2013年7月23日に内閣府より公表された「月例経済報告(平成25年7月)」によると、景気の現状について、2013年6月は「景気は、着実に持ち直している。」としていたが、7月は「景気は、着実に持ち直しており、自律的回復に向けた動きもみられる。」とし、基調判断は3ヶ月連続で上方修正された。基調判断に「回復」という文言が盛り込まれるのは、2012年9月以来10ヶ月ぶりのこととなるが、2012年9月の時とは異なり、今回は景気判断について、前向きな意味合いの表現として用いられているようだ。先行きについては、2013年7月は6月と同様、「輸出が持ち直し、各種政策の効果が発現するなかで、企業収益の改善が家計所得や投資の増加につながり、景気回復へ向かうことが期待される。」としており、判断は据え置かれている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、2013年7月は6月の判断を踏襲し、「海外景気の下振れが、引き続き我が国の景気を下押しするリスクとなっている。」としている。
個別項目を見ると、設備投資は、2013年6月の「下げ止まりつつある。」から、7月は「おおむね下げ止まっており、一部に持ち直しの動きもみられる。」へと、4ヶ月ぶりに上方修正された。住宅建設は、2013年6月の「持ち直している。」から、7月は「増加している。」へと、2ヶ月連続で上方修正されている。貿易・サービス収支は、2013年6月の「赤字は、増加傾向となっている。」から、7月は「赤字は、減少している。」へと、上方修正されている。生産は、2013年6月の「持ち直している。」から、7月は「緩やかに増加している。」へと、3ヶ月連続で上方修正されている。業況判断は、2013年6月の「改善の動きがみられる。」から、7月は「改善している。」へと上方修正されている。消費者物価は、2013年6月の「このところ下落テンポが緩やかになっている。」から、7月は「このところ横ばいとなっている。」へと、2ヶ月ぶりに文言が修正され、デフレ脱却を示唆する内容が盛り込まれた格好だ。
海外経済の現状については、「世界の景気は、弱い回復が続いているものの、底堅さもみられる。」としている。先行きについては、「当面、弱い回復が続くものの、次第に底堅さを増すことが期待される。」としている。現状と先行きのいずれも、2013年6月に引き続き、7月も判断は据え置かれている。海外経済の先行きに対するリスク要因に関して、前半部の「欧州政府債務問題が引き続き景気の下振れリスクとなっている。」との記述は、2013年6月と同様だが、後半部の記述は、2013年6月の「アメリカにおける財政問題の影響や中国経済の先行き等にも留意する必要がある。」から、2013年7月は「アメリカの政策動向による影響や中国経済の先行き等にも留意する必要がある。」へと、文言が一部変更されている。内容を見る限り、基本的には前月6月の判断が踏襲されてはいる。ただ、「アメリカにおける財政問題の影響」から「アメリカの政策動向による影響」への変更により、財政問題に止まらず、政策動向全般へと射程が広げられている。米FRBによる量的緩和政策の「出口論」を巡る議論が政策リスクとして意識されてきていることを、踏まえてのものと思われる。
地域別にみると、アメリカに関しては、景気の現状について、2013年7月は6月と同様、「景気は緩やかな回復傾向となっている」とし、判断は据え置きとなった。先行きについても2013年6月と同様、「緩やかな回復傾向で推移すると見込まれる。」とし、判断は据え置かれている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、「財政問題への対応による影響等に留意する必要がある。」としており、前月6月の判断が踏襲・維持されている。
アジア地域のうち、中国に関しては、景気の現状について、2013年7月は6月と同様、「景気の拡大テンポは依然緩やかなものとなっており、一部に弱めの動きもみられる。」とし、判断は据え置きとなっている。先行きについても2013年6月と同様、「当面、拡大テンポは緩やかなものにとどまると見込まれる。」とし、判断は据え置かれている。景気の下押しリスクをもたらす要因については、2013年6月の「不動産価格や輸出の動向に留意する必要がある。」から、7月は「輸出や金融市場をめぐる動向等に留意する必要がある。」へと、文言の修正変更が加えられている。中国経済にまつわるリスク要因として、中国の輸出の動向により重点が置かれるとともに、不動産市況に止まらず中国の金融市場全般の動向へと、警戒の網を広げていることをにじませた表現となっている。韓国と台湾に関しては、2013年7月は6月と同様、「景気は足踏み状態となっている。先行きについては、当面、足踏み状態が続くものの、次第に持ち直していくことが期待される。」としており、現状と先行きのいずれも判断は据え置かれている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、「輸出の動向に留意する必要がある。」としており、前月6月の判断が踏襲・維持されている。インドに関しては、2013年7月は6月と同様、「景気は緩やかに減速している。先行きについては、当面、低めの成長となることが見込まれる。」としており、現状と先行きのいずれも判断は据え置かれている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、「物価上昇の動向に留意する必要がある。」としており、前月6月の判断が踏襲・維持されている。ヨーロッパ地域に関しては、景気の現状について、2013年7月は6月と同様、「景気は一部に下げ止まりの兆しもみられるが、総じて弱い動きとなっている。ドイツでは、足踏み状態となっているものの、一部に底堅さもみられる。」とし、判断は据え置きとなった。先行きについても、2013年6月と同様、「当面、弱い動きとなるものの、次第に底入れに向かうことが期待される。」とし、判断は据え置かれている。景気の下押しリスクをもたらす要因についても、2013年7月は「政府債務問題等による金融面への影響を通じ、景気が下振れするリスクがある。また、各国の財政緊縮による影響や、高い失業率が継続すること等に留意する必要がある。」としており、前月6月の判断が踏襲・維持されている。
以上に示した2013年7月報告では、内外需の好転が持続している中で生産の回復や企業収益の改善なども続いており、更に、これまで立ち遅れ感のあった設備投資にも持ち直しの動きがみられてきている。月例経済報告に関する関係閣僚会議了後に行われる定例の記者会見の場で、甘利明経済財政担当相から「支出・生産・所得の好循環の芽が出てきている」といったコメントが出されたのも、こうした動きを総合的に見て景気の先行きに自信を深めていることの現れともいえよう。7月10日から11日にかけて開かれた日本銀行・金融政策決定会合にて、景気判断が前回6月の「持ち直している」から「緩やかに回復しつつある」へと引き上げられ、2011年1月以来2年6ヶ月ぶりに「回復」の文言が盛り込まれている。日銀サイドが先んじて踏み込んだ判断を示したことを受けて、政府・内閣府サイドも日銀と歩調を合わせるべく、今回の報告で一歩踏み出したスタンスを打ち出した格好となってはいる。ただ、「自律的回復に向けた動きもみられる。」という月例経済報告での表現はいささか持って回った感じがしており、「緩やかに回復しつつある」という日銀サイドの表現に比べ歯切れの悪さは拭い切れない。政府サイドとしては、設備投資の回復の動きの広がりや所得改善の動きの定着など、景気の本格回復へとつなげていくのに必要なあと「もうひと押し」となる材料が現状ではまだ足りないとみているようであり、それが景気の回復局面入りを打ち出すことへの慎重姿勢につながっているのかもしれない。
本コンテンツの全文は、メンバーシップサービスでのご提供となっております。 以降の閲覧にはメンバーシップサービス会員(有料)ご登録が必要です。
|
本論文に関連する統計データ