支出全般の伸びは、名目ではプラスが長く続いており、10大費目別でも改善の側が優勢である。
日常生活財は息長く好調さを保っている。耐久財では好不調の格差が残るが、一部で改善の動きの進展が認められる。
雇用環境は方向感が定まらないが、収入環境は底堅さを保っている。実質賃金のプラス転換も消費にとって追い風の材料である。マインドも改善傾向にある。
円安の余波は輸入物価や国内企業物価の上昇へと跳ね返りつつあるが、消費者物価の上昇へと波及する気配は足許でみられない。日米金利差は縮小傾向にあり、円ドル為替相場は円安トレンドから転換しつつあることから、物価上昇による消費への悪影響も徐々に終息すると見込まれる。
収入の伸びが名目ベースで中長期的に持続しつつ、物価上昇が徐々に沈静化していけば、実質賃金のプラスへの転換と定着も進むと期待され、消費を中心とした内需主導での景気回復もより確かなものとなるはずだ。
JMR消費INDEXは2024年6月時点で40.0となり、前月よりも上昇している(図表1)。
INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出関連では3指標全てが2ヶ月連続で悪化となった。雇用関連の2指標も、2023年8月以降ともに悪化が続いている。販売関連では、10指標中改善が6指標、悪化が4指標となり、改善の側がわずかに優勢となっている(図表2)。
消費支出の伸びは、名目では5ヶ月連続でプラスとなったが、実質では2ヶ月連続で悪化している(図表4)。
10大費目別では、2024年6月は名目ではプラスが7費目と、前月5月よりも増加し、プラスの側が優勢である。実質ではプラスが5費目、マイナスが5費目と両者が拮抗しているが、プラスの費目数は5月よりも増えている(図表5)。
名目と実質の伸びの差は、光熱・水道で+7.0%、教養娯楽で+5.0%、家具・家事用品で+4.6%となっている。特に光熱・水道では実質-7.3%と、住居(-23.6%)に次いでマイナス幅は際立って大きい。教養娯楽では、名目の伸びはプラスだが実質の伸びはわずかながらマイナスとなっており、物価上昇の悪影響が残っている(図表5)。
物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2024年7月に110.8%と、6ヶ月連続でプラスとなっており、上昇幅も二桁台に乗せている。国内企業物価の伸びも若干ながら上昇が続いているが、消費者物価の伸びはプラスながらも若干低下している(図表6)。
財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では伸びが上昇している一方、サービスでは伸びは再び低下している(図表7)。5月初旬頃以降7月上旬頃にかけて加速した円安の余波が輸入物価の伸びの上昇へと跳ね返り、国内企業物価の伸びの上昇へもつながってきていた。足許で、消費者物価の伸びの上昇へと波及している気配はみられないが、消費者物価への転嫁がどの程度まで進むのかは、今のところ定かではない。
販売現場では、小売業全体の売上はプラスが続いている。チャネル別でも、総じてプラスとなっている(図表11、図表12)。
外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。
耐久財では、新車販売は2024年7月に、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともに伸びはプラスに転じた。両者の伸びがプラスとなったのは、2023年11月以来8ヶ月ぶりのこととなる(図表13)。
家電製品出荷については2024年6月現在、黒物家電ではスピーカシステムはプラスだが、4K対応薄型テレビとBDレコーダはマイナスである。白物家電では電気掃除機とルームエアコンはプラスであるのに対し、401L以上の電気冷蔵庫と洗濯乾燥機はマイナスであり、好不調が分かれている。情報家電では、ノートPCとスマートフォンはともにマイナスに沈んでいる。特にノートPCは、7ヶ月ぶりのマイナスである(図表14、図表15、図表16)。
新設住宅着工戸数は、全体ではマイナスが続いている。利用関係別でも、持家、分譲住宅・一戸建て、分譲住宅・マンションの全てマイナスとなっている図表17)。
3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは、首都圏と近畿圏ではプラスだが、中部圏とその他ではマイナスとなっている。特に、その他の地域での伸びの落ち込みが顕著となっている(図表19)。
消費を取り巻く環境条件をみると、雇用環境については2024年6月時点で、有効求人倍率は低下が続く一方、失業率は低下している(図表8)。
収入については、現金給与総額は30ヶ月連続プラス、所定内給与額は32ヶ月連続のプラスである。超過給与額は2ヶ月連続のプラスとなっている(図表9)。ちなみに、実質賃金指数の伸びは2024年6月時点でプラスに転じ、27か月ぶりに名目と実質ともにプラスとなっている。
消費マインドについては2024年7月時点で、消費者態度指数は横ばい、景気ウォッチャー現状判断DIは2ヶ月連続で上昇している(図表10)。
マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、5月に入って以降7月上旬にかけて株高・円安で推移してきたが、その後は8月上旬にかけて株安・円高に転じている、特に株価の落ち込みぶりが際立っている。8月に入って以降は、株価は乱高下が続いている。為替は一旦円安が加速したが、8月15日を境に再び円高へと戻している(図表21)。
日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利は、2024年7月1日に4.471%を付けて以降、低下傾向で推移している。特に、7月末頃から8月初旬にかけて急落の後、わずかながらも更に低下している。他方、日本国債10年物金利は、極めて緩やかながら上昇傾向が続いてきている。7月24日に1.084%を付けたのをピークに下落し1%を割り込んでいるが、足許ではわずかながらも上昇傾向で推移している。その結果、一時は4%を超えた日米金利差は縮小し、直近では+2.876%と、3%を割りこんでいる(図表22)。
日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2024年4月17日以降も上下動を繰り返しつつ、イールドカーブは上方シフトの動きを続けている。特に6月から7月にかけて上昇傾向で推移の後、7月下旬を境に下方シフトに転じ、8月半ば頃まで低下傾向で推移してきたが、足許では再び上方シフトへと戻りつつある(図表23)。
総合すると、消費は緩やかながらも改善の動きが続いている。
支出全般の伸びは、名目ではプラスが長く続いており、10大費目別でも改善の側が優勢である。
日常生活財は息長く好調さを保っている。耐久財では依然として、カテゴリー間で好不調の格差が残っているが、一部では改善の動きの進展が認められる。
雇用環境は方向感が定まらないが、収入環境は底堅さを保っている。実質賃金の伸びがプラスに転じたことも、消費にとっては追い風の材料である。マインドも足許で改善傾向にある。
値上げの悪影響は光熱・水道、教養娯楽、家具・家事用品の3費目で残っている。光熱・水道では悪影響が目立つが、教養娯楽では悪影響は軽微にとどまっている。
物価の動きをみると、円安の余波が輸入物価の上昇や国内企業物価の上昇へと跳ね返りつつあるが、消費者物価の上昇へと波及する気配は足許でみられない。
2024年8月に入り、日米金利差は縮小傾向が徐々に強まりつつある中で、円ドル為替相場は、5月から6月にかけてみられたような円安トレンドからは明らかに転換しつつある。輸入物価を起点とした物価上昇による消費への悪影響も、徐々に終息していくと見込まれる。
実質賃金の伸びはこれまでマイナスが続いてきたが、伸び率は改善傾向にあり、プラスへの復帰も少しずつ見え始めてきている。収入の伸びが名目ベースで緩やかながらも中長期的に持続しつつ、物価上昇が徐々に沈静化していけば、実質賃金のプラスへの転換と定着もよりスムーズに進むと期待される。
この先、消費を中心とした内需主導での景気回復も、より確かなものとなるはずだ。