支出全般の伸びは名目では上昇を続けており、10大費目別でも改善の側が引き続き優勢である。
日常生活財は息長く好調さを保っている。耐久財では好不調の格差が残るが、一部で改善の動きが続いている。
雇用環境とマインドは方向感が定まらず、収入環境は底堅さを保っているが実質賃金の回復の足取りは鈍い。
物価の動きをみると、物価上昇の動きは徐々に収まりつつあり、値上げの悪影響も一部のカテゴリーにとどまっている。ただし、日米金利差は拡大傾向にあり、再び円安も加速している。円安トレンドに転換が見られない限りは、物価上昇による消費への悪影響には警戒が必要だ。
今回の衆議院議員総選挙にて自公連立与党側が過半数割れに追い込まれたが、少数与党のままでは、法律案や本予算、更には能登半島豪雨被害の復旧・復興のための補正予算の成立すらも覚束ない。今後の景気と消費の回復にとって、政治が最大のリスクとなっていることは確かだ。
JMR消費INDEXは2024年7月に46.7へと上昇したが、8月には再び40.0へと戻している(図表1)。
INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出関連では3指標全てが4ヶ月連続で悪化となった。雇用関連の2指標も、2023年8月以降ともに悪化が続いている(図表2)。販売関連では、2024年7月は、10指標中改善が6指標、悪化が4指標となり、改善の側がわずかに優勢となっていた。2024年8月は、10指標中改善と悪化がともに5指標と、拮抗している。2024年9月については、執筆時点で明らかとなっている8指標中、改善が5指標、悪化が3指標である
消費支出の伸びは、名目では7ヶ月連続でプラスとなったが、実質では4ヶ月連続で悪化している。伸びの値は、名目では2ヶ月連続で上昇し、実質では横ばいとなっている(図表4)。
10大費目別では、2024年7月は名目ではプラスが8費目と、前月6月よりも増加し、プラスの側が優勢である。2024年8月は名目ではプラスが6費目となっており、7月よりも減少しているが、依然プラスの側が優勢である。実質では、改善と悪化がともに5指標と拮抗しており、わずかながらマイナスの側が優勢だった7月よりも好転している(図表5)。
名目と実質の伸びの差は、光熱・水道で+14.6%と突出して高いが、それに続く家具・家事用品で+5.6%、教養娯楽で+4.5%に止まっている。光熱・水道だけが、名目の伸びはプラスだが実質の伸びはマイナスとなっており、物価上昇の悪影響が残っている(図表5)。
物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2024年8月に97.4%となり、8ヶ月ぶりにマイナスに転じた。2024年8月時点で国内企業物価の伸びは102.8%、消費者物価の伸びは102.5%となっている(図表6)。
財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、財では伸びが低下、サービスでは伸びは横ばいとなっており、両者を合わせた総合では伸びが低下している(図表7)。総じて、物価上昇の動きは徐々に収まりつつあるようだ。
販売現場では、小売業全体の売上はプラスが続いている。チャネル別でも、全ての業態でプラスとなっている(図表11、図表12)。
外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。
耐久財では、新車販売は2024年8月に、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともに伸びは一旦マイナスに落ち込んだが、9月には両者とも再びプラスへ戻している(図表13)。
家電製品出荷については2024年9月現在、黒物家電ではBDレコーダはプラスだが、4K対応薄型テレビとスピーカシステムはマイナスである。白物家電は総じてマイナスである。情報家電では2024年7月以降、ノートPCは3ヶ月連続のプラス、スマートフォンは2ヶ月連続のプラスであり、好不調が分かれている(図表14、図表15、図表16)。
新設住宅着工戸数は、全体では2024年5月以降、マイナスが続いている。利用関係別でも、持家、分譲住宅・一戸建て、分譲住宅・マンションの全てで、再びマイナスとなっている(図表17)。
3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは、近畿圏とその他の地域ではプラスだが、中部圏では3ヶ月連続でマイナスとなり、首都圏は5ヶ月ぶりにマイナスに転じた。特に、首都圏での伸びの急落が際立っている(図表19)。
消費を取り巻く環境条件をみると、雇用環境については2024年8月時点で、有効求人倍率は悪化する一方、失業率は改善している(図表8)。2024年10月29日に公表された2024年9月分の数値では、有効求人倍率と失業率はともに改善している。
収入については、現金給与総額は32ヶ月連続プラス、所定内給与額は34ヶ月連続のプラスである。超過給与額は再びプラスに戻した(図表9)。実質賃金指数の伸びは、2024年7月はプラスとなったが、8月には再びマイナスに転じている。
消費マインドについては2024年9月時点で、消費者態度指数は上昇したが、景気ウォッチャー現状判断DIは低下している(図表10)。
マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、2024年9月上旬ごろから10月上旬頃にかけて円安・株高で推移してきた。10月上旬以降は、為替は円安が進む一方、株価は乱高下が続いている(図表21)。2024年10月27日の衆議院議員総選挙明け後の株価は、28日朝方に一時下落したものの、その後は上昇の動きが続いている。
日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利は、2024年7月1日以来、低下傾向で推移してきたが、9月10日頃を境に上昇傾向に転じている。日本国債10年物金利は、9月10日頃から9月24日頃にかけてわずかながら低下傾向で推移してきたが、その後は極めて緩やかながら上昇傾向に転じている(図表22)。10月25日時点での終値は、米国債10年物金利で4.232%、日本国債10年物金利で0.955%である。
日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2024年4月17日以降も上下動を繰り返しつつ、イールドカーブは上方シフトの動きを続けている。特に7月から8月にかけて低下傾向で推移の後、8月半ば頃を境に上方シフトに転じ、その後は10月下旬にかけて上昇傾向で推移している(図表23)。
総合すると、消費は緩やかな改善が続いている。
支出全般の伸びは名目では上昇を続けており、10大費目別でも改善の側が引き続き優勢である。
日常生活財は息長く好調さを保っている。耐久財では依然として、カテゴリー間で好不調の格差が残っているが、一部では改善の動きが続いている。
雇用環境やマインドは方向感が定まらない。収入環境は底堅さを保っているが、実質賃金の伸びは再びマイナスであり回復の足取りは鈍い。
物価の動きをみると、物価上昇の動きは徐々に収まりつつあり、値上げの悪影響も一部のカテゴリーにとどまっている。
2024年9月に入り、日米金利差は拡大傾向が徐々に進む中で、円ドル為替相場では再び円安が進んでいる。円安トレンドに転換が見られない限り、輸入物価を起点とした物価上昇によって生じる、消費への悪影響には警戒が必要だ。
2024年10月27日 の第50回衆議院議員総選挙にて、自公連立与党側が過半数割れに追い込まれた。執筆時点では、自公側に一部野党の取り込みによる連立拡大の見通しは立っておらず、少数与党での国会運営を迫られることとなりそうな気配だ。
少数与党のままでは、一般の法律案を通すだけでなく、来るべき通常国会での本予算の成立や通常通りの予算執行すらも難しいものとなってしまう。本予算の前にやるべきはずの、能登半島豪雨被害の復旧・復興のための補正予算の成立すらも、覚束ない有様だ。
この先、景気と消費の回復にとって、政治が最大のリスクとなっていることは確かだ。こうした状況は、少数与党の状態が打開されない限り、続くこととなりそうである。