009年7-9月期の法人企業統計の設備投資額は前期比で大幅な減少を見せていることなど、設備投資に関しても材料が強弱相半ばしており、政府としても判断が揺れ動いているようだ。個人消費については「持ち直しの動きが続いている」との判断を3ヶ月連続で維持したものの、消費者マインドに関しては景気ウォッチャー調査や消費動向調査などを踏まえ「持ち直している」から「おおむね横ばいとなっている」へと下方修正に踏み切っている。海外経済の現状については、「持ち直しの動きが広がっており、景気は下げ止まっている」から「景気は緩やかに持ち直している」へと文言が変更され、海外景気の回復傾向を確認するとともに、先行きについても「緩やかな持ち直しが続くと見込まれる」とし回復持続への期待感が示されている。地域別では、アジア地域については判断を据え置いている。米国については、「景気は下げ止まっている」から「景気は緩やかに持ち直している」へと文言が変更され、景気の回復傾向が確認されるなど、判断は上方修正されている。ただしヨーロッパについては、判断は基本的に据え置きとしているものの、先行きに対するリスク要因として新たに「新興国向け貸出の不良債権化による信用収縮」の文言が盛り込まれるとともに、「一部の国の財政悪化により、長期金利が急上昇するリスクに留意する必要がある」との言及がなされるなど、先行きに対する警戒感が示されている。
 日本銀行が12月14日に公表した第143回全国企業短期経済観測調査(短観:2009年12月)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業で‐24となり2009年9月の前回調査より9pt上昇している。業種別でみると、自動車、電気機械、鉄鋼、非鉄金属などで業況判断DIの改善幅が大きく、中でも、各国で販売促進策がとられている自動車は前回比+28ptの‐21、電気機械は前回比+16ptの‐17となっている。大企業非製造業の業況判断指数DIは前回比+2ptの‐22となった。業種別でみると、卸売、運輸、対事業所サービスなどで改善となった一方、対個人サービス、飲食店・宿泊、リースなどは悪化となっている。中堅企業製造業の業況判断DIは前回比+10ptの‐30、中堅企業非製造業の業況判断DIは前回比+1ptの‐29。中小企業製造業の業況判断DIは前回比+12ptの‐40、中小企業非製造業の業況判断DIは前回比+4ptの‐35である。業況判断DIの改善幅は、中小企業製造業を除く5部門で前回よりも下回っており、業況改善ペースの鈍化が認められる。3ヶ月先のDIの見通しとしては、大企業製造業で‐18(今回比+6pt)、大企業非製造業で‐19(今回比+3pt)と今回よりも更なる改善を見込んではいるが、大企業製造業での改善幅は今回よりも更に小さくなると予想されている。他方、残りの4部門では、中堅企業製造業で‐31(今回比‐1pt)、中堅企業非製造業で‐33(今回比‐3pt)、中小製造業で‐42(今回比‐2pt)、中小非製造業で‐41(今回比‐6pt)と、今回よりも更に悪化するとの予想が出されている。大企業での業況改善ペースの鈍化見通しと、中堅・中小企業での業況悪化見通しを踏まえると、企業の景況感は前回調査時点よりも厳しいものとなりつつある。
 企業の景況感の厳しさを反映し、設備投資や雇用に対する抑制姿勢が続いている。2009年度の設備投資計画は、大企業では前回調査時点よりも3.4pt低下の前年度実績比13.8%減、中小企業では前回調査時点よりも+4.0pt上昇の前年度実績比30.7%減となっており、ともに12月短観の設備投資計画としては過去最悪の数字である。2010年度の新卒採用計画は、大企業では、6月調査時点よりも6.0pt低下の前年度計画比30.5%減の見通しだが、これは調査開始以来過去2番目の減少率となる。大企業製造業における2009年度の想定レートは、前回調査時点より1円57銭円高の1ドル=92円93銭である。今回の回答期間は11月9日から12月11日までとなっていたが、回収基準日の11月27日までに7~8割の企業が回答済みであったといわれている。そのため、今回の調査結果には、ドバイショックやそれを契機とした1ドル=84円台への円急騰の影響は十分に織り込みきれてない可能性が高い。
 短観公表後で最も早い2009年12月18日に開かれた、日銀の金融政策決定会合では、物価安定について「(消費者物価上昇率が前年比)0%から2%程度の範囲内」としてきたこれまでの表現に新たに「0%以下のマイナス値は許容しない」が追加され、デフレ克服に向け、物価下落が続く間は低金利政策を継続するという、いわゆる「時間軸政策」導入の姿勢を示している。政府・日銀が一体となって景気回復に取り組む姿勢がはっきりしたことを受けて、12月22日の東京外国為替市場では1ドル=91円49銭と、10月30日以来約2ヶ月ぶりの円安ドル高水準に戻しはしたものの、足許の円ドル相場はなお想定レートを上回る円高水準にあり、このまま推移すれば更なる収益圧迫要因となりかねない。円高に加えデフレの進行に伴う価格競争の激化は、企業収益の減少から雇用・賃金の悪化を介し消費不振へとつながることで、景気が再び悪化していくという「二番底」への懸念を強めることで、企業の先行きに対する弱気見通しを助長している。
 消費者側と企業側ともにマインドの悪化が明らかとなってきており、消費者の側でのデフレ見通しも定着しつつある。雇用については一部統計数字で明るい材料が認められるものの、収入に関しては先行き厳しい見通しが根強い。消費については、購入数量を含めた本格調整の動きがまだみられない。だが今後、持続的な収入の減少に伴い、消費者が支出水準の大幅訂正に踏み切るか否かが、「デフレスパイラル」による景気の「二番底」へ突入するかどうかの分かれ目となる。

 本コンテンツの全文は、メンバーシップサービスでのご提供となっております。
 以降の閲覧にはメンバーシップサービス会員(有料)ご登録が必要です。

メンバーシップサービス会員のご案内についてはこちらをご覧ください。
メンバーシップサービス会員の方は、下記をクリックして全文をご利用ください。
   

新着記事

2024.11.20

24年9月の「旅行業者取扱高」は19年比で75%に

2024.11.19

24年10月の「景気の先行き判断」は2ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.11.19

24年10月の「景気の現状判断」は8ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.11.18

企業活動分析 アルファベット(グーグル)の23年12月期は、グーグルサービスがけん引し売上過去最高を更新

2024.11.18

企業活動分析 アマゾンの23年12月期はAWSがけん引し営業利益前年比3倍へ

2024.11.15

24年9月の「現金給与総額」は33ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.11.14

24年9月の「消費支出」は5ヶ月連続のマイナスに

2024.11.14

24年9月の「家計収入」は5ヶ月ぶりのマイナス

2024.11.13

24年9月は「完全失業率」、「有効求人倍率」とも改善

2024.11.12

企業活動分析 ローソンの23年2月期は、「地域密着×個客・個店主義」徹底し増収増益

2024.11.12

企業活動分析 セブン&アイHDの24年2月期は海外事業の影響で減収も過去最高益を更新

2024.11.11

24年10月の「乗用車販売台数」は2ヶ月連続のプラス

2024.11.08

消費者調査データ No.416 レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア

2024.11.07

企業活動分析 楽天グループの23年12月期は27期連続増収も、モバイルへの投資で4期連続の赤字

2024.11.07

24年9月の「新設住宅着工戸数」は5ヶ月連続のマイナス

2024.11.06

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場  背景にある簡便化志向や節約志向

2024.11.05

企業活動分析 ファンケルの24年3月期算は国内売上がけん引し、3期ぶりの増収増益へ

2024.11.05

企業活動分析 コーセーの23年12月期は、国内好調も中国事業低迷で増収減益に

2024.11.01

成長市場を探せ コロナ禍の落ち込みから再成長する惣菜食市場(2024年)

2024.10.31

月例消費レポート 2024年10月号 消費は緩やかな改善が続いている-政治が消費回復のリスクに

2024.10.31

消費からみた景気指標 24年8月は6項目が改善

週間アクセスランキング

1位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

2位 2017.09.19

MNEXT 眼のつけどころ なぜ日本の若者はインスタに走り、世界の若者はタトゥーを入れるのか?

3位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

4位 2024.02.02

成長市場を探せ コロナ禍乗り越え再び拡大するチョコレート市場(2024年)

5位 2021.05.25

MNEXT 眼のつけどころ プロ・マーケティングの組み立て方 都心高級ホテル競争 「アマン」VS.「リッツ」(1)

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area