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(2019.05)
月例消費レポート 2019年5月号
消費は足許で底堅さを保っているが、その先行きに対する懸念材料は増えつつある
主任研究員 菅野 守

 JMR消費INDEXの中長期的な近似曲線は2019年3月現在、上昇トレンドにある。短期的な動きとしては、INDEXの数値は2018年11月に一旦50を割り込んだ後、2018年12月から2019年2月にかけて50超を保ち続けてきたが、2019年3月には再び50を割り込んでいる(図表1)。INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出水準関連指標では、消費支出は2019年1月以降改善が続いている。平均消費性向は2018年10月から2019年1月にかけて4ヶ月連続で悪化した後、2019年2月に一時改善となったが、2019年3月には再び悪化に転じている。預貯金は2017年12月以降一貫して悪化が続いている。販売関連指標では、2019年3月時点で、前月2月時点と同様、計10項目中、改善が5項目に対し悪化が5項目となっている。2019年2月から3月にかけて、支出水準関連指標では悪化の方向への動きがみられるが、販売関連指標では悪化と改善双方の動きが拮抗している(図表2)。

 公表された2019年3月以降の各種経済指標から、消費を取り巻く状況を整理すると、消費支出に関して、二人以上のうちの勤労者世帯では2019年3月現在、名目と実質ともに伸びは3ヶ月連続でプラスとなっている(図表5)。二人以上世帯でも、消費支出の伸びは2018年10月以降、名目と実質ともに6か月連続でプラスである。ただ、直近の2019年3月時点で、伸び率の値は名目と実質の双方とも低下している。直近の10大費目別にみると、2019年3月時点で、名目と実質の双方で、プラスの費目数がマイナスの費目数を上回っている。前月の2019年2月から3月にかけての推移をみると、名目ではプラスの費目数とマイナスの費目数に変化はないが、実質ではプラスの費目数が減りマイナスの費目数が増えている(図表6)。以上より、消費支出の動きに関しては、全体でみても10大費目別でみても改善の動きが認められるが、その勢いは足許で若干鈍化しているようだ。消費者物価指数の動きをみると、物価の伸びは2018年11月以降低下が続き、特に2019年に入ってからは伸び率の値はゼロに近い水準にまで落ち込んでいる(図表7)。販売現場での動きをみると、日常財のうち、商業販売は2019年3月時点で、小売全体の伸びはプラスを保っている。主要な業態別でも、一部を除き伸びはプラスである。外食は2019年に入って以降、全体並びに全ての業態で伸びはプラスが続いている(図表11図表15)。耐久財のうち、新設住宅着工戸数では2018年12月以降、全体並びに全てのカテゴリーで伸びはプラスを保っている。新車販売では2019年3月時点で、乗用車(普通+小型)と軽乗用車の双方で、伸びはマイナスとなっていたが、2019年4月には双方で伸びは再びプラスとなっている(図表12図表14)。家電製品出荷では2019年3月時点で、黒物家電と白物家電のいずれでも、伸びの値は総じて低下し、商品間でプラスとマイナスに分かれる状況となっていた(図表13)。ただ、2019年5月24日に社団法人電子情報技術産業協会より公表された「民生用電子機器国内出荷統計」(2019年4月分)、並びに、2019年5月28日に社団法人日本電機工業会より公表された「民生用電気機器 国内出荷実績」(2019年4月分)によれば、黒物家電と白物家電ともに伸びはプラスとなっている。雇用環境に関しては、完全失業率は2018年6月以降、2.4%のラインを挟んでの上下動が続いており、直近の2019年3月には上昇の動きがみられる。有効求人倍率は2018年11月以降、1.63倍の水準で横ばいが続いている(図表8)。雇用環境改善の動きも、ピークを迎えつつあるようだ。他方、収入環境に関して、「毎月勤労統計」における現金給与の伸びの推移をみると、現金給与総額、所定内給与額、超過給与額の全てで、2019年1月以降、3ヶ月連続で伸びはマイナスとなっており、悪化の動きが持続している(図表9)。消費マインドに関しては、消費者態度指数は2019年4月時点で7ヶ月連続の悪化となっているが、景気ウォッチャー現状判断DIは2019年2月から3月にかけて横ばいで推移の後、直近の2019年4月には改善の動きをみせている。消費マインドは方向感が定まらずにいる(図表10)。

 経済全般の状況に着目すると、輸出の伸びは2018年10月を境に低下に転じ、12月以降はマイナスに落ち込んでいる(図表16)。2019年5月22日に公表された「貿易統計」2019年4月分(速報)では、輸出総額の伸び率は前年同月比で-2.4%となり、5ヶ月連続のマイナスとなっている。生産については、指数は2018年10月を境に低下傾向で推移し、直近の2019年3月時点では前月2月よりも低下している(図表18図表19図表20)。マーケットの動向をみると、平成の終わりの2019年4月下旬から令和の始まりの2019年5月上旬にかけて、為替と株価は円高・株安局面で推移してきたが、5月下旬以降は、為替と株価もともに若干の上下動を伴いつつ小康状態を保っている(図表21)。長期金利は2019年4月以降もマイナスで推移し、4月17日に終値で-0.009%を付けたのを境に低下傾向で推移している(図表22)。5月24日時点では終値で-0.068%まで下がっている。

 総合すると、消費は足許で底堅さを保っており、特に耐久財では駆け込み需要の気配もうかがわれる。だが他方で、消費の先行きに対する懸念材料は、徐々に増えつつあるようだ。雇用環境改善の動きもピークに近づき、収入環境では悪化の動きが顕在化している。消費マインドの一部指標では悪化の動きが鮮明である。経済全般の動きとして、輸出と生産ではともに、悪化の動きに歯止めがかからずにいる。マーケットでは、為替と株価は改元に伴う休暇明け直後から弱気(ベア)基調となり、長期金利もマイナスへと落ちこんだまま更なる下げをみせている。

 2019年5月13日に公表された2019年3月分の景気動向指数で、一致指数の基調判断は、2013年1月以来6年2か月ぶりに「悪化」へと引き下げられた。5月20日に公表された2019年1-3月期のGDP速報では、実質GDP成長率は2期連続のプラスとなったものの、その中身は外需の落ち込みが際立つとともに、消費や設備投資など国内需要の不振を印象付けるものとなった。2019年5月24日に公表された2019年5月の月例経済報告では、政府は景気の総括判断を2ヶ月ぶりに下方修正している。ここにきてクローズアップされてきた景気の変調は、2019年10月に予定されている消費増税の実施の是非や、2019年7月の衆参ダブル選挙の可能性すらも左右する波乱要因と化しつつある。国内外ともに厳しくなりつつある経済状況の下で、援軍が無いまま独り持ち堪えている消費がもし増税前に崩れ始めたところで、消費増税のダメージを真正面から被ってしまうと、景気や消費の悪化は避けがたいものとなりかねない。消費のダウンサイドリスクへの一歩先んじた備えや対応が、今後は重要となってくるだろう。


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