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公開日:2024年11月29日

月例消費レポート 2024年11月号
消費は一旦足踏み状態となっている-政策転換を消費回復への新たな起爆剤に
主任研究員 菅野 守

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 支出全般の伸びは名目と実質ともにマイナスとなっている。

 日常生活財は息長く好調さを保っているが、耐久財では依然として好不調の格差が鮮明である。

 雇用環境は改善し、収入環境も底堅さを保っているが、実質賃金はマイナスが続いている。消費マインドも悪化傾向にある。

 物価上昇の動きは沈静化しつつあり、物価上昇の悪影響は軽微なものに止まっている。ただし、2024年11月に入ってからも日米金利差は拡大傾向にあり、円安トレンドも続いていることから、輸入物価上昇を契機とする消費への悪影響には要注意だ。

 今回の「103万円の壁」の撤廃に伴う基礎控除引き上げによる減税は、恒久的なものとなる見込みであり、支出増加のインパクトもより大きなものとなることが予想される。今回の減税が消費者のマインド改善にもつながれば、支出増加のタイミングの前倒しも期待できそうである。

 看過されてきた政策の転換が、今後の消費回復への新たな起爆剤となる可能性を秘めている。予想を上回る政策ショックは、消費者のマインド改善の決め手となるはずだ。

 JMR消費INDEXは2024年9月時点で8月同様40.0と、横ばいで推移している(図表1)。

 INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出関連では3指標全てが5ヶ月連続で悪化となった。雇用関連の2指標も2023年8月以降、ともに悪化が続いている(図表2)。販売関連では、2024年9月も8月と同様、10指標中改善と悪化がともに5指標と、拮抗している。2024年10月については、図中で示されている6指標中、改善が1指標、悪化が5指標である。その後、11月25日に公表された百貨店売上高は前年同月比で98.8%(店舗数調整前)、ファーストフード売上は前年同月比106.6%、ファミリーレストラン売上は同105.7%である。これら3指標も合わせると、執筆時点で判明している9指標中、改善が3指標、悪化が6指標となり、2024年10月は悪化の側が優勢となりそうだ。

 消費支出の伸びは8ヶ月ぶりに、名目と実質ともにマイナスとなった。実質では4ヶ月連続で悪化している。伸びの値の低下幅は名目で-3.4%、実質で-2.7%と、比較的大きなものとなっている(図表4)。

 10大費目別では、2024年8月は名目ではプラスが6費目、実質ではプラスが5費目となっていた。9月は名目ではプラスが6費目となっており、引き続きプラスの側が優勢である。他方、実質では、プラスが3費目、マイナスが5費目なっており、ふたたびマイナスの側が優勢となっている(図表5)。

 名目と実質の伸びの差は、光熱・水道で+9.6%と、引き続き突出して高いが、それに続く家具・家事用品で+4.8%、教養娯楽では+4.3%と、前月よりも縮小している。この3費目の中で、名目がプラスで実質がマイナスなのは家具・家事用品だけであり、実質の伸びのマイナス幅も-0.3%と微少であることから、物価上昇の悪影響は軽微なものに止まっている(図表5)。

 物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2024年10月に97.8%となり、2ヶ月連続でマイナスとなった。国内企業物価の伸びは103.4%とわずかに上昇しているが、消費者物価の伸びは102.2%とわずかに低下している(図表6)。

 財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、2024年10月時点で、サービスでは伸びはわずかに上昇したが、財では伸びが2ヶ月連続で低下しており、両者を合わせた総合では伸びが2ヶ月連続で低下している(図表7)。物価上昇の動きは徐々に沈静化しつつあるようだ。

 販売現場では、小売業全体の売上は2024年9月時点で、プラスが続いている。チャネル別でも、ほぼ全ての業態でプラスを保っている(図表11図表12)。

 外食売上は、全体でも主要3業態でも、息長くプラスを保っている(図表20)。11月25日に日本フードサービス協会から公表された2024年10月分の数値によると、全体では106.1%のプラスであり、ファーストフード、ファミリーレストラン、パブ・居酒屋の主要3業態でも引き続きプラスである。

 耐久財では、新車販売は2024年10月時点で、乗用車(普通+小型)は2ヶ月連続のプラスだが、軽乗用車は再びマイナスとなっている(図表13)。

 家電製品出荷については2024年10月現在、黒物家電では4K対応薄型テレビはプラスだが、BDレコーダとスピーカシステムはマイナスである。白物家電では、401L以上の電気冷蔵庫とルームエアコンはプラスだが、洗濯乾燥機と電気掃除機はマイナスである。情報家電ではノートPCは4ヶ月連続のプラスだが、スマートフォンは3ヶ月ぶりのマイナスである。家電は各カテゴリー内で好不調が分かれている(図表14図表15図表16)。

 新設住宅着工戸数は2024年9月現在、全体では2024年5月以降マイナスが続いている。利用関係別でも2024年8月に続き、持家、分譲住宅・一戸建て、分譲住宅・マンションの全てでマイナスとなっている(図表17)。

 3大都市圏別にみると、分譲住宅・マンションは2024年9月時点で、首都圏ではプラスだが、残りの三つの地域(中部圏、危機圏、その他の地域)ではマイナスとなっている(図表19)。

 消費を取り巻く環境条件をみると、雇用環境については2024年9月時点で、有効求人倍率と失業率はともに改善している(図表8)。

 収入については、現金給与総額は33ヶ月連続プラス、所定内給与額は35ヶ月連続のプラスである。ただし、超過給与額は再びマイナスに落ち込んだ(図表9)。2024年9月時点での実質賃金指数の伸びは、2ヶ月連続でマイナスとなっている。

 消費マインドについては2024年10月時点で、消費者態度指数と景気ウォッチャー現状判断DIはともに低下している。特に景気ウォッチャー現状判断DIは、2ヶ月連続の低下である(図表10)。

 マーケットの動きとして、まず円ドル為替レートと日経平均株価の推移をみると、2024年9月上旬ごろから10月半ば頃にかけて円安・株高で推移してきた。10月半ば頃以降、為替は円安が進んでいる。他方、株価は乱高下が続いていたが、11月上旬以降は低下基調にある(図表21)。

 日米の長期金利の推移をみると、米国債10年物金利は、2024年9月10日頃以降、上昇傾向で推移している。日本国債10年物金利は、8月初頭頃から10月初頭頃にかけて概ね横ばい傾向で推移してきたが、その後は極めて緩やかながら上昇傾向にある。ただし上昇のペースは、米国債10年物金利の方が日本国債10年物金利を上回っている。これが、足許での為替の円安基調を後押ししているようだ(図表22)。

 日本国債のイールドカーブの変遷をみると、2024年4月17日以降、イールドカーブは上方シフトの動きを続けてきたが、7月2日をピークに下方シフトに転じた。その後、9月24日を底に再び上昇シフトに転じ、若干の上下動を伴いつつ11月21日には2024年4月以降で最も左上方に位置付けられている。特に、残存期間1年~5年のところで、11月21日時点のイールドカーブと7月2日時点のイールドカーブとの高低差が際立っている(図表23)。



 総合すると、消費は一旦足踏み状態となっている。
 支出全般の伸びは名目と実質ともにマイナスとなっている。
 日常生活財は息長く好調さを保っているが、耐久財では依然として好不調の格差が鮮明である。
 雇用環境は改善し、収入環境も底堅さを保っているが、実質賃金はマイナスが続いている。マインドも悪化傾向にある。
 物価上昇の動きは沈静化しつつあり、物価上昇の悪影響は軽微なものに止まっている。ただし、2024年11月に入ってからも日米金利差は拡大傾向にあり、円安トレンドも続いていることから、輸入物価を起点とした物価上昇による、消費への悪影響には要注意だ。
 2024年11月20日の自民・公明の与党と国民民主党との3党合意により、「103万円の壁」の引き上げが、2025年度税制改正に向けた議論の俎上に載せられることとなった。2024年12月半ば頃公表予定とされる2025年度税制改正大綱で基礎控除の引き上げ幅がどのくらいに決着するかは未知数だが、今回の基礎控除引き上げによる減税は恒久的なものとなる見込みだ。
 恒久的減税による可処分所得の増加に伴う支出増加のインパクトは、一時的な定額給付の場合よりも大きなものとなることが予想される。今回の減税が消費者のマインド改善にもつながるようであれば、支出増加のタイミングの前倒しも期待できそうである。
 「103万円の壁」に限らず、これまで看過されてきた政策の転換が、今後の消費回復への新たな起爆剤となる可能性を秘めている。消費者の予想を上回る政策ショックは、マインド改善の決め手となるはずだ。


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