2012年1月17日に内閣府より公表された「月例経済報告(平成24年1月)」によると、景気の現状について、2012年1月は前月と同様、「景気は、東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなかで、緩やかに持ち直している。」とし、3カ月連続で基調判断は据え置いた。先行きについても、2012年1月は前月同様、「各種の政策効果などを背景に、景気の緩やかな持ち直し傾向が続くことが期待される。」とし、判断は据え置きとなった。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2011年12月の「ただし、電力供給の制約や原子力災害の影響に加え、欧州の政府債務危機などを背景とした海外景気の下振れや為替レート・株価の変動等によっては、景気が下振れするリスクが存在する。また、デフレの影響や、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」から、2012年1月には「ただし、欧州の政府債務危機が、金融システムに対する懸念につながっていることや金融資本市場に影響を及ぼしていること等により、海外景気が下振れし、我が国の景気が下押しされるリスクが存在する。また、電力供給の制約や原子力災害の影響、さらには、デフレの影響、雇用情勢の悪化懸念が依然残っていることにも注意が必要である。」へと文言が修正されており、欧州の政府債務危機が、金融市場のみならず海外景気に与えるマイナスの影響がより強調されるとともに、加えて「景気が下振れするリスク」から「景気が下押しされるリスク」へと表現が変更されることで、それらが日本の景気に与えるマイナス・インパクトの強さも一層際立った形になっている。
個別項目を見ると、輸出は、欧州やアジアなどの外需の低迷や円高などを受けて、2011年12月の「横ばいとなっている。」から、2012年1月には「このところ弱含んでいる。」へと3ヶ月ぶりに下方修正された。輸入は、原材料などアジアからの輸入の伸び悩みを踏まえ、2011年12月の「緩やかに増加している」から、2012年1月には「このところ増勢が鈍化している」へと変更された。個人消費や生産、企業の設備投資などその他の個別項目では、判断の変更はみられない。
海外経済の現状については、2011年12月の「世界の景気は、ヨーロッパ地域で持ち直しのテンポが緩やかになっていることもあり、全体として回復が弱まっている。」から、2012年1月は「世界の景気は、全体として弱い回復となっている。」とし、判断は据え置きつつも下方修正含みの表現となっている。先行きについては、2012年1月は前月と同様、「弱い回復が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置いている。海外経済の先行きに対するリスク要因については、2011年12月にあった「EU首脳会議等で取組が行われているものの」の文言が削除された上で、「ヨーロッパ地域の一部の国々における財政の先行き不安の高まりが、金融システムに対する懸念につながっていることや金融資本市場に影響を及ぼしていること等により、景気が下振れするリスクがある。」とし、EU諸国内での財政危機による混乱がもたらす悪影響への懸念を強調する表現が、前月同様踏襲されている。
地域別にみると、アメリカに関して、2011年12月の「弱い景気回復になっている。先行きについては、弱い景気回復が続くと見込まれる」から、2012年1月には「景気は緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くと見込まれる。」へと、現状認識と見通しともに2ヶ月ぶりに判断は上方修正された。アメリカについての判断の上方修正は、米国内での雇用者数の緩やかな増加や失業率の低下、個人消費の回復や住宅着工の持ち直しに向けた動きなどを受けてのものだ。景気の下押しリスクをもたらす要因については、「ただし、失業率の高止まりや住宅価格の下落等により、景気が下振れするリスクがある。また、このところの金融資本市場の動きや財政緊縮の影響に留意する必要がある。」とし、前月の判断を踏襲している。中国に関しては、2012年1月は前月同様「景気は内需を中心に拡大している。先行きについては、拡大傾向が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、前月と同様、「不動産価格や物価の動向に加え、このところの金融資本市場の動きや欧米向け輸出の動向に留意する必要がある。」としている。インドに関しては、2012年1月は前月同様「景気の拡大テンポは鈍化している。先行きについては、拡大テンポの鈍化が続くと見込まれる。」とし、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2012年1月も「物価上昇によるリスクに加え、このところの金融資本市場の動きに留意する必要がある。」とし、前月の表現を踏襲している。その他アジア地域に関しては、2012年1月は前月同様、「総じて景気は回復しているが、回復テンポが緩やかになっている。先行きについては、緩やかな回復傾向が続くと見込まれる。」とし、現状判断と先行きともに、判断は据え置きとなっている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2011年12月も「欧米向け輸出の減少や物価上昇により、景気が下振れするリスクがある。また、このところの金融資本市場の動きに加え、タイの洪水の影響に留意する必要がある。」とし、前月の表現を踏襲している。ヨーロッパ地域に関して、現状について、2011年12月の「景気は持ち直しのテンポが緩やかになっている。ドイツでは、緩やかな回復となっており、一部に弱い動きもみられる。フランス及び英国では、足踏み状態にあるが、一部に弱い動きがみられる。」から、2012年1月は「景気は足踏み状態にあり、一部に弱い動きもみられる。」とし、基調判断は4ヶ月ぶりに下方修正された。先行きについても、2011年12月の「極めて緩やかな持ち直しが続くと見込まれる。」から2012年1月には「当面、弱めの動きになるものと見込まれる。」へと判断は下方修正されている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2011年12月から「EU首脳会議等で取組が行われているものの」の文言が削除された上で、「一部の国々における財政の先行き不安の高まりが、金融システムに対する懸念につながっていることや金融資本市場に影響を及ぼしていることにより、景気が低迷するリスクがある。さらに、各国の財政緊縮による影響や、高い失業率が継続すること等に留意する必要がある。」とし、前月の表現をほぼ踏襲している。
2012年1月の報告内容を見る限り、政府は、ヨーロッパ経済に対する判断を下方修正した上で、円高と併せてそれらが日本の景気にもたらすマイナス・インパクトに対し、これまでよりも更に強い警戒姿勢をみせている。加えて、会議終了後の記者会見の場で古川元久・経済財政兼国家戦略担当相は、中国経済についても、輸出や生産の伸びの鈍化、景況感の低下などがみられるとの認識に立ち、ヨーロッパでの景気減速が中国経済に及ぼす影響も織り込みつつ今後の動向を注視していく必要があるとしている。海外景気の減速や超円高にいまだ収拾の見通しが立たない以上、日本経済に及ぼす、ヨーロッパからの直接、または中国経由での間接的なダメージへの警戒感は、今後ますます高まりこそすれ、鎮静化することは当分なさそうである。
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