2011年6月20日に内閣府より公表された「月例経済報告(平成23年6月)」によると、景気の現状については、前月5月の「景気は、東日本大震災の影響により、このところ弱い動きとなっている。」から、6月は「景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなかで、このところ上向きの動きがみられる。」へと、基調判断は4ヶ月ぶりに上方修正された。先行きについては、前月の「当面は東日本大震災の影響から弱い動きが続くと見込まれる。その後、生産活動が回復していくのに伴い、海外経済の改善や各種の政策効果などを背景に、景気が持ち直していくことが期待される」から、6月は「サプライチェーンの立て直しが進み、生産活動が回復していくのに伴い、海外経済の緩やかな回復や各種の政策効果などを背景に、景気が持ち直していくことが期待される。」へと一部文言が修正されている。中でも、東日本大震災でダメージを受けたサプライチェーンの早期復旧の動きを好感し、先行き改善の見通しを前月よりも強くにじませる内容となっている。景気の下押しリスクをもたらす要因について、6月は「電力供給の制約や原子力災害及び原油高の影響に加え、海外経済の回復がさらに緩やかになること等により、景気が下振れするリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」としており、前月に言及のあった「サプライチェーン立て直しの遅れ」の文言が削除される一方、「海外経済の回復がさらに緩やかになること」という文言が新たに盛り込まれ、海外経済の減速懸念に対し強い警戒感を示している。
個別項目を見ると、個人消費は、百貨店などの販売関連統計の持ち直しや消費マインドの悪化が一服したことなどを受けて、前月の「東日本大震災の影響により、このところ弱い動きがみられる。」から、6月は「引き続き弱さがみられるものの、下げ止まりつつある。」へと、15ヶ月ぶりに判断が上方修正された。生産については、前月の「東日本大震災の影響により、このところ生産活動が低下している。」から、6月は「東日本大震災の影響により減少していたが、上向きの動きがみられる。」へと、4ヶ月ぶりに判断は上方修正されている。輸出についても同様に、前月の「東日本大震災の影響により、このところ減少している。」から、6月は「減少していたが、上向きの動きがみられる。」へと、4ヶ月ぶりに上方修正されている。他方、雇用情勢については、前月の「依然として厳しいものの、持ち直しの動きがみられる。ただし、東日本大震災の影響により、一部に弱い動きもみられる。」から、6月は「東日本大震災の影響により、このところ持ち直しの動きに足踏みがみられ、依然として厳しい。」へと、21ヶ月ぶりに判断は下方修正されている。倒産件数も、震災関連の倒産が最近増えてきていることを受けて、前月の「おおむね横ばいとなっている。」から、6月は「緩やかな増加傾向にある。」へと、6ヶ月ぶりに下方修正されている。
海外経済の現状については前月の「世界経済は、全体として回復している。」から、6月は「世界経済は、全体として回復が緩やかになっている。」へと、2009年2月以来28ヶ月ぶりに判断が下方修正された。先行きについても、前月の「回復が続くと見込まれる。」から、6月は「緩やかな回復が続くと見込まれる。」へと文言が修正され、基調判断としては据え置きながらもややトーンダウンした格好だ。海外経済の先行きに対するリスク要因についても、前月の「欧米の景気が下振れするリスクがある。」から、6月は更に踏み込んで「ただし、欧米及びアジアの景気が下振れするリスクがある。」とし、これまで世界経済の成長のエンジンとなっていたアジア経済のスローダウンの可能性にまで言及するに至っている。
地域別にみると、アメリカに関しては、景気の現状について前月の「失業率が高水準であるものの、景気は回復している」から、6月は「景気回復が緩やかになっている」へと、28ヶ月ぶりに判断は下方修正されている。先行きについては、前月の「回復が続くと見込まれる。」から、6月は「緩やかな回復が続くと見込まれる。」へと文言が修正され、基調判断は据え置きながらややトーンダウンしている。今後のリスク要因については、前月の「信用収縮や高い失業率が継続すること等により、景気が下振れするリスクがある。」から、6月は「失業率の高止まりや住宅価格の下落等により、景気が下振れするリスクがある。」として、前月に言及のあった「信用収縮」の文言が削除される一方、「住宅価格の下落」という文言が新たに盛り込まれており、資産デフレの悪影響に対する警戒姿勢がうかがわれる。ヨーロッパ地域に関しては、景気の現状について前月の「景気は総じて持ち直しているものの、国ごとのばらつきが大きい。ドイツでは回復、フランスでは緩やかに回復している。英国では足踏み状態にある。」から、6月には新たに「一部に弱い動きがみられる。」が加えられ、判断は下方修正されている。先行きについては、前月同様、「基調としては緩やかに持ち直していくと見込まれる。」から、6月は「緩やかな回復が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置いている。今後のリスク要因についても、前月同様、「各国の財政緊縮による影響に留意する必要があるほか、一部の国々における財政の先行き不安を背景に金融システムに対する懸念があること、高い失業率が継続すること等により、景気が低迷するリスクがある。」としている。インドに関しては、景気の現状について前月の「景気は内需を中心に拡大している。」から、6月は「景気は内需を中心に拡大しているが、拡大テンポがやや緩やかになっている。」へと文言が修正され、2010年1月からの判断開始以来、初めての下方修正となった。先行きについては、前月同様、「引き続き内需が堅調に推移するとみられることから、拡大傾向が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置いている。今後のリスク要因についても、前月同様、「ただし、物価上昇によるリスクには留意する必要がある。」と言及している。その他アジア地域に関しては、景気の現状について前月の「総じて景気は回復している。」から、6月は「総じて景気は回復しているが、このところ弱い動きもみられる。」へと、判断は下方修正されている。先行きについては、前月同様、「回復傾向が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置いている。今後のリスク要因についても、前月同様、「欧米向けの輸出の動向や物価上昇によるリスクに留意する必要がある。」としている。中国に関しては、現状と先行きともに判断を据え置いている。
政府としては、生産の回復が予想以上に早かった点を好感しており、6月の報告文書からは、日本経済の先行きに対する期待感が前月以上に強くあらわれている。特段、他の波乱要因さえなければ、震災復興事業を着実に進め、福島原発事故を迅速に終息させていくことで、政府の目論見通り、景気の持ち直しにも一定のメドがつけられるであろう。だが不運なことに、原油価格の高騰やそれを引き金とするインフレ、更にはインフレ抑止のための金融引き締めなどが、米国や中国、アジア新興国の経済成長を減速させる足かせとなりつつある。こうした状況が進めば今後、日本経済の成長のエンジンのひとつでもある外需はますます低迷し、政府の思い描く景気回復のシナリオも頓挫しかねない。
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