※図表の閲覧には会員ログインが必要です。
支出全般の伸びはマイナスが続いている。
日常生活財と耐久財で、好不調の格差が鮮明となっている。日常生活財は好調さを保つ一方、耐久財は総じて不振が続いている。
収入環境は改善の動きが続いているが、雇用環境とマインドは悪化の動きがみられる。
値上げの悪影響は主に食料で大きく根強く残っている。国内企業物価や消費者物価の伸びは低下基調にある。輸入物価の伸びはマイナスだが底打ちの気配がうかがわれ、進む円安の動きの波及が気がかりである。
加速する円安の動きにブレーキをかける材料は見当たらず、もう一段の円安が進めば、五月雨式に値上げの動きが再燃する可能性がある。
収入環境の底堅さが消費を支える唯一の頼みの綱となっており、消費回復への足場がいささか心許ないなかで、値上げ再燃の悪影響が景気の足を引っ張り、中長期的な回復シナリオを崩すおそれには注意を要する。
JMR消費INDEXは2023年7月に66.7となり、前月から横ばいとなっている(図表1)。
INDEXを構成する個々の変数の動きをみると7月は、支出関連では3指標中、消費支出と平均消費性向の2指標で、悪化を示す動きがみられた。雇用関連の2指標のうち、月間所定外労働時間は3ヶ月ぶりに悪化となっている。他方、販売関連では、10指標中改善が6指標となり、前月よりも増加している(図表2)。
消費支出の伸びは、名目と実質ともに5ヶ月連続でマイナスとなっている(図表4)。
10大費目別では、7月は名目ではマイナスが6費目、実質ではマイナスが7費目となっており、前月同様マイナスの側が優勢である(図表5)。
名目と実質の伸びの差は、食料で+8.6%、家具・家事用品で+8.4%、と際立っている。家具・家事用品は名目と実質ともにプラスとなっているが、食料では名目プラス・実質マイナスの状況が続いている。値上げの悪影響は食料で大きくかつ持続している(図表5)。
物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2023年4月以降マイナスとなっているが、伸び率の値は直近の8月で上昇に転じている。国内企業物価の伸びも2022年12月以降低下が続いている。消費者物価の伸びも、極めて緩やかながら低下傾向にある(図表6)。
財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では2023年1月を境に低下傾向にある。サービスでは緩やかな上昇傾向を保っているが、足許で伸びは鈍化しつつある(図表7)。
販売現場では、小売業全体の売上は息長くプラスが続いている。チャネル別では2023年7月に全ての業態で伸びはプラスとなっている(図表11、図表12)。
外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。9月25日に公表された2023年8月分でも、売上の伸びは全体と主要3業態でともにプラスである。
新車販売は、2023年8月時点で、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともにプラスとなっている(図表13)。
家電製品出荷については、黒物家電、白物家電、情報家電のいずれもが総じてマイナスとなっている(図表14、図表15、図表16)。
新設住宅着工戸数は、全体では2023年7月は2ヶ月連続のマイナスである。利用関係別でも、持家、分譲住宅・一戸建て、分譲住宅・マンションの全てでマイナスある(図表17)。
3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは首都圏でマイナスとなったが、中部圏では3ヶ月連続のプラスだが、首都圏、近畿圏、その他の地域ではマイナスとなっている(図表19)。
雇用環境については、有効求人倍率は3ヶ月連続で低下し悪化の動きが続いており、失業率も7月には上昇に転じている(図表8)。
収入については、現金給与総額は19ヶ月連続、所定内給与額は21ヶ月連続、超過給与額は3ヶ月連続のプラスである(図表9)。
消費マインドについては、消費者態度指数は6ヶ月ぶりに低下し、景気ウォッチャー現状判断DIも再び低下に転じている(図表10)。
マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、2023年7月以降、株価は下落傾向で推移の後、8月半ば頃を境に上昇傾向に転じたが、9月半ば頃をピークに再び下落に転じる動きがみられる。他方、円ドル為替レートは7月に入り一時円高方向に振れたが、7月半ば頃を境に円安傾向が続いている。9月26日以降は終値で再び149円台に乗せている(図表21)。
日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利と日本国債10年物金利の利回りはともに上昇傾向にあるが、米国債10年物金利はその水準と上昇ペースともに日本国債10年物金利を大きく上回る。特に米国債10年物金利は、7月下旬以降、上昇の動きに拍車がかかっている(図表22)。
日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2022年3月初旬から直近の2023年9月下旬にかけて、時折若干の上下動を伴いつつも、イールドカーブは少しずつ上方へのシフトを続けている(図表23)。
総合すると、消費は足踏み状態が続いている。
消費支出など支出全般の伸びはマイナスが続いている。
日常生活財と耐久財で、好不調の格差は鮮明となっている。
小売販売や外食などの日常生活財は、総じて好調さを保っている。
耐久財はクルマを除き、家電と住宅ともに総じて不振が続いている。
収入環境は息長く改善の動きが続いているが、雇用環境は悪化の動きがみられ、マインドも足許で悪化に転じている。
値上げの悪影響は、食料で特に大きくかつ根強く残っている。国内企業物価や消費者物価の伸びは、低下基調にある。輸入物価の伸びはマイナスながらも、底打ちの気配がうかがわれる。足許で進む円安の動きが、輸入物価の伸びに今後どう跳ね返ってくるのか、気がかりなところである。
米FRBは9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げを見送り、日銀も9月の金融政策会合で現状維持を決定した。加速する円安の動きにブレーキをかける材料は、今のところ見当たらない。この先もう一段の円安が進むこととなれば、輸入原材料コストの再調整を意図して、五月雨式に値上げの動きが再燃する可能性がある。
少しずつ上方シフトを続けるイールドカーブの動きからは引き続き、中長期的に緩やかなインフレ見通しが織り込まれている模様だ。
ただし、雇用環境とマインドの悪化がみられ、収入環境の底堅さが消費を支える唯一の頼みの綱となっている。消費回復への足場がいささか心許ない中で、値上げ再燃の悪影響が景気の足を引っ張り、中長期的な回復シナリオを崩すおそれには、引き続き注意を要する。
特集:2022年、値上げをどう乗り切るか
特集1.値上げの価格戦略
- MNEXT 眼のつけどころ 値上げの時代の生き残りマーケティング(2022年)
- MNEXT 眼のつけどころ 市場脱皮期の富裕層開拓マーケティング―価格差別化戦略(2021年)
- MNEXT 値上げをチャンスに変える(2008年)
- MNEXT 不況下でもうまい価格対応で伸びる企業(2009年)
- 戦略ケース 値上げと小売業の競争 物価上昇で小売とメーカーは新競争時代に突入(2022年)
- 戦略ケース 値上げの現場 花王―戦略的値上げで収益性向上なるか(2022年)
- 戦略ケース 利益率低下により再値上げに踏み切ったキユーピー(2008年)
- 戦略ケース 値上げか値下げか-消費低迷下の価格戦略(2008年)
- マーケティングFAQ 「需要の価格弾力性」とは
特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析
特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 2019春の食品値上げラッシュ!値上げ方法で明暗(2019年)
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 値上げの影響を受けやすい牛乳、受けにくいマヨネーズ(2013年)
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 食品の値上げと安全性(2008年)
- MNEXT 下がる給料、増える生活費(2008年)
参照コンテンツ
- MNEXT 2023年の消費と戦略経営~マーケティングの6つの革新~(2022年)
- JMRからの提案 「消費社会白書2023」より 感情社会の生活イノベーション(2022年)
- JMRからの提案 感情社会の生活イノベーション エモーショナルブランディング(2022年)
- JMRからの提案 感情社会の生活イノベーション サクセスマーケティングの参考事例(2022年)
- MNEXT 眼のつけどころ Z世代攻略の鍵は時代にあり(2022年)
- MNEXT アフターコロナの本格マーケティング 2023年の消費を捉える10のポイント(2022年)
- MNEXT 眼のつけどころ プロ・マーケティングの組み立て方 都心高級ホテル競争 「アマン」VS.「リッツ」(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ 市場脱皮期の富裕層開拓マーケティング―価格差別化戦略(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ コロナ禍の訪問営業は時代遅れなのか?―「会うのが、いちばん。」(2021年)
- アフターコロナの営業戦略 激変市場に対応した小商圏型営業活動のすすめ(2021年)
- MNEXT 眼のつけどころ 行動経済学ベースのマーケティングのはじめ方(2020年)
おすすめ新着記事
消費者調査データ サブスクリプションサービス 広く利用される「プライムビデオ」、音楽サブスクには固定ファンも
調査結果を見ると、「Amazon プライムビデオ」が全項目で首位となった。「プライムビデオ」は認知率で認知率は8割強、利用経験では唯一4割強、今後の利用意向でも3割を超えている。
成長市場を探せ コロナ禍の壊滅的状況からV字回復、売上過去最高のテーマパーク
コロナ下では長期休業や入場制限などを強いられ、壊滅的ともいえる打撃を被ったテーマパーク市場、しかし、コロナが5類移行となった2023年には、売上高は8,000億円の大台を突破、過去最高を記録した。
消費者調査データ シャンプー(2024年11月版) 「ラックス」と「パンテーン」、激しい首位争い
調査結果を見ると、「ラックス(ユニリーバ)」と「パンテーン(P&G)」が複数の項目で僅差で首位を競り合う結果となった。コロナ禍以降のセルフケアに対する意識の高まりもあって、シャンプー市場では多様化、高付加価値化が進んでいる。ボタニカルやオーガニック、ハニーやアミノ酸などをキーワードに多様なブランドが競うシャンプー市場の今後が注目される。