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公開日:2023年01月24日

月例消費レポート 2023年1月号
値上げの悪影響が顕在化する中で、消費改善の動きは鈍化しつつある
主任研究員 菅野 守

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 支出全般の伸びは低下が続き、実質ではマイナスとなっている。10大費目別でみても、実質ではマイナスの側が優勢である。
 小売販売はプラスを保ち、外食でも改善の動きが続いている一方、耐久財では分野間で好不調の格差がみられる。
 雇用環境と収入環境は改善基調を保っているが、マインドは方向感が定まらない。
 足許で、日常生活財を中心に値上げの悪影響が顕在化している。円安の動きに歯止めがかかったことで、輸入物価経由での企業物価上昇の圧力は弱まりつつあるが、消費者物価上昇の動きはまだ止まりそうにない。賃上げによる人件費の上昇で、労働集約性が高いサービスの物価上昇がもう一段加速し、消費者物価上昇に拍車がかかる可能性もある。
 今後、値上げの悪影響がより強く出ると、節約姿勢の強まりでトレーディング・ダウンの動きも進み、消費が悪化するおそれもある点には引き続き注意を要する。

 JMR消費INDEXは2022年11月に60.0となり、5月以来6ヶ月ぶりに低下した。近似曲線は、上昇トレンドを維持している(図表1)。

 INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、11月は、支出関連では3指標全てが悪化となった。販売関連では、改善が10指標中7指標と前月よりも減っている(図表2)。

 消費支出の伸びは2022年11月時点で名目ではプラスだが、実質ではマイナスに転じた。伸びの値はいずれも、3ヶ月連続で低下している(図表4)。

 10大費目別では、名目ではプラスが6費目、実質では3費目に止まり、その個数はいずれも前月よりも減少している。実質では、マイナスの側が圧倒的に優勢である(図表5)。

 名目と実質の伸びの差は、光熱・水道(差:13.9)、家具・家事用品(差:6.9)、食料(差:6.7)、住居(差:5.0)で特に顕著である。そのうち、光熱・水道、家具・家事用品、食料の3費目は、名目の伸びはプラスだが実質の伸びはマイナスである。日常生活財を中心に、値上げの悪影響は顕在化している(図表5)。

 物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2021年4月以降急上昇を続けた後、一旦は落ち着いたが、2022年4月を境に再上昇の動きをみせた。一時は前年同月比で150%に近い伸びを示していたものの、2022年9月を境に伸びは低下に転じている(図表6)。

 国内企業物価の伸びも2021年4月以降、輸入物価に歩調を合わせる形で上昇傾向が続いてきたが、2022年9月以降は低下が続いている。他方で、消費者物価の伸びは2021年4月を底に上昇傾向に転じており、特に2022年4月以降、伸びは一段高の動きを見せている(図表6)。

 財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、2021年9月以降、財主導で消費者物価の上昇は加速してきた。サービスの物価の伸びも、2022年1月を底に上昇傾向に転じ、2022年8月以降伸びはプラスに復帰している(図表7)。

 販売現場では、小売業全体の売上は9ヶ月連続のプラスである。

 チャネル別では、ホームセンターを除くほぼ全ての業態でプラスとなっている(図表11図表12)。

 外食売上は、全体では12ヶ月連続のプラスである。

 業態別でも、ファーストフード、ファミリーレストラン、パブ・居酒屋の3業態全てで、9ヶ月連続のプラスである(図表20)。

 新車販売では、2022年12月時点で、軽乗用車は4ヶ月連続のプラスであるが、乗用車(普通+小型)は4ヶ月ぶりにマイナスに転じている(図表13)。

 家電製品出荷については、白物家電は概ねプラスが続いている。

 他方、黒物家電では、4K対応薄型テレビはプラスに戻したが、BDレコーダとスピーカシステムはともに4ヶ月連続のマイナスとなっている。情報家電では、ノートPCは4ヶ月連続のプラスだが、スマートフォンは2ヶ月連続のマイナスとなっている(図表14図表15図表16)。

 新設住宅着工戸数は、2ヶ月連続でマイナスとなった。

 利用関係別でも、すべての分野でマイナスとなっている(図表17)。

 三大都市圏別の推移をみると、持家は、全ての地域でマイナスである。マンションは、首都圏でプラスが続いており、中部圏もプラスに戻した。他方で、近畿圏はマイナスに転じており、その他の地域でもマイナスが続いている(図表18図表19)。

 雇用環境は、有効求人倍率は横ばいとなる一方、完全失業率は低下しており、悪化の兆しはみられない(図表8)。

 収入は、現金給与総額、所定内給与額、超過給与額ともに11ヶ月連続のプラスであるが、実質ベースでマイナスの状況からは抜け出せていない(図表9)。

 消費マインドについては、2022年12月に消費者態度指数は上昇に転じる一方、景気ウォッチャー現状判断DIは低下が続いており、足許で方向感は定まらない(図表10)。

 総合すると、消費は値上げの悪影響が顕在化する中で、改善の動きは鈍化しつつある。

 消費支出など支出全般の伸びは低下が続き、実質ではマイナスとなっている。

 10大費目別でみても、実質ではマイナスの側が優勢である。

 小売販売は総じてプラスを保ち、外食でも改善の動きが続いている。

 ただし耐久財では、分野間で好不調の格差がみられる。新車販売は軽乗用車でプラスを保っているが、登録車では落ち込みがみられる。白物家電では改善の動きが続いているが、他方で黒物家電や情報家電の動きは冴えない。新設住宅着工では引き続き、首都圏でのマンションの改善が際立つ。

 雇用環境と収入環境は改善基調を保っているが、マインドは方向感が定まらない。

 足許で、日常生活財を中心に、値上げの悪影響は顕在化している。

 円安の動きに歯止めがかかったことで、輸入物価経由での企業物価上昇の圧力は徐々に弱まりつつある。だが、消費者物価上昇の動きには止まりそうな気配は認められない。

 2023年に入り賃上げの議論が本格化しつつあるが、予想される賃上げによる人件費の上昇で、労働集約性が高いサービスの物価上昇がもう一段加速し、最終的には消費者物価上昇の動きに拍車がかかる可能性もある。

 今後、値上げの悪影響の方がより強く出てしまう場合には、消費者の節約姿勢の強まりで、購入単価を切り下げて支出金額を絞っていくトレーディング・ダウンの動きも進み、消費が悪化するおそれもある点には、引き続き注意を要する。


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特集:2022年、値上げをどう乗り切るか

特集1.値上げの価格戦略

特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析

特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?


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