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公開日:2023年11月02日

月例消費レポート 2023年10月号
消費は引き続き足踏み状態となっている-マインド悪化が消費回復の足を引っ張る可能性も
主任研究員 菅野 守

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 支出全般の伸びはマイナスが長期化しつある。

 日常生活財は好調を保っているが、耐久財は概ね不調である。

 雇用環境は悪化の動きに歯止めがかかり、収入環境は改善が続いているが、マインドは悪化が続いている。

 値上げの悪影響は依然として食料で大きいが、輸入物価の伸びはマイナスが続くとともに、国内企業物価や消費者物価の伸びも低下基調にあり、物価への上昇圧力は徐々に弱まりつつある。

 今後、米国の長期金利に天井感が出始め、日本の長期金利では天井が徐々に上がる見通しが強まれば、円安から円高へと反転する可能性は高まる。イールドカーブの動きからは中長期的に緩やかなインフレ見通しが織り込まれており、円高トレンドも穏やかなものに収まると見込まれる。

 ただし、マインドの悪化が消費回復の足を引っ張り、中長期的な回復シナリオを崩す可能性には注意を要する。

 

 JMR消費INDEXは2023年8月に60.0となり、前月よりも低下している(図表1)。

 INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出関連では3指標中、消費支出と平均消費性向の2指標で、悪化を示す動きが続いている。雇用関連の2指標のうち、有効求人倍率は2021年5月以来、27ヶ月ぶりに悪化となった。他方、販売関連では、10指標中改善が7指標となり、前月7月よりも減少している(図表2)。

 消費支出の伸びは、名目と実質ともに6ヶ月連続でマイナスとなっている(図表4)。

 10大費目別では、8月は名目ではプラスが5費目、マイナスが5費目と拮抗している。実質ではマイナスが7費目となっており、前月同様マイナスの側が優勢である(図表5)。

 名目と実質の伸びの差は、食料で+8.4%と際立っている。家具・家事用品では+6.7%となり、差は前月よりも低下している。値上げの悪影響は依然として、食料で大きいままだ(図表5)。

 物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2023年4月以降マイナスとなっており、伸び率の値も再び低下している。国内企業物価の伸びも2022年12月以降低下が続いている。消費者物価の伸びも、極めて緩やかながら低下傾向にある(図表6)。

 財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では2023年1月を境に低下傾向にある。サービスでは直近の2023年9月時点で横ばいとなっている(図表7)。

 販売現場では、小売業全体の売上は息長くプラスが続いている。チャネル別では全ての業態で、伸びは2ヶ月連続のプラスとなっている(図表11図表12)。

 外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。10月25日に公表された2023年9月分でも、売上の伸びは全体と主要3業態でともにプラスである。

 新車販売は、2023年9月時点で、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともにプラスとなっている(図表13)。

 家電製品出荷については、黒物家電、白物家電、情報家電のいずれもが総じてマイナスとなっている(図表14図表15図表16)。ただし、白物家電については、10月23日に公表された2023年9月分で、401L以上の電気冷蔵庫とルームエアコンはプラスに転じている。情報家電についても、10月25日に公表された2023年9月分でノートPCはプラスに転じている。

 新設住宅着工戸数は、全体では3ヶ月連続のマイナスである。利用関係別でも、持家、分譲住宅・一戸建て、分譲住宅・マンションの全てで2ヶ月連続のマイナスある(図表17)。

 3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは、中部圏では4ヶ月連続のプラスだが、首都圏は3ヶ月連続のマイナス、近畿圏とその他の地域では2ヶ月連続のマイナスとなっている(図表19)。

 雇用環境については、2023年8月時点で、有効求人倍率と失業率はともに横ばいとなっている(図表8)。

 収入については、現金給与総額は20ヶ月連続、所定内給与額は22ヶ月連続、超過給与額は4ヶ月連続のプラスである(図表9)。

 消費マインドについては2023年9月時点で、消費者態度指数と景気ウォッチャー現状判断DIはともに、2ヶ月連続で低下している(図表10)。

 マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、2023年7月以降、株価は9月半ば頃をピークに低下傾向が続いている。他方、円ドル為替レートは7月半ば頃を境に円安傾向が続いている。(図表21)。2023年10月25日と10月26日には2日連続、終値で150円台に乗せている。

 日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利と日本国債10年物金利の利回りはともに上昇傾向にあるが、米国債10年物金利はその水準と上昇ペースともに日本国債10年物金利を大きく上回る(図表22)。米国債10年物金利は10月25日に、終値で4.95%と5%に迫る水準まで上昇しており、その後は4.8%を超える水準で推移している。

 日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2022年3月初から直近の2023年10月下旬にかけて、時折若干の上下動を伴いつつも、イールドカーブは少しずつ上方へのシフトを続けている(図表23)。



 総合すると、消費は引き続き足踏み状態となっている。
 消費支出など支出全般の伸びはマイナスが長期化しつある。
 日常生活財は好調を保っている。耐久財は一部で改善の兆しがみえるが概ね不調である。
 雇用環境は悪化の動きに一旦歯止めがかかり、収入環境は息長く改善の動きが続いている。ただし、マインドは悪化が続いている。
 値上げの悪影響は依然として食料で大きい。他方で、輸入物価の伸びはマイナスが続いており、国内企業物価や消費者物価の伸びも低下基調にある。物価への上昇圧力は、徐々に弱まりつつあるようだ。
  日銀金融政策会合は10月30日~31日に終了した。今回の会合では、物価上昇率見通しが上方修正されるとともに、長期金利について1%超への上昇を容認することも決定された。米国FOMC(連邦公開市場委員会)は10月31日~11月1日に開催される。市場関係者の間では、今回の米国FOMCについては利上げ見送りの公算が高いとみられているが、今後の利上げについては「最終局面に近づいている」との見方も根強い。
 今後、米国の長期金利に天井感が出始めている一方、日本の長期金利では天井が徐々に上がっていく見通しが強まっていけば、円ドル為替相場も円安局面から円高局面へと反転する可能性は高まりそうである。
 上方シフトを続ける日本のイールドカーブの動きからは引き続き、中長期的に緩やかなインフレ見通しが織り込まれている模様である。それに合わせる形で、円高のトレンドも穏やかなものに収まると見込まれる。
 ただし、足許で続くマインドの悪化が消費回復の足を引っ張り、中長期的な回復シナリオを崩す可能性には注意を要する。


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特集:2022年、値上げをどう乗り切るか

特集1.値上げの価格戦略

特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析

特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?


   

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