2009年12月22日公表の2009年12月の月例経済報告によると、景気の現状については11月と同様、「景気は、持ち直してきているが、自律性に乏しく、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある。」とし、基調判断は5ヶ月連続の据え置きとなった。前月に新たに示された「緩やかなデフレ状況」との判断は、今月も維持している。景気の先行きについても前月同様、景気の下押しリスクへの警戒感を維持しつつも、景気の持ち直しへの期待材料として新たに「緊急経済対策の効果」の文言を加えており、経済対策の効果などでこの先底堅い推移が続くことへの期待感が示されている。
個別項目を見ると、住宅建設は、新設住宅着工戸数が前月比で増加していることを材料に「緩やかに減少している」から「おおむね横ばいとなっている」へと、2009年9月以来3ヶ月ぶりに上方修正された。設備投資は「下げ止まりつつある」から「下げ止まりつつあるものの、このところ弱い動きもみられる」へと下方修正された。設備投資に対する判断は2009年11月に2ヶ月ぶりに上方修正されたばかりであり、上方修正の翌月に下方修正されるという1ヶ月での判断逆戻りは近年では異例のことである。設備投資の供給側統計である資本財出荷が持ち直しの動きを示している一方で、2009年7-9月期の法人企業統計の設備投資額は前期比で大幅な減少を見せていることなど、設備投資に関しても材料が強弱相半ばしており、政府としても判断が揺れ動いているようだ。個人消費については「持ち直しの動きが続いている」との判断を3ヶ月連続で維持したものの、消費者マインドに関しては景気ウォッチャー調査や消費動向調査などを踏まえ「持ち直している」から「おおむね横ばいとなっている」へと下方修正に踏み切っている。海外経済の現状については、「持ち直しの動きが広がっており、景気は下げ止まっている」から「景気は緩やかに持ち直している」へと文言が変更され、海外景気の回復傾向を確認するとともに、先行きについても「緩やかな持ち直しが続くと見込まれる」とし回復持続への期待感が示されている。地域別では、アジア地域については判断を据え置いている。米国については、「景気は下げ止まっている」から「景気は緩やかに持ち直している」へと文言が変更され、景気の回復傾向が確認されるなど、判断は上方修正されている。ただしヨーロッパについては、判断は基本的に据え置きとしているものの、先行きに対するリスク要因として新たに「新興国向け貸出の不良債権化による信用収縮」の文言が盛り込まれるとともに、「一部の国の財政悪化により、長期金利が急上昇するリスクに留意する必要がある」との言及がなされるなど、先行きに対する警戒感が示されている。
日本銀行が12月14日に公表した第143回全国企業短期経済観測調査(短観:2009年12月)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、大企業製造業で‐24となり2009年9月の前回調査より9pt上昇している。業種別でみると、自動車、電気機械、鉄鋼、非鉄金属などで業況判断DIの改善幅が大きく、中でも、各国で販売促進策がとられている自動車は前回比+28ptの‐21、電気機械は前回比+16ptの‐17となっている。大企業非製造業の業況判断指数DIは前回比+2ptの‐22となった。業種別でみると、卸売、運輸、対事業所サービスなどで改善となった一方、対個人サービス、飲食店・宿泊、リースなどは悪化となっている。中堅企業製造業の業況判断DIは前回比+10ptの‐30、中堅企業非製造業の業況判断DIは前回比+1ptの‐29。中小企業製造業の業況判断DIは前回比+12ptの‐40、中小企業非製造業の業況判断DIは前回比+4ptの‐35である。業況判断DIの改善幅は、中小企業製造業を除く5部門で前回よりも下回っており、業況改善ペースの鈍化が認められる。3ヶ月先のDIの見通しとしては、大企業製造業で‐18(今回比+6pt)、大企業非製造業で‐19(今回比+3pt)と今回よりも更なる改善を見込んではいるが、大企業製造業での改善幅は今回よりも更に小さくなると予想されている。他方、残りの4部門では、中堅企業製造業で‐31(今回比‐1pt)、中堅企業非製造業で‐33(今回比‐3pt)、中小製造業で‐42(今回比‐2pt)、中小非製造業で‐41(今回比‐6pt)と、今回よりも更に悪化するとの予想が出されている。大企業での業況改善ペースの鈍化見通しと、中堅・中小企業での業況悪化見通しを踏まえると、企業の景況感は前回調査時点よりも厳しいものとなりつつある。
企業の景況感の厳しさを反映し、設備投資や雇用に対する抑制姿勢が続いている。2009年度の設備投資計画は、大企業では前回調査時点よりも3.4pt低下の前年度実績比13.8%減、中小企業では前回調査時点よりも+4.0pt上昇の前年度実績比30.7%減となっており、ともに12月短観の設備投資計画としては過去最悪の数字である。2010年度の新卒採用計画は、大企業では、6月調査時点よりも6.0pt低下の前年度計画比30.5%減の見通しだが、これは調査開始以来過去2番目の減少率となる。大企業製造業における2009年度の想定レートは、前回調査時点より1円57銭円高の1ドル=92円93銭である。今回の回答期間は11月9日から12月11日までとなっていたが、回収基準日の11月27日までに7~8割の企業が回答済みであったといわれている。そのため、今回の調査結果には、ドバイショックやそれを契機とした1ドル=84円台への円急騰の影響は十分に織り込みきれてない可能性が高い。
短観公表後で最も早い2009年12月18日に開かれた、日銀の金融政策決定会合では、物価安定について「(消費者物価上昇率が前年比)0%から2%程度の範囲内」としてきたこれまでの表現に新たに「0%以下のマイナス値は許容しない」が追加され、デフレ克服に向け、物価下落が続く間は低金利政策を継続するという、いわゆる「時間軸政策」導入の姿勢を示している。政府・日銀が一体となって景気回復に取り組む姿勢がはっきりしたことを受けて、12月22日の東京外国為替市場では1ドル=91円49銭と、10月30日以来約2ヶ月ぶりの円安ドル高水準に戻しはしたものの、足許の円ドル相場はなお想定レートを上回る円高水準にあり、このまま推移すれば更なる収益圧迫要因となりかねない。円高に加えデフレの進行に伴う価格競争の激化は、企業収益の減少から雇用・賃金の悪化を介し消費不振へとつながることで、景気が再び悪化していくという「二番底」への懸念を強めることで、企業の先行きに対する弱気見通しを助長している。
消費者側と企業側ともにマインドの悪化が明らかとなってきており、消費者の側でのデフレ見通しも定着しつつある。雇用については一部統計数字で明るい材料が認められるものの、収入に関しては先行き厳しい見通しが根強い。消費については、購入数量を含めた本格調整の動きがまだみられない。だが今後、持続的な収入の減少に伴い、消費者が支出水準の大幅訂正に踏み切るか否かが、「デフレスパイラル」による景気の「二番底」へ突入するかどうかの分かれ目となる。
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参考文献
本論文に関連する統計データ