半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:2023年10月05日

月例消費レポート 2023年9月号
消費は足踏み状態が続く-円安加速を引き金とする値上げ再燃リスクには注意を要する
主任研究員 菅野 守

※図表の閲覧には会員ログインが必要です。

 支出全般の伸びはマイナスが続いている。

 日常生活財と耐久財で、好不調の格差が鮮明となっている。日常生活財は好調さを保つ一方、耐久財は総じて不振が続いている。

 収入環境は改善の動きが続いているが、雇用環境とマインドは悪化の動きがみられる。

 値上げの悪影響は主に食料で大きく根強く残っている。国内企業物価や消費者物価の伸びは低下基調にある。輸入物価の伸びはマイナスだが底打ちの気配がうかがわれ、進む円安の動きの波及が気がかりである。

 加速する円安の動きにブレーキをかける材料は見当たらず、もう一段の円安が進めば、五月雨式に値上げの動きが再燃する可能性がある。

 収入環境の底堅さが消費を支える唯一の頼みの綱となっており、消費回復への足場がいささか心許ないなかで、値上げ再燃の悪影響が景気の足を引っ張り、中長期的な回復シナリオを崩すおそれには注意を要する。

 JMR消費INDEXは2023年7月に66.7となり、前月から横ばいとなっている(図表1)。

 INDEXを構成する個々の変数の動きをみると7月は、支出関連では3指標中、消費支出と平均消費性向の2指標で、悪化を示す動きがみられた。雇用関連の2指標のうち、月間所定外労働時間は3ヶ月ぶりに悪化となっている。他方、販売関連では、10指標中改善が6指標となり、前月よりも増加している(図表2)。

 消費支出の伸びは、名目と実質ともに5ヶ月連続でマイナスとなっている(図表4)。

 10大費目別では、7月は名目ではマイナスが6費目、実質ではマイナスが7費目となっており、前月同様マイナスの側が優勢である(図表5)。

 名目と実質の伸びの差は、食料で+8.6%、家具・家事用品で+8.4%、と際立っている。家具・家事用品は名目と実質ともにプラスとなっているが、食料では名目プラス・実質マイナスの状況が続いている。値上げの悪影響は食料で大きくかつ持続している(図表5)。

 物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2023年4月以降マイナスとなっているが、伸び率の値は直近の8月で上昇に転じている。国内企業物価の伸びも2022年12月以降低下が続いている。消費者物価の伸びも、極めて緩やかながら低下傾向にある(図表6)。

 財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では2023年1月を境に低下傾向にある。サービスでは緩やかな上昇傾向を保っているが、足許で伸びは鈍化しつつある(図表7)。

 販売現場では、小売業全体の売上は息長くプラスが続いている。チャネル別では2023年7月に全ての業態で伸びはプラスとなっている(図表11図表12)。

 外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。9月25日に公表された2023年8月分でも、売上の伸びは全体と主要3業態でともにプラスである。

 新車販売は、2023年8月時点で、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともにプラスとなっている(図表13)。

 家電製品出荷については、黒物家電、白物家電、情報家電のいずれもが総じてマイナスとなっている(図表14図表15図表16)。

 新設住宅着工戸数は、全体では2023年7月は2ヶ月連続のマイナスである。利用関係別でも、持家、分譲住宅・一戸建て、分譲住宅・マンションの全てでマイナスある(図表17)。

 3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは首都圏でマイナスとなったが、中部圏では3ヶ月連続のプラスだが、首都圏、近畿圏、その他の地域ではマイナスとなっている(図表19)。

 雇用環境については、有効求人倍率は3ヶ月連続で低下し悪化の動きが続いており、失業率も7月には上昇に転じている(図表8)。

 収入については、現金給与総額は19ヶ月連続、所定内給与額は21ヶ月連続、超過給与額は3ヶ月連続のプラスである(図表9)。

 消費マインドについては、消費者態度指数は6ヶ月ぶりに低下し、景気ウォッチャー現状判断DIも再び低下に転じている(図表10)。

 マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、2023年7月以降、株価は下落傾向で推移の後、8月半ば頃を境に上昇傾向に転じたが、9月半ば頃をピークに再び下落に転じる動きがみられる。他方、円ドル為替レートは7月に入り一時円高方向に振れたが、7月半ば頃を境に円安傾向が続いている。9月26日以降は終値で再び149円台に乗せている(図表21)。

 日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利と日本国債10年物金利の利回りはともに上昇傾向にあるが、米国債10年物金利はその水準と上昇ペースともに日本国債10年物金利を大きく上回る。特に米国債10年物金利は、7月下旬以降、上昇の動きに拍車がかかっている(図表22)。

 日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2022年3月初旬から直近の2023年9月下旬にかけて、時折若干の上下動を伴いつつも、イールドカーブは少しずつ上方へのシフトを続けている(図表23)。



 総合すると、消費は足踏み状態が続いている。
 消費支出など支出全般の伸びはマイナスが続いている。
 日常生活財と耐久財で、好不調の格差は鮮明となっている。
 小売販売や外食などの日常生活財は、総じて好調さを保っている。
 耐久財はクルマを除き、家電と住宅ともに総じて不振が続いている。

 収入環境は息長く改善の動きが続いているが、雇用環境は悪化の動きがみられ、マインドも足許で悪化に転じている。

 値上げの悪影響は、食料で特に大きくかつ根強く残っている。国内企業物価や消費者物価の伸びは、低下基調にある。輸入物価の伸びはマイナスながらも、底打ちの気配がうかがわれる。足許で進む円安の動きが、輸入物価の伸びに今後どう跳ね返ってくるのか、気がかりなところである。

 米FRBは9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げを見送り、日銀も9月の金融政策会合で現状維持を決定した。加速する円安の動きにブレーキをかける材料は、今のところ見当たらない。この先もう一段の円安が進むこととなれば、輸入原材料コストの再調整を意図して、五月雨式に値上げの動きが再燃する可能性がある。

 少しずつ上方シフトを続けるイールドカーブの動きからは引き続き、中長期的に緩やかなインフレ見通しが織り込まれている模様だ。

 ただし、雇用環境とマインドの悪化がみられ、収入環境の底堅さが消費を支える唯一の頼みの綱となっている。消費回復への足場がいささか心許ない中で、値上げ再燃の悪影響が景気の足を引っ張り、中長期的な回復シナリオを崩すおそれには、引き続き注意を要する。


図表を含めた完全版を読む

完全版を読むには無料の会員登録が必要です。

特集:2022年、値上げをどう乗り切るか

特集1.値上げの価格戦略

特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析

特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?


   

参照コンテンツ


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツプレミアム会員サービス戦略ケースの教科書Online


お知らせ

2024.12.19

JMR生活総合研究所 年末年始の営業のお知らせ

新着記事

2024.12.20

消費者調査データ No.418 サブスクリプションサービス 広く利用される「プライムビデオ」、音楽サブスクには固定ファンも

2024.12.19

24年10月の「商業動態統計調査」は7ヶ月連続のプラス

2024.12.19

24年10月の「広告売上高」は、6ヶ月連続のプラス

2024.12.19

24年10月の「旅行業者取扱高」は19年比で83%に

2024.12.18

提言論文 「価値スタイル」で選ばれるブランド・チャネル・メディア

2024.12.18

24年11月の「景気の先行き判断」は3ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.12.18

24年11月の「景気の現状判断」は9ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.12.17

24年10月の「現金給与総額」は34ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.12.16

企業活動分析 SGHDの24年3月期はロジスティクス事業不振で2期連続の減収減益

2024.12.16

企業活動分析 ヤマトHDの24年3月期はコスト削減追いつかず3期連続減益

2024.12.13

成長市場を探せ コロナ禍の壊滅的状況からV字回復、売上過去最高のテーマパーク(2024年)

2024.12.12

24年10月の「家計収入」は再びプラスに

2024.12.12

24年10月の「消費支出」は6ヶ月連続のマイナスに

2024.12.11

提言論文 価値スタイルによる生活の再編と収斂

2024.12.10

24年10月は「有効求人倍率」は改善、「完全失業率」は悪化

2024.12.09

企業活動分析 江崎グリコ株式会社 23年12月期は国内外での売上増などで増収増益達成

2024.12.09

企業活動分析 日清食品ホールディングス株式会社 24年3月期は価格改定浸透で増収、過去最高益達成

 

2024.12.06

消費者調査 2024年 印象に残ったもの 「大谷選手」「50-50」、選挙も五輪も超えてホームラン!

2024.12.05

24年11月の「乗用車販売台数」は3ヶ月ぶりのマイナス

週間アクセスランキング

1位 2024.05.10

消費者調査データ エナジードリンク(2024年5月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

2位 2024.04.05

消費者調査データ ノンアルコール飲料(2024年4月版) 首位は「ドライゼロ」、追う「オールフリー」「のんある気分」

3位 2024.12.04

提言論文 本格消費回復への転換-価値集団の影響力拡大

4位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

5位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area