支出全般の伸びは名目ではプラスが続いているが、実質ではマイナスとなっている。
日常生活財は息長く好調さを保っている。耐久財では依然として、好不調の格差が残っている。
雇用環境は方向感が定まらないが、収入環境は底堅さを保っており、マインドも改善の動きに転じている。
教養娯楽や食料でこれまで目立っていた値上げの悪影響も、足許で徐々に弱まりつつある。
持続的な円安の影響は、輸入物価の上昇へとつながり、国内企業物価の上昇へも波及しつつある。今後、消費者物価の上昇の可能性には警戒が必要だ。
それまでの円安・株高の流れから円急騰・株価急落への反転の動きが、足許で顕在化している。その背景要因として、米国内のインフレ鈍化を受けた米FRBによる利下げ実施の濃厚化や、日銀による年内利上げ観測の台頭などが、市場関係者やエコノミスト等の間でささやかれているようだ。
こうした動きが持続的な円安への歯止めとなれば、輸入物価上昇を引き金とした値上げの悪影響も弱まっていき、消費回復の足取りもより確かなものとなってくるであろう。
JMR消費INDEXは2024年5月時点で33.3となり、前月よりも低下している(図表1)。
INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出関連では3指標全てで悪化が認められる。雇用関連の2指標も悪化が続いている。販売関連では、10指標中改善が5指標、悪化が5指標となり、両者が拮抗している(図表2)。
消費支出の伸びは、名目では4ヶ月連続でプラスとなったが、実質では3ヶ月ぶりにマイナスに転じている(図表4)。
10大費目別では、2024年4月は名目ではプラスが6費目、実質ではプラスが4費目となっており、名目ではプラスの側が優勢であるが、実質ではマイナスの側が優勢である(図表5)。
名目と実質の伸びの差は、光熱・水道で+6.0%、教養娯楽で+4.8%、食料で+4.0%となっている。特に光熱・水道では実質-9.7%と、家具・家事用品(-10.0%)に次いでマイナス幅は際立って大きい。他方、教養娯楽と食料では、伸びの差は縮小を続けている。教養娯楽では名目と実質の双方でマイナスが続いているが、マイナス幅は実質で縮小している(図表5)。
物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2024年6月に109.5%と、5ヶ月連続でプラスとなっており、上昇幅も二桁に近い大きさとなっている。国内企業物価の伸びは若干ながら上昇が続き、消費者物価の伸びは横ばいとなっている(図表6)。
財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では横ばいとなっている一方、サービスでは4ヶ月ぶりに上昇している(図表7)。持続的な円安は、輸入物価の上昇へとつながっており、国内企業物価の上昇へも徐々に波及しつつある。2024年6月時点では消費者物価への跳ね返りはみられなかったようだが、今後について予断は許されない。
販売現場では、小売業全体の売上はプラスが続いている。チャネル別でも、総じてプラスとなっている(図表11、図表12)。
外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。
耐久財では、新車販売は2024年1月以降、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともにマイナスが続いている(図表13)。
家電製品出荷については2024年5月現在、黒物家電では4K対応薄型テレビは11ヶ月ぶりにプラスに転じたが、BDレコーダとスピーカシステムは再びマイナスに転じている。白物家電では洗濯乾燥機とルームエアコンはプラスだが、401L以上の電気冷蔵庫と電子掃除機はマイナスである。情報家電では、ノートPCはプラスが続いているが、スマートフォンは2022年10月以降マイナスが続いている(図表14、図表15、図表16)。
新設住宅着工戸数は、全体では再びマイナスへと落ち込んだ。利用関係別では、分譲住宅・マンションは2ヶ月連続でプラスだが、持家と分譲住宅・一戸建てはマイナスが続いている(図表17)。
3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは、首都圏、中部圏、その他の三つの地域区分で伸びはプラスとなっており、近畿圏でも伸びはわずかにマイナスとなっている(図表19)。
消費を取り巻く環境条件をみると、雇用環境については2024年5月時点で、有効求人倍率は低下が続く一方、失業率は横ばいが続いている(図表8)。
収入については、現金給与総額は29ヶ月連続プラス、所定内給与額は31ヶ月連続のプラスである。超過給与額は2024年5月速報で、6ヶ月ぶりにプラスに転じている(図表9)。
消費マインドについては2024年6月時点で、消費者態度指数と景気ウォッチャー現状判断DIはともに、3ヶ月ぶりに上昇に転じている(図表10)。
マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、株価は4月19日を境に上昇傾向を保っており、特に6月17日以降は急上昇を続けてきた。7月11日に終値で42,224円02銭を付けると反転急落し、その後は概ね低下が続いている。他方、円ドル為替レートは5月3日を境に円安傾向にあり、特に6月4日以上は円安の動きが加速した。7月10日には終値で161円67銭を付けると円高へと反転急騰し、その後は概ね上昇が続いている(図表21)。
日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利は、2024年7月1日に4.471%を付けて以降、緩やかながら低下傾向で推移している。7月17日に4.160%まで低下したが、その後はわずかながら上昇の動きがみられる。7月19日時点での終値は4.243%である。日本国債10年物金利も、極めて緩やかながら上昇傾向が続いてきており、5月29日には一時1.084%を付けた。その後金利は一旦低下したが再び上昇傾向に転じ、7月2日には終値で一時1.104%を付けたが、それ以降はわずかながら低下傾向で推移している。日米間の金利差は5月末頃以降、緩やかながらも縮小傾向で推移している。7月17日には一時、金利差は3.118%まで縮まった(図表22)。
日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2024年4月17日以降も上下動を繰り返しつつ、イールドカーブは上方シフトの動きを続けている。特に、イールドカーブの底打ちの位置は、4月17日から6月17日、7月16日へと時間の経過とともに上方へ切り上がっている。直近では、2024年7月16日を底に再び上方シフトへと戻りつつある(図表23)。
総合すると、消費は底堅さを保っている。
支出全般の伸びは、名目ではプラスが続いているが、実質ではマイナスとなっている。
日常生活財は息長く好調さを保っている。耐久財では依然として、カテゴリー間で好不調の格差が残っている。
雇用環境は方向感が定まらないが、収入環境は底堅さを保っており、マインドも足許で改善の動きに転じている。
値上げの悪影響は光熱・水道、教養娯楽、食料の3費目で残っている。光熱・水道では悪影響が際立つが、教養娯楽と食料では悪影響は弱まり続けている。
物価の動きをみると、持続的な円安は、輸入物価の上昇へとつながっており、国内企業物価の上昇へも徐々に波及しつつある。消費者物価への跳ね返りは足許ではみられなかったが、今後の上昇の可能性には警戒が必要だ。
2024年7月に入りマーケットでは、それまでの円安・株高の流れから、円急騰・株価急落への反転の動きが足許で顕在化している。その背景要因として、米国内のインフレ鈍化を受けた米FRBによる利下げ実施の濃厚化や、日銀による年内利上げ観測の台頭などが、市場関係者やエコノミスト等の間でささやかれているようだ。2024年7月13日に起きた銃撃事件でトランプ氏が一命をとりとめたことも、マーケットの流れを大きく変えそれを加速するきっかけのひとつになった可能性は高い。
こうした動きが持続的な円安への歯止めとなれば、輸入物価上昇を引き金とした値上げの悪影響も弱まっていき、消費回復の足取りもより確かなものとなってくるであろう。