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公開日:2023年08月25日

月例消費レポート 2023年8月号
消費は好不調の格差を抱え足踏み状態にある-マインドの改善は今後の消費回復への好材料に
主任研究員 菅野 守

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 支出全般の伸びはマイナスが続いているが、マイナス幅は縮小を続けている。

 日常生活財と耐久財でともに、好不調の格差が鮮明となっている。その中で、改善を続ける外食とマンション需要の好調ぶりが目立つ。

 雇用環境は方向感が定まらないが、収入環境は息長く改善の動きが続いており、マインドも改善に転じる動きがみられる。

 値上げの悪影響は家事・家具用品や食料を中心に根強く残るが、物価の伸びは総じて低下基調にあり、消費者物価の伸びも横ばい傾向にある。

 米国の長期金利にも天井が見え、日本の長期金利でも緩やかな上昇見通しが定まってくれば、いずれは日米間の長期金利の格差も縮小傾向へと転じ、円安の動きにもブレーキがかかると見込まれる。これまで続いてきた値上げの動きも徐々に収束していき、消費への悪影響も緩和されていくだろう。

 日本国債のイールドカーブの動きをからは、中長期的な経済の回復を踏まえた緩やかなインフレ見通しが織り込まれている模様である。

 足許での収入環境の底堅さとマインド改善の動きは、今後の消費回復への好材料として期待できるだろう。

 JMR消費INDEXは2023年6月に66.7となり、前月に比べ低下した(図表1)。

 INDEXを構成する個々の変数の動きをみると6月は、支出関連では前月と同様、3指標中、平均消費性向と預貯金の2指標で、消費の改善を示す動きがみられた。他方、販売関連では、10指標中改善が6指標となり、前月よりも減少している(図表2)。

 消費支出の伸びは、名目と実質ともに4ヶ月連続でマイナスとなっているが、2023年4月を底に、マイナス幅は縮小が続いている(図表4)。

 10大費目別では、6月は名目ではマイナスが6費目、実質ではマイナスが8費目となっている。いずれもマイナスの側が優勢であり、特に実質での悪化が目立つ(図表5)。

 名目と実質の伸びの差は、食料で+8.1%、家具・家事用品で+7.1%、と際立っている。この2費目では値上げの悪影響が続いており、家具・家事用品では、名目の伸びのマイナス幅は広がっている(図表5)。

 物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2022年9月以降、一貫して低下が続いており、2023年4月以降はマイナスとなっている。国内企業物価の伸びも2022年12月以降低下が続いている。消費者物価の伸びも、2023年2月以降は横ばい傾向にある(図表6)。

 財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では2023年1月を境に低下傾向にある一方、サービスでは緩やかな上昇傾向を保っている(図表7)。

 販売現場では、小売業全体の売上は息長くプラスが続いている。チャネル別では2023年6月も前月同様、業態間で好不調の格差がみられる。スーパーは10ヶ月連続、百貨店は16ヶ月連続、コンビニエンスストアは19ヶ月連続、ドラッグストアは26ヶ月連続のプラスである。他方で、ホームセンターは2ヶ月連続、家電大型専門店は4ヶ月連続のマイナスである(図表11図表12)。

 外食売上は、全体で19ヶ月連続のプラスであり、業態別でも3業態全てで16ヶ月連続のプラスである(図表20)。

 新車販売は、2023年7月時点で、乗用車(普通+小型)は7ヶ月連続のプラスであるが、軽乗用車は11ヶ月ぶりにマイナスに転じた(図表13)。

 家電製品出荷について、黒物家電では4K対応薄型テレビは7ヶ月ぶりにプラスに転じたが、残りの2品目はマイナスが続いている。白物家電では洗濯乾燥機は3ヶ月連続のプラスだが、残りの3品目はマイナスである。情報家電は総じてマイナスが続いている(図表14図表15図表16)。

 新設住宅着工戸数は、全体では2023年6月は再びマイナスに転じている。利用関係別では、持家と分譲住宅・一戸建てでマイナスが続いている一方、分譲住宅・マンションは2ヶ月連続のプラスである(図表17)。

 3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは首都圏でマイナスとなったが、中部圏と近畿圏では2ヶ月連続のプラスであり、その他の地域でもプラスに転じている(図表19)。

 雇用環境については、失業率は6月に低下し改善の動きがみられるが、有効求人倍率は2ヶ月連続で低下し悪化の動きが続いており、方向感は定まらない(図表8)。

 収入については、現金給与総額は18ヶ月連続、所定内給与額は20ヶ月連続、超過給与額は2ヶ月連続のプラスである(図表9)。

 消費マインドについては、消費者態度指数は5ヶ月連続で上昇を続けており、景気ウォッチャー現状判断DIも3ヶ月ぶりに上昇するなど、改善に転じる動きがみられる(図表10)。

 マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、2023年1月から7月にかけて円安・株高の動きが続いてきた。その後、株価は一旦頭打ちとなり、円ドル為替レートは一時円高に振れるも再び円安の動きが加速している(図表21)。

 日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利と日本国債10年物金利の利回りはともに上昇傾向にあるが、米国債10年物金利はその水準と上昇ペースともに日本国債10年物金利を大きく上回る。米国債10年物金利の上昇傾向は2022年10月下旬頃を境に一旦沈静化したが、2023年4月に入り再び上昇に転じ、日米間の長期金利の格差も拡大傾向にある。特に最近の1~2ヶ月では、そうした動きに一層拍車がかかっている(図表22)。

 日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2020年2月末時点では、残存期間10年以下のゾーンはマイナスへと沈み、15年以上のゾーンも0.05%を大きく下回るゼロ近傍にあった。その後、時間の経過とともに若干の上下動を伴いつつも、イールドカーブは徐々に上方へシフトし、直近の2023年8月半ば時点では残存期間1年を除きプラスのゾーンへと浮上している(図表23)。



 総合すると、消費は好不調の格差を抱え足踏み状態にある。

 消費支出など支出全般の伸びはマイナスとなっているが、マイナス幅は縮小し続けている。

 日常生活財と耐久財でともに、好不調の格差が鮮明となっている。

 日常生活財のうち、外食は総じて改善が続いているのに対し、小売販売では業態間で改善と悪化の動きが固定化しつつある。

 耐久財のうち、新車販売は車種間で好不調が分かれ、家電製品出荷はごく一部の品目を除き総じて低迷している。新設住宅着工戸数もマンション需要のみが好調で、それ以外は不振が続いている。

 雇用環境は方向感が定まらないが、収入環境は息長く改善の動きが続いており、マインドも改善に転じる動きがみられる。

 値上げの悪影響は、食料や家事・家具用品を中心に根強く残っているが、輸入物価や国内企業物価では伸びは低下基調にあり、消費者物価の伸びも横ばい傾向にある。

 今後、米FRBの金融引き締め策の効果が米国の経済諸指標にも現れてくれば、遅かれ早かれ米国の長期金利にも天井が見えてくるだろう。他方、日本国債のイールドカーブの上方シフトなどから、日本の長期金利の緩やかな上昇見通しが予想される。

 そうなればいずれ、日米間の長期金利の格差も拡大傾向から縮小傾向へと転じ、これまでの円安の動きにもブレーキがかかると見込まれる。

 海外からの悪影響が落ち着いてくれば、これまで続いてきた値上げの動きも徐々に収束していき、消費への悪影響も緩和されていくだろう。

 日本の長期金利の上昇見通しを受けて、住宅を中心に駆け込み需要と反動減が今後予想されるが、イールドカーブの動きからは、中長期的な経済の回復を踏まえた緩やかなインフレ見通しが織り込まれている模様である。

 お盆の長期休暇の時期に日本列島を直撃した台風が、期待された旅行・レジャー関連での消費の盛り上がりに水を差した格好となった点は否めないが、足許での収入環境の底堅さとマインド改善の動きは、今後の消費回復への好材料として期待できるだろう。


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特集:2022年、値上げをどう乗り切るか

特集1.値上げの価格戦略

特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析

特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?


   

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