2010年8月10日公表の2010年8月の月例経済報告によると、景気の現状については前月同様、「景気は、着実に持ち直してきており、自律的回復への基盤が整いつつあるが、失業率が高水準にあるなど依然として厳しい状況にある」とし、3ヶ月連続で基調判断を据え置いた。先行きについても現状判断と呼応する形で、前月とほぼ同様、「先行きについては、当面、雇用情勢に厳しさが残るものの、海外経済の改善や各種の政策効果などを背景に、企業収益の改善が続くなかで、景気が自律的な回復へ向かうことが期待される。」とし、3ヶ月連続での判断据え置きとなった。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、「一方、アメリカ・欧州を中心とした海外景気の下振れ懸念、金融資本市場の変動やデフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。また、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」としており、前月と同様のスタンスを保っている。
個別項目を見ると、生産のみが変更となっており、残りの項目は前月から判断据え置きとなっている。業況判断での変更内容として、2010年7月の「持ち直している。」から8月には「緩やかに持ち直している。」へと判断が下方修正されているが、これは2009年1月以来19ヶ月ぶりのことである。
海外経済の現状については前月同様「世界経済は失業率が高水準であるなど引き続き深刻な状況にあるが、景気刺激策の効果もあって、景気は緩やかに回復している。」とし、判断を据え置いている。先行きについても同様、「緩やかな回復が続くと見込まれる」との判断を維持している。海外経済の先行きに対するリスク要因については、「ただし、回復のテンポは更に緩やかになる可能性がある。また、信用収縮、高い失業率が継続すること等により、景気回復が停滞するリスクがある。さらに、各国の財政緊縮をはじめ財政政策のスタンスの変化による影響に留意する必要がある。」とし、前月よりも踏み込んだ言及がなされている。
地域別にみると、米国とインドは、現状と先行きともに判断は据え置きとなっている。ヨーロッパ地域に関しては、景気の現状について「総じて景気は下げ止まっており、一部では持ち直している。」との文言が新たに追加され、現状判断は9ヶ月ぶりに上方修正されている。先行きについては、前月と同様、「基調としては緩やかな持ち直しに向かうと見込まれる。」とし、判断を据え置いている。今後のリスク要因については、「ただし、金融システムに対する懸念が完全に払拭されていないこと、高い失業率が継続すること等により、景気が低迷を続けるリスクがある。また、各国の財政緊縮による影響に留意する必要がある。」との言及がなされているが、ギリシャ財政危機を端緒とする金融市場の混乱に対する警戒感が強かった前月に比べ、ややトーンダウンした格好だ。中国に関しては、景気の現状について「このところ拡大テンポがやや緩やかになっている」との文言が新たに追加され、現状判断は下方修正されているが、これは2009年2月以来18ヶ月ぶりのことである。先行きについても、現状判断と呼応する形で「テンポは緩やかになるものの拡大傾向が続くと見込まれる。」へと文言が修正され、更に「ただし、不動産価格や欧米向け輸出の動向に留意する必要がある。」との言及が新たになされるなど、前月よりも踏み込んだ判断が示されている。その他アジア地域に関しては、現状と先行きともに判断は概ね据え置きとしてはいるが、今後のリスク要因として「ただし、欧米等の景気が下振れした場合には、輸出の減少等により、景気回復が停滞するリスクがある。」との言及がなされるなど、欧米等の景況感悪化による景気の停滞懸念が示されている。
荒井聰経済財政相を始めとする内閣府関係者は、今後の海外経済や雇用情勢の動向を注視しており、今後の景気に関する下方リスクとして、世界経済の先行きに対する不透明感や経済対策の効果切れなどに触れている。海外経済の減速に伴う景気の踊り場入りのリスクに言及するなど、海外の景況感の悪化が日本の景気にもたらす悪影響への懸念は強く、中国経済の減速懸念に対しては、日本経済への波及効果の大きさから、特に強い警戒感を示している。円高の進行に対する言及は8月の月例報告の中に明確に盛り込まれてはいないものの、円高が輸出にもたらすマイナスの影響と国内景気への余波に対しても警戒姿勢を解いてはいない。
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