2010年6月18日公表の2010年6月の月例経済報告によると、景気の現状について「景気は、着実に持ち直してきており、自律的回復への基盤が整いつつある」とし、3ヶ月ぶりに基調判断は上方修正された。ただし雇用情勢の厳しさを受けて前月同様、「失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある」との見方を崩してはいない。先行きについても現状判断と呼応する形で、前月の「景気の持ち直し傾向が続くことが期待される」から「景気が自律的な回復へ向かうことが期待される」へと、判断の上方修正がなされている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても前月と同様、「欧州を中心とした海外景気の下振れ懸念、金融資本市場の変動やデフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。また、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である」との言及がなされている。
個別項目を見ると、設備投資は、2010年1‐3月期のGDP速報で堅調な回復を続けていることが確認されたことを受けて、前月の「下げ止まりつつある」から6月は「下げ止まっている」へと3ヶ月ぶりに上方修正された。他方、住宅建設は前月の「持ち直している」から6月は「持ち直してきたが、このところ横ばいとなっている」へと1年ぶりに下方修正され、公共投資は前月の「このところ弱含んでいる」から6月は「総じて低調に推移している」へと2ヶ月ぶりに下方修正されている。
海外経済の現状については前月同様「世界経済は失業率が高水準であるなど引き続き深刻な状況にあるが、景気刺激策の効果もあって、景気は緩やかに回復している。」とし、判断を据え置いている。先行きについても同様、「緩やかな回復が続くと見込まれる」との判断を維持している。ただし海外経済の先行きに対するリスク要因として引き続き、「ヨーロッパを中心とする金融市場の変動の深刻化や、信用収縮、雇用の悪化等により、景気回復が停滞するリスクがある」との認識を崩していない。地域別にみると、インドについては現状と先行きともに判断は上方修正され、米国、中国、その他アジア地域、ヨーロッパ地域については現状維持となっている。
荒井聰経済財政相を始めとする内閣府関係者からは、景気の自律的回復が視野に入ってきた旨の見解が示されているが、個別項目等で強弱相半ばする材料が出ていることへの判断が政府内部でも分かれたために、今月の「景気回復宣言」は見送りとなった模様だ。
2010年7月1日に日本銀行より公表された第145回全国企業短期経済観測調査(日銀短観:2010年6月調査)によると、業況判断DIは全産業で前回(2010年3月調査)比+9ptの-15へと改善している。製造業・非製造業別・企業規模別にみると、大企業製造業で前回比+15ptの+1、大企業非製造業では前回比+9ptの-5、中堅企業製造業で前回比+13ptの-6、中堅企業非製造業では前回比+8ptの-13、中小企業製造業で前回比+12ptの-18、中小企業非製造業では前回比+5ptの-26となっており、製造業・非製造業の別や企業規模の違いを問わず業況の改善が確認された。大企業製造業と大企業非製造業ではDIが5期連続の改善となるとともに、特に大企業製造業でDIの数値がプラスとなるのは2008年6月調査以来2年ぶりのことである。業種別にみると、大企業製造業では16業種全てでDIが前回よりも改善、中堅企業製造業では金属製品を除く15業種で、中小企業製造業では石油・石炭製品と窯業・土石製品を除く14業種で、前回に比べDIの改善が認められる。
ただし、3ヶ月後の先行きに対するDIは、全産業では今回(2010年6月調査)比-1ptの-16とわずかながら悪化が見込まれている。製造業・非製造業別・企業規模別にみると、大企業製造業で今回比+2ptの+3、大企業非製造業で今回比+1ptの-4と、大企業では引き続き改善が見込まれているが、改善のペースは今回よりも鈍化する見通しである。また、中堅企業製造業で今回比-2ptの-8、中堅企業非製造業では今回比-1ptの-14、中小企業製造業で前今回比-1ptの-19、中小企業非製造業では今回比-3ptの-29と、中堅・中小企業ではDIは悪化となる見込みである。
2010年度の設備投資計画は、全産業では前年度比+0.5%、特に製造業では前年度比+2.8%と、プラス成長の見通しである。製造業・非製造業別・企業規模別に着目すると、大企業全産業で前年度比+4.4%、大企業製造業で前年度比+3.8%、大企業非製造業で前年度比+4.6%となっており、大企業では2007年度以来3年ぶりのプラス成長が見込まれる。
政府は足許の判断は一旦慎重姿勢をみせたものの、先行きについては景気回復への期待感をにじませている。他方、日銀短観から見えてくる企業のスタンスは、足許の改善傾向は認めつつも、海外景気の見通しの不透明さや円高リスクなどもあいまって景気の先行きへの慎重姿勢を崩してはいない。景気の自律回復への手ごたえをつかめるまでは、官民における現状判断と先行きに対する判断のねじれは暫く続きそうだ。
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参考文献
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