半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

(2011.09)
月例消費レポート 2011年9月号
東日本大震災から半年。景気と消費は夏冷えから"決断の秋"へ
菅野 守

1.はじめに
 東日本大震災から半年が過ぎ、海外経済とマーケットからの波乱要因に振り回され続ける中で、日本経済は、本格回復を見据えた新たな決断への岐路に立たされている。
 2011年9月20日に内閣府より公表された「月例経済報告(平成23年9月)」によると、景気の現状については、前月8月と同様、「景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるものの、持ち直している。」とし、基調判断を据え置いた。先行きについては、8月の「サプライチェーンの立て直し、海外経済の緩やかな回復や各種の政策効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される」から「海外経済の緩やかな回復」の文言が外され、9月は「先行きについては、サプライチェーンの立て直しや各種の政策効果などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待される。」とし、基調判断は据え置きとするも、今後の景気回復への期待感としてはややトーンダウンさせた表現となった。景気の下押しリスクをもたらす要因について、前月8月は「電力供給の制約や原子力災害の影響、海外景気の下振れ懸念に加え、為替レート・株価の変動等によっては、景気が下振れするリスクが存在する。」としていたが、9月には一部文言が追加変更されて「電力供給の制約や原子力災害の影響に加え、回復力の弱まっている海外景気が下振れた場合や為替レート・株価の変動等によっては、景気が下振れするリスクが存在する。」となっている。特に、新たに加わった「回復力の弱まっている海外景気が下振れた場合」という表現からは、EU諸国内での財政危機による混乱やアメリカ経済の回復の弱さ等による世界経済の減速が日本経済にもたらす悪影響への警戒姿勢がうかがわれる。
 個別項目を見ると、住宅建設は、前月の「下げ止まっている。」から、9月は「持ち直しの動きがみられる。」へと、2ヶ月連続で判断は上方修正されている。倒産件数も、前月の「緩やかな増加傾向にある。」から、9月は「おおむね横ばいとなっている。」へと、7ヶ月ぶりに判断は上方修正されている。他方、企業収益は、長期化する円高の影響等を考慮し、前月の「増勢が鈍化している。」から、9月は「減少している。」へと、4ヶ月ぶりに判断は下方修正されている。
 海外経済の現状については、前月8月の「世界の景気は、全体として回復がさらに緩やかになっており、アメリカでは、極めて弱いものとなっている。」から、9月は「世界の景気は、全体として回復が弱まっており、アメリカでは、極めて弱いものとなっているほか、ヨーロッパ地域では、持ち直しのテンポが緩やかになっている。」へと、判断は2ヶ月連続で下方修正された。注目すべきは、世界経済全般の判断のところで、前月の「回復がさらに緩やかになっており」から9月は更に踏み込んで「回復が弱まっており」と明言されていることに加え、景気の減速している地域として新たにヨーロッパ地域も盛り込まれている点である。先行きについても、前月8月の「緩やかな回復が続くと見込まれる。」から、9月は「弱い回復が続くと見込まれる。」とし、判断は下方修正されている。海外経済の先行きに対するリスク要因についても、前月8月の「ただし、景気が下振れするリスクがある。」に引き続き、9月には新たな文言として「また、このところの金融資本市場の動きに留意する必要がある。」が加わり、EU諸国内での財政危機による混乱が海外景況に及ぼす悪影響を意識したものとなっている。
 地域別にみると、ヨーロッパ地域に関しては、現状について前月8月の「景気は総じて持ち直しているものの、国ごとのばらつきが大きい。」から、9月は「景気は持ち直しのテンポが緩やかになっている。」とし、2009年2月以来31ヶ月ぶりに判断は下方修正された。特に、ドイツについては前月8月の「回復(している)」から9月は「回復のテンポがこのところ緩やかになって(いる)」へと、フランスについては前月8月の「緩やかに回復している」から9月は「足踏み状態にある」へと、ともに下方修正されている。先行きについても、前月8月の「基調としては緩やかに持ち直していくと見込まれる。」から、9月は「極めて緩やかな持ち直しが続くと見込まれる。」とし、下方修正含みの表現に改められている。景気の下押しリスクをもたらす要因について、前月8月の「一部の国々における財政の先行き不安を背景に」「金融システムに対する懸念が払拭されていない」との文言から、9月は更に踏み込んで「金融システムに対する懸念が高まり金融資本市場に影響を及ぼしている」へと変更されており、EU諸国内での財政危機が懸念の域を越え、実際に金融市場を揺るがす具体的危機へと変質したことが示唆されている。残りの、アメリカ、中国、インド、その他アジア地域はいずれも、現状と先行きともに判断は据え置きとなっている。
 日本経済が直面するこうした困難への政府の対応姿勢として、「円高への総合的対応策の取りまとめ及び平成23年度第3次補正予算の編成を早急に行う。」ことに加え、日本銀行に対しても「適切かつ果断な金融政策運営によって経済を下支えするよう期待する。」(下線は筆者強調)とし、前月の「機動的な」よりも強い文言で、日銀に対し現状の経済的困難への積極的対応(とりわけ円高への積極的対応)を求める姿勢を打ち出している。
 9月の報告内容を見る限り、政府の関心の焦点は、国内の動向よりもむしろ、アメリカやEU等を震源とした世界経済の失速や加速する円高が日本の景気にもたらす悪影響の方にシフトしている。特に、日銀の金融政策に対する注文が月例経済報告の中ではっきりと示されたことは、ここ最近では珍しいことといえよう。

 本コンテンツの全文は、メンバーシップサービスでのご提供となっております。
 以降の閲覧にはメンバーシップサービス会員(有料)ご登録が必要です。

メンバーシップサービス会員のご案内についてはこちらをご覧ください。
メンバーシップサービス会員の方は、下記をクリックして全文をご利用ください。
 

本論文に関連する統計データ

お知らせ

2024.12.19

JMR生活総合研究所 年末年始の営業のお知らせ

新着記事

2024.12.20

消費者調査データ No.418 サブスクリプションサービス 広く利用される「プライムビデオ」、音楽サブスクには固定ファンも

2024.12.19

24年10月の「商業動態統計調査」は7ヶ月連続のプラス

2024.12.19

24年10月の「広告売上高」は、6ヶ月連続のプラス

2024.12.19

24年10月の「旅行業者取扱高」は19年比で83%に

2024.12.18

提言論文 「価値スタイル」で選ばれるブランド・チャネル・メディア

2024.12.18

24年11月の「景気の先行き判断」は3ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.12.18

24年11月の「景気の現状判断」は9ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.12.17

24年10月の「現金給与総額」は34ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.12.16

企業活動分析 SGHDの24年3月期はロジスティクス事業不振で2期連続の減収減益

2024.12.16

企業活動分析 ヤマトHDの24年3月期はコスト削減追いつかず3期連続減益

2024.12.13

成長市場を探せ コロナ禍の壊滅的状況からV字回復、売上過去最高のテーマパーク(2024年)

2024.12.12

24年10月の「家計収入」は再びプラスに

2024.12.12

24年10月の「消費支出」は6ヶ月連続のマイナスに

2024.12.11

提言論文 価値スタイルによる生活の再編と収斂

2024.12.10

24年10月は「有効求人倍率」は改善、「完全失業率」は悪化

2024.12.09

企業活動分析 江崎グリコ株式会社 23年12月期は国内外での売上増などで増収増益達成

2024.12.09

企業活動分析 日清食品ホールディングス株式会社 24年3月期は価格改定浸透で増収、過去最高益達成

 

2024.12.06

消費者調査 2024年 印象に残ったもの 「大谷選手」「50-50」、選挙も五輪も超えてホームラン!

2024.12.05

24年11月の「乗用車販売台数」は3ヶ月ぶりのマイナス

週間アクセスランキング

1位 2024.05.10

消費者調査データ エナジードリンク(2024年5月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

2位 2024.04.05

消費者調査データ ノンアルコール飲料(2024年4月版) 首位は「ドライゼロ」、追う「オールフリー」「のんある気分」

3位 2024.12.04

提言論文 本格消費回復への転換-価値集団の影響力拡大

4位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

5位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area