そこで本研究では特に国内の様々な製品の生産数量のデータに対して、PLCの自動抽出を行う新たな手法を提案し、これを用いて分類し、これらの背景要因も特定した。さらに事例をもとにPLCの衰退期における企業の戦略の抽出を行った。
結果、八つのタイプのPLCを抽出することができた。特に多くのタイプがみられたのが製品の衰退期に関連したサイクルであった。またこれらの製品が衰退した主な原因として、代替品の登場、輸入代替が伸びていること、長期的なニーズが乏しいことなどがわかった。
続いて、多くの企業が直面している商品の衰退期における戦略について、事例をもとに分類した。結果、撤退しない場合には、大きくわけて三つの戦略があることがわかった。投資を維持しシェアの拡大をはかる「投資拡大戦略」、高いシェアを差別性により維持する「シェア維持戦略」、そして再度サイクルを作り出す「再成長戦略」である。このうち、「再成長戦略」については、事例を豊富化させ、イノベーションという観点も加えたうえで六つのタイプに分類しなおした。結果として、製品に新技術を利用して既存顧客に提案することや、 製品を改良して新規顧客に対しても新たに展開すること、既存製品を利用して既存顧客に提案することなどが多くの企業でとられていることがわかった。
これらの結果をふまえることで、企業にとってその商品が現在どのようなPLCにあるのか、その原因は何かがわかるほか、こうした背景をもとに企業が今後利益を得るためにどのような戦略をとればいいのかということへの示唆へとつながると考えられる。
図表1.プロダクトライフサイクル |
(1)プロダクトライフサイクルの問題の概要とアプローチ
PLCはマーケティングにおいて長らく関心がもたれてきたが、このような強い関心の背景には、PLCが戦略を考える上での前提となる基礎的な理論として活用できることがあげられる。しかし、これまでPLCに関する批判も存在していた。PLCの形状は不確定であり、製品によりサイクルが異なるため予測に用いることが困難であること(Dhalla, Yuspeh, 1976)や予測に用いることができないこと(Kotler, 2006)、PLCのパターンが業界によって一定ではないこと、などの指摘があった。
そこで本研究ではPLCが一定ではないという点に対しては、製品によりスケールや形が異なってはいるが、ある程度似たタイプにわけることができると考える。このために「PLCにどのようなタイプがあるのか」という問いを設定し、実データを用意し、似た形状を抽出できる時系列データマイニング法を用いて自動分類を試みる。またこの際、各PLCがそのような形状をとった背景要因の特定も行う。
続いて本研究では、PLCは予測に用いることができないという点は認める。しかし、「マネジアル・マーケティングに固有の消費者志向、競争戦略における戦略的なアプローチを統合する主要な概念的基礎となる可能性がある」(Gardner, 1987)という考えを支持する。つまり、PLCはある企業にとって、その製品が現在PLCのどの場所にいるのかを確認し、そのうえで最適な戦略をとるための基礎となり、その条件によりPLCを変更することも可能であると考える。そして、ある企業の意思決定により変更される可能性があるため、必ずしも予測としては利用できないとする。こうした立場に立ったうえで、企業の意思決定についての詳細を調べるために具体的に「PLCのある時点でどのような戦略が必要か」を考える。ただし、これまでも多くの既存研究はあったが、現在の日本で多いと考えられる衰退期の製品に関しての戦略はあまり豊富に提示されていなかった。そこで、衰退期に関してすでに得られている知見のみならず、具体的な事例を検証することで、より企業の戦略パターン、特にマーケティング戦略のパターンを豊富化させることを試みる。
これらを通じて、企業にとってその製品が現在どのようなPLCにあるのか、その原因は何かがわかり、そしてこのような背景をもとに具体的に企業が利益を得るためにどのような戦略をとればいいのかということへの示唆にもなろう。
(2)本研究で用いるプロダクトライフサイクル
本論に入る前に、本研究におけるプロダクトライフサイクルとは何かを定義したい。PLCを考えるにあたりまず製品のレベルを考慮する必要がある。大きく分けてPLCには、「製品タイプ」「製品形態」「ブランド」の三つのレベルが存在する(Polli, Cook, 1969)。ほかにも「製品」という層を想定して四つのレベルにわけている研究もある。たとえを挙げよう。「製品タイプ」を筆記用具とすると、「製品形態」には鉛筆、万年筆、ボールペン、マーカーペンなどが該当する。「ブランド」はこれらに個別の製品名やメーカー名が記載されているレベルのことを指す。一般に「製品タイプ」レベルは長期的なサイクルであり、「製品形態」レベルは中期的、「ブランド」レベルは短期的で競合の企業の製品との関係も存在しているため変動が激しいとされている。本研究では、主に「製品形態」のレベルに焦点を当てる。企業にとっては「ブランド」レベルでの製品の管理が重要であるが、今日の日本にとって様々な製品で観察されているのが、自動車や家電製品といった製品における成長や衰退である。このような大きなレベルでの変化にどのように対応していくかというのは企業の生き残りにとっても非常に重要な課題である。また、本研究では、特に国内の生産者側からみたプロダクトライフサイクルをみていく。国内市場のみをみていく場合は、輸入などの影響を把握するのが難しい。そこで特に国内の生産者にとってどのような示唆が得られるかに焦点をあてるために、国内に限った生産数量を用いる。ここで数量を用いる理由は、売上高を分析した場合、物価の変動に左右されることが多いためである。
以上をふまえて本研究における問題をあらためて提示する。具体的には、
問題1「PLCにはどのようなタイプがあるか」
PLCのなかでも今日特に主要な衰退期における企業の戦略について議論するために、
問題2「PLCの衰退期においてどのような戦略がとれるか」
の二点である。以下、2章では問題1、3章では問題2を扱い、4章でまとめを行う。
本稿には当社代表・松田久一、並びに社会・経済研究チームのメンバーによる議論・検討の成果が活かされております。あり得べき誤りは筆者の責に帰します。
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