2011年12月21日に内閣府より公表された「月例経済報告(平成23年12月)」によると、景気の現状について、2011年12月は前月と同様、「景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなかで、緩やかに持ち直している。」とし、2ヶ月連続で基調判断は据え置いた。先行きについては、2011年11月の文言から「サプライチェーンの立て直し」が削除された上で、「景気の緩やかな持ち直し傾向が続くことが期待される。」(下線部筆者)へと追加修正され、景気回復の鈍化傾向をにじませる表現となった。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2011年11月の文言から「タイの洪水」が削除され、「電力供給の制約や原子力災害の影響に加え、欧州の政府債務危機などを背景とした海外景気の下振れや為替レート・株価の変動等によっては、景気が下振れするリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」となっている。
個別項目を見ると、唯一、企業の業況判断については、2011年11月の「改善している。ただし中小企業においては先行きに慎重な見方となっている。」から、2011年12月には「大企業製造業で低下しており、全体としても小幅改善となっている。先行きについても、全体として慎重な見方となっている。」へと、1年ぶりに下方修正されている。12月15日に公表された日銀短観で、欧州債務危機による海外景気の減速や円高などにより企業マインドの悪化が認められることを受けてのものだ。個人消費や設備投資などその他の個別項目では判断の変更はみられない。
海外経済の現状について、2011年12月は前月と同様、「世界の景気は、ヨーロッパ地域で持ち直しのテンポが緩やかになっていることもあり、全体として回復が弱まっている。」とし、判断を据え置いている。先行きについても、2011年12月は前月と同様、「弱い回復が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置きとなった。海外経済の先行きに対するリスク要因について、2011年12月には「EU首脳会議等で取組が行われているものの」との前置きの上で、「ヨーロッパ地域の一部の国々における財政の先行き不安の高まりが、金融システムに対する懸念につながっていることや金融資本市場に影響を及ぼしていること等により、景気が下振れするリスクがある。」とし、EU諸国内での財政危機による混乱がもたらす悪影響への懸念を強調する表現が、前月同様踏襲されている。
地域別にみると、アメリカに関して、2011年12月は前月同様「アメリカでは、弱い景気回復になっている。先行きについては、弱い景気回復が続くと見込まれる。」とし、現状認識と見通しともに判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、「ただし、失業率の高止まりや住宅価格の下落等により、景気が下振れするリスクがある。また、このところの金融資本市場の動きや財政緊縮の影響に留意する必要がある。」とし、前月の判断を踏襲している。中国に関しては、2011年12月は前月同様「景気は内需を中心に拡大している。先行きについては、拡大傾向が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、前月と同様、「不動産価格や物価の動向に加え、このところの金融資本市場の動きや欧米向け輸出の動向に留意する必要がある。」としている。インドに関しては、現状判断は、2011年11月の文言から「内需を中心に拡大しているが」が削除されたうえで、「景気の拡大テンポは鈍化している。」へと変更されるなど、6ヶ月ぶりに下方修正された。先行きについては、2011年11月の「引き続き内需が堅調に推移するとみられることから、拡大傾向が続くと見込まれる。」から、2011年12月には「拡大テンポの鈍化が続くと見込まれる。」へと、判断は下方修正されている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2011年12月も「物価上昇によるリスクには留意する必要がある。」とし、前月の表現を踏襲している。その他アジア地域に関しては、2011年12月は前月同様、「総じて景気は回復しているが、回復テンポが緩やかになっている。先行きについては、緩やかな回復傾向が続くと見込まれる。」とし、現状判断と先行きともに、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2011年12月も「ただし、欧米向け輸出の減少や物価上昇により、景気が下振れするリスクがある。また、このところの金融資本市場の動きに加え、タイの洪水の影響に留意する必要がある。」とし、前月の表現を踏襲している。ヨーロッパ地域に関しては、2011年12月は前月と同様「景気は持ち直しのテンポが緩やかになっている。ドイツでは、緩やかな回復となっており、一部に弱い動きもみられる。フランス及び英国では、足踏み状態にあるが、一部に弱い動きがみられる。ヨーロッパ地域の先行きについては、極めて緩やかな持ち直しが続くと見込まれる。」とし、現状判断と先行きともに判断は据え置いている。景気の下押しリスクをもたらす要因について、2011年12月は「EU首脳会議等で取組が行われているものの」という但し書きが加わった上で、「一部の国々における財政の先行き不安の高まりが、金融システムに対する懸念につながっていることや金融資本市場に影響を及ぼしていることにより、景気が低迷するリスクがある。また、各国の財政緊縮による影響や、高い失業率が継続すること等に留意する必要がある。」とし、前月の表現を踏襲している。
2011年12月の報告内容を見る限り、政府は、インドをはじめとするアジア新興国経済のスローダウンや、EU諸国での財政危機に伴う海外経済の波乱など、海外発のダウンサイドリスク要因に対しては、相変わらず強い警戒姿勢を示している。加えて、企業マインドの悪化の形で海外発のダウンサイドリスクが徐々に顕在化しつつある状況に対し、危機感を強めていることは、日銀短観の内容を受けた今回の報告における業況判断の迅速な下方修正からもうかがい知れる。会議終了後の記者会見の場で古川元久・経済財政兼国家戦略担当相からも、同日21日の金融政策決定会合の場で景気判断の下方修正を表明した日銀と、政府との間で、景気認識は「総じて一致している。」との見解が表明された上で、海外景気の減速や為替レート・株価の変動などの景気下振れリスクに対する警戒感が示されている。政府・日銀ともに、景気の現状認識並びに見通しについて、以前よりは若干悪化の方向に判断の重心を移しつつあるようだ。
本コンテンツの全文は、メンバーシップサービスでのご提供となっております。 以降の閲覧にはメンバーシップサービス会員(有料)ご登録が必要です。
|
参照コンテンツ