2010年3月15日公表の2010年3月の月例経済報告によると、景気の現状について3月は2月の表現から「着実に」という言葉を加えて「持ち直し」を強調する形に変更、「景気は、着実に持ち直してきているが、なお自律性は弱く、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある。」とし、基調判断は2009年7月以来8ヶ月ぶりに上昇修正された。先行きについては、「当面、雇用情勢に厳しさが残るものの、企業収益の改善が続くなかで、海外経済の改善や緊急経済対策の効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。」へと、2月の表現から新たに「企業収益の改善が続くなかで」の文言が加わり、判断の上昇修正がなされている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、「海外景気の下振れ懸念、デフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある」とし、2月の表現から「雇用情勢の一層の悪化」の表現が削除されている。雇用情勢については新たに、「また、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」との但し書きが追加されてはいるものの、それまでの強い警戒感からは一段緩められた判断が示されている。
個別項目を見ると、個人消費、設備投資、住宅建設、企業収益、雇用情勢の5項目が上方修正される一方、判断が引き下げられた項目はひとつもなかった。個人消費では、政策効果を支えに堅調さの続く自動車・家電に加え、今まで低調だった外食や旅行などのサービス関連にも回復のすそ野が広がりつつあることを受けて、「持ち直しの動きが続いている」から「持ち直している」へと8ヶ月ぶりの上方修正されている。設備投資では、2009年10-12月期のGDP一次速報で実質成長率が7四半期ぶりに前期比でプラスになったことを材料に、「下げ止まりつつあるものの、このところ弱い動きもみられる」から「下げ止まりつつある」へと4ヶ月ぶりに上方修正されている。住宅建設では、「このところ持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」へと2ヶ月ぶりに上方修正されたが、住宅ローン減税の効果などにより新設住宅着工戸数が前月比で5ヶ月連続上昇しているのを受けてのものといえよう。企業収益では、法人企業統計で2009年10-12月期に経常利益が10四半期ぶりに前年同期比でプラスとなったことが好感され、「大幅な減少が続いているが、そのテンポは緩やかになっている」から「改善している」へと6ヶ月ぶりに上方修正されている。雇用情勢では、失業率と有効求人倍率ともに改善が続き雇用悪化に歯止めがかかったことなどを踏まえ、「依然として厳しい」から「依然として厳しいものの、このところ持ち直しの動きがみられる」へと4ヶ月ぶりに上方修正された。5項目ものの上方修正は、8ヶ月ぶりのこととなる。
海外経済の現状については前月同様、「景気は緩やかに持ち直している」としており、先行きについても「緩やかな持ち直しが続くと見込まれる」との判断を維持している。地域別にみると、米国、ヨーロッパ、中国、インド、その他のアジア地域のいずれもが、現状と先行きともに判断を据え置いているが、インドに関しては、物価上昇による景気の下押しリスクに言及がなされている。
今回の上昇修正の背景について、月例経済報告等に関する関係閣僚会議終了後の会見の中で、菅直人副総理兼財務・経済財政担当相からは「国内民間需要の自律的な回復の芽が出つつある。(景気の)二番底懸念は払拭しつつある」と、景気の先行きについて前向きなコメントが出されるとともに、「ネガティブな要素が少し減り、表現は若干上向きでいいと判断した」との言及もなされている。ただし、津村啓介内閣府政務官は「景気回復という判断までは、たとえ緩やかという修飾語をつけても、まだあと一歩と思っている」とし、クリアすべき課題がなお残っているとの認識を示したうえで、景気回復との判断に至るには「現在の生産の持ち直しや企業収益の改善が、設備投資の増加や家計所得の改善を通じた個人消費の増加につながり、収益・所得面と支出面の好循環が起きる形で自律性が見られるようになるのがポイントだ」とのコメントが出されている。
政府から示された景気判断の上昇修正と上述の景気回復シナリオに対し、民間の反応は冷ややかである。長期化するデフレからの脱却の目処は今なお立たず、企業の生産は回復基調にあるとは言っても、その水準はまだピーク時の8割程度に止まる。雇用情勢も、新卒学生の就職内定率が過去最低水準となるなど、厳しい状況に変わりはない。所得も目に見えて改善したわけではないことから、消費者から見ても景気回復の実感は乏しい。政府の対応も力強さに欠け、2009年度第二次補正予算で7兆円超の景気対策を盛り込んではいるが対症療法の域を出ない。2010年度当初予算では、公共事業費を前年度比18%削減するなどしており、これでは景気にマイナスの影響が出るとまで言われるほどだ。「子ども手当」をはじめとして、鳩山政権の経済政策は「家計重視」の傾向が強く、企業への対応はむしろ冷淡だとさえ言われている。消費はもっぱら政府の経済対策で持ちこたえてはいるが、今年前半には政策効果の息切れも予想され、景気が一時停滞するとの懸念も強い。海外経済の先行きも不透明であり、トヨタ自動車のリコール問題が輸出に与えるマイナス影響がどのくらいになるのかも今なお読めない。企業の業績改善から家計所得増加を経て個人消費増加へとつながり、更には企業の業況改善へとつながるという「好循環」が期待できるのは、まだ先の話と見ておくが無難なようだ。
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