コロナ禍で、消費動向が変化しています。その変化をいち早く把握し、ビジネスに役立てるために、官公庁などが発表する統計データから気になる動向をご紹介します。
これまで大幅な落ち込みが続いてきた選択的支出の伸びは、底打ちから反転上昇の動きをみせている。
基礎的支出では、新型コロナウイルス感染対策支出や宅内充実支出が伸びを続け、特に宅内充実支出ではその裾野の拡がりもみられる。一方、選択的支出では、緊急事態宣言の解除に伴う経済活動の再開や外出機会の復活などを契機に、服飾雑貨を中心に大きく反転上昇している。
宅内充実の裾野が広がる基礎的支出、服飾雑貨を中心に再復活の兆しも見える選択的支出
1.大幅に落ち込んでいた選択的支出の伸びは底打ちから反転上昇へ
選択的支出の伸びは大幅な落ち込みが続いてきたが、底打ちを経て大きく反転上昇し、水面下での急回復をみせている。
選択的支出の伸びは2020年5月を底に、6月にはマイナス幅が大きく縮小した。基礎的支出の伸びは、6月に再びプラスに戻している(図表1)。
図表1.基礎的支出と選択的支出の前年同月比伸び率の推移
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消費支出に対する選択的支出の構成比は2020年5月を底に、6月には若干上昇している(図表2)。
図表2.基礎的支出と選択的支出の構成比の推移
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2.裾野の拡がりをみせる宅内充実支出
基礎的支出では、感染対策支出や宅内充実支出が引き続き伸びているだけでなく、特に宅内充実支出ではその裾野の拡がりもみられる。
2020年5月から6月にかけて、基礎的支出の中で特に伸びている品目に着目してみる。
図表3には、基礎的支出の品目の中で、2020年5月と6月のいずれかで、月あたり支出金額が1,000円以上となったもののうち、6月における前年同月比伸び率の値が+10%以上の項目を列挙してある。
図表3.基礎的支出における前年同月比伸び率の上位品目
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2020年6月に特に伸びたものは、「火災・地震保険料」「設備器具」「エアコン」「たばこ」「アイスクリーム・シャーベット」などの5品目である。「火災・地震保険料」とは、「火災や地震、その他災害に関する掛け捨て型の保険料」を指す。「設備器具」の中には、システムキッチン、洗面化粧台、浴槽、庭用植木、テラスなどが含まれている。そのうち、「火災・地震保険料」は住関連の保険の見直しという観点で、「エアコン」は室内の空気の清浄化も含めた住環境の快適化という観点で、宅内充実に寄与するものといえる。
「保健用消耗品」「他の家事雑貨」「他の家事用消耗品のその他」「健康保持用摂取品」「他の調味料」の5品目は、2020年5月と6月の双方で上位10位入っている。「他の家事雑貨」の中には、清掃用具、家庭用工具、裁縫用具、テーブルクロスなどが含まれている。「健康保持用摂取品」とは、「栄養成分の補給など保健・健康増進のために用いる食品であって、錠剤、カプセル、か粒状、粉末状、粒状、液(エキス)状など通常の医薬品に類似する形態をとるもの」を指し、一般にはサプリメントといわれるものである。
3.服飾雑貨を中心に再復活の兆しも見える選択的支出
選択的支出では、感染対策を意識したレジャー用品支出や宅内充実支出、コロナによる子供たちへの登校自粛・自宅待機措置に伴う必要経費としての「こづかい」などへの支出が伸びている。一方、緊急事態宣言の解除に伴う経済活動の再開や外出機会の復活などから、服飾雑貨を中心に大きく反転上昇している。
選択的支出の中で、2020年5月から6月にかけて支出の伸びに顕著な変化がみられた品目に着目してみる。
図表4には、選択的支出の品目のうち、2000年6月の月あたり支出金額が400円以上となったもののうち、6月における前年同月比伸び率の値が+25%以上の項目を列挙してある。
図表4.選択的支出における前年同月比伸び率の上位品目
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この条件を満たした計12項目のうち、2020年5月と6月ともに伸びがプラスのものが6項目、2020年5月は伸びがマイナスだったが6月にはプラスに転じたものが6項目である。
5月と6月ともに伸びがプラスの6項目のうち、「他の運動用具」は、2020年5月と6月の双方とも、伸び率の値は+50%以上である。「他の運動用具」は、「ゴルフ用品以外の運動用具」を指し、その中にはアウトドア用品も含まれている。「チューハイ・カクテル」は、2020年5月には伸び率の値が+50%を超え、6月も+50%をわずかに下回る水準で伸びた。「他の寝具類」と「他のこづかい」は、2020年6月に伸び率の値が+70%以上となり、5月の水準を大きく上回っている。「他の寝具類」は、「ベッド、布団、毛布、敷布以外の寝具類」を指し、その中にはマットレスやカバー類などが含まれている。「他のこづかい」は、「世帯主を除く世帯員こづかい」を指す。
5月は伸びがマイナスだったが6月にはプラスに転じたものの6項目のうち、緊急事態宣言下で自粛されていた「鉄道通勤定期代」や「幼児・小学校補習教育」は、解除後に経済活動が再開したことで復活した支出である。「腕時計」「他の婦人用下着」「他の男子用洋服」「アクセサリー」などの服飾雑貨関連の支出は、緊急事態宣言の解除に伴い外出の機会が戻ってきたことで、大幅なマイナスから大幅なプラスへと反転上昇している支出である。
ちなみに、「他の婦人用下着」は「服を美しく着るために体型を整える補正下着類」以外の女性用インナー・ファッションを指し、「他の男子用洋服」は「背広服、テーラードジャケットやブレザーなどの背広型の上着、男子用ズボン、男子用コート、男子用学校制服以外の男子用洋服」を指している。その中には男子用の様々なカジュアルウェアが含まれている。
4.コロナの感染収束の行方が選択的支出の本格回復を左右する鍵に
2020年3月以降下落に拍車がかかっていた選択的支出で、悪化の動きに一旦歯止めがかり、6月には一部のカテゴリーで再復活の兆しも見えてきた。
この先、選択的支出の回復が更に広がり、本格回復へとつながるか否かは、今後のコロナの感染収束の行方次第となりそうだ。
選択的支出の中でコロナ禍のダメージが極めて大きかった旅行・レジャー・イベント関連の業界では、緊急事態宣言の解除後、回復に向けた様々な取り組みがなされてきた。だが、6月に入り新規陽性者数が再び増え始めたことで、回復へのシナリオに狂いが生じている。
その後、新規陽性者数は、東京都でも全国でも、7月末から8月初頭辺りを境にピークアウトの気配がうかがえる。このまま感染収束へと巧く漕ぎ着けられれば、選択的支出にも本格回復への道筋が見えてくることとなるだろう。
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