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(2010.04)
月例消費レポート 2010年4月号
「景気の二番底」「デフレスパイラル」の危機脱し、本格回復へ
主任研究員 菅野 守

1.はじめに
 二番底は遠のきデフレスパイラルの危機は脱しつつある中で、景気は自律回復への道筋を模索する局面に入ったようだ。
 2010年4月16日公表の2010年4月の月例経済報告によると、景気の現状については3月と同様、「景気は、着実に持ち直してきているが、なお自律性は弱く、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある。」とし、基調判断を据え置いた。先行きについては一部文言の変更はあるものの主旨は前月と変わらず、「先行きについては、当面、雇用情勢に厳しさが残るものの、企業収益の改善が続くなかで、海外経済の改善や緊急経済対策を始めとする政策の効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。」として、判断を据え置いている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても前月同様、「海外景気の下振れ懸念、デフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。また、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」としている。
 個別項目を見ると、業況判断を上方修正される一方で、公共投資と倒産件数は下方修正されている。企業の業況判断は、「依然として厳しい状況にあるものの、全体として持ち直しの動きが続いている。」から「改善している。」へと、2009年10月以来6ヶ月ぶりに上方修正されが、これは日本銀行が2010年4月1日に公表した「第144回企業短期経済観測調査(短観:2010年3月調査)」で、企業の景気認識を示す業況判断指数が前回の2009年12月調査よりも大幅に改善したことを受けてのものである。公共投資は、予算執行の端境期にあたったことや2009年度第2次補正予算での工事受注額の減少などが影響し、「総じて堅調に推移しているが、このところ弱い動きもみられる。」から「このところ弱含んでいる」へと、2ヶ月ぶりの下方修正となった。倒産件数は「緩やかに減少している。」から「おおむね横ばいとなっている。」へと、2008年10月以来18ヶ月ぶりの下方修正となったが、これは公共事業の前倒し執行の効果が息切れする中で、特に地方圏での建設業の倒産が増えたことを踏まえてのものである。残る物価情勢や輸出、設備投資、個人消費、住宅建設については、判断を据え置いている。特に個人消費については、家計の消費と販売側の両方を調査した「消費総合指数」が2010年2月まで12ヶ月連続での上昇を続けていることから、前月同様「持ち直している」との判断で据え置いている。
 海外経済の現状については前月同様、「景気は緩やかに持ち直している」としており、先行きについても「緩やかな持ち直しが続くと見込まれる」との判断を維持している。地域別にみると、米国、ヨーロッパ、中国、インド、その他のアジア地域のいずれもが、現状と先行きともに判断を据え置いている。ただし米国については景気低迷のリスクとして2010年3月の「信用収縮の継続や雇用の悪化等」から2010年4月には「信用収縮や高い失業率が継続すること等」へと文言が修正されており、特に高失業がもたらす景気腰折れリスクへの警戒感が示されている。
 月例経済報告等に関する関係閣僚会議終了後の会見の中で、菅直人副総理兼財務・経済財政担当相からは「経済状況は上向いており、二番底懸念は薄らいだ」との前向きなコメントが出されるとともに、今回の月例報告の作成段階で「市場には上方修正への期待がある」との進言を受けていたことを漏らしており、日本経済の現状について「危機的状況」を脱したとの見方が政府内で広まっていることが示唆されてはいる。しかしながら、津村啓介内閣府政務官からは、基調判断据え置きの背景として、「業況判断はマインド面では上がっているが、公共投資、倒産件数で下方修正した。こういった下振れリスクをもう少し丁寧にみていく必要がある」との言及がなされた上で、プラス・マイナス両面を踏まえて「政策効果を見守るという判断に落ち着いた」との説明が加えられている。更に物価については、「引き続き需給ギャップのマイナス幅が大きいことも含め、最終財、サービス価格への価格転嫁は容易ではない。デフレ脱却への道はなお遠い」と述べた上で、内需を起因としない価格上昇、つまり原油上昇といった外的要因が卸売段階での物価に圧力をかけ始めてはいるものの、デフレ脱却には「距離があるという印象」を示している。脱却の兆候すら見えないデフレが、実体経済における回復の手ごたえをつかみにくいものにしているようだ。
 物価の舵取りを任されている日本銀行の側でも、景気の先行きに対する楽観的スタンスは共有されているようだ。2010年4月6日と7日に開かれた日本銀行・金融政策決定会合において、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.1%前後に据え置くことを決定した。景気の現状については、「国内民間需要の自律的回復力はなお弱いものの、海外経済の改善や内外の各種対策の効果などから持ち直しを続けている」とし、これまでの「持ち直している」から「持ち直しを続けている」へとやや上方修正された形だ。判断の上方修正の背景として、新興国経済の成長を背景に輸出や生産が好調に推移していることや、企業の景況感については「引き続き改善している」ことが挙げられる。消費者物価(生鮮食品を除く)については「前年比で下落幅は縮小していると考えられる」との表現に据え置かれてはいるが、デフレの勢いは徐々に弱まりつつあると見ていることは確かだ。後日、2010年4月15日に開かれた日本銀行の支店長会議の場でも、白川方明総裁は国内景気の現状について「民間需要の自律的回復力はなお弱いものの、海外経済の改善や各種対策の効果などから、持ち直しを続けている」と評価し、国内景気の先行きについても「ひところ市場などで懸念されたような、景気が再び大きく落ち込む恐れはかなり後退したとみられる」として「二番底」が遠のいたとの認識を示している。金融政策の運営については、「日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要」との立場を示した上で、「緩和的な金融環境を維持していく」との方針を示している。
 政府・日本銀行ともに、デフレ脱却を最重要課題に据えてはいるが、その道筋と必要な対応策は、上記の議論の範囲ではなお判然とはしていない。デフレ対策への手詰まり感が実体経済への波及経路に対する疑念を惹起し、景気の自律回復へのシナリオをも描きづらいものにしているようだ。

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