インターネットの消費者心理 |
"フロー体験"の解明に向けて(米国の研究紹介)【前編】 |
消費研究チーム |
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1.はじめに | ||||||||||||||||
現在、日本のインターネットの世帯普及率は、62.4%に達しており、電子商取引についても48.0%となっている(インターネット白書2002)。インターネットを通じた情報収集や購買行動が活発化する中で、新たな消費者行動研究の枠組みが必要とされている。 本稿では、ユーザーのインターネット行動の理解に欠かせないふたつの要素―「行動タイプ」と「フロー体験」に関する米国の研究を紹介し、オンラインマーケティングへの応用について考察してみる。 以下は、 Novak,Thomas P.,Donna L. Hoffman and Adam Duhachek(2002) "The Influence of Goal-Directed and Experiential Activities on Online Flow Experience," Journal of Consumer Phychology, Special Issue on "Consumers in Cyberspace",13. (ゴール指向型・経験指向型行動がオンラインフロー体験に与える影響) の内容を要約・引用したものである。 | ||||||||||||||||
2.研究対象について | ||||||||||||||||
(1)行動タイプ:オンラインにおけるゴール指向型 vs. 経験指向型行動伝統的なオフラインの消費者行動についてはこれまで多数の研究がなされており(Havlena and Holbrook 1986; Hirshman 1984; Hirshman and Holbrook 1982; Mano and Oliver 1993; Unger and Kernan 1983)、大きくふたつの行動タイプが存在することがわかっている。ゴール指向型と経験指向型消費行動だ。また、マーケティングの領域においても、これらの行動パターンをベースとした研究が行われている。例えば、購買プロセスの根底にある「外部動機VS内部動機」(Davis,Bagozzi and Warshaw 1992;Bloch and Richins 1983; Celsi and Olson 1988)、あるいは「状況的関与VS永続的関与」(Bloch, Sherrell and Ridgway 1986; Richins and Root-Shaffer 1988;Wolfinbarger and Gilly 2001)などは、この考えを取り入れたものである。
(2)フロー体験コンピューターとユーザーのインタラクティビティを高め、快適なオンライン環境を過ごすのに重要な概念が「フロー体験」である(Hoffman and Novak 1996; Novak, Hoffman and Yung 2000)。「フロー」とは、ネット行動中におきる状態のことで、四つの特性により定義づけられる。(1)コンピューターとのやりとりの中でおきる継続的なレスポンスであり、(2)本質的に楽しいもので、(3)無意識の状態を伴い、(4)自ずと強まっていくものである。そして、個人のスキルとチャレンジするに値するコンテンツの両方が揃ったときに起こるものであることから、比較的経験を積んだユーザーで起こりやすいといわれている。フローを引き起こす先行条件について示したのが図表2である。このようにフローとその他のネットに関する態度についての研究は存在するが、一方でフロー体験の内容についてはまだ検討の余地がある。 | ||||||||||||||||
本研究では、これらを踏まえて以下の3点が検証されている。 1)行動タイプ(ゴール指向型・経験指向型)とフロー体験の発生には関連があるか 2)行動タイプ(ゴール指向型・経験指向型)ごとに、フロー体験の内容に差があるか 3)フロー体験のタイプにはどのようなものがあるか | ||||||||||||||||
3.研究内容の要約 | ||||||||||||||||
本研究では、フロー体験に関する質的な記述を用いて、その内容の分析を試みている。プロセスは以下のとおりである。(1)サンプルデータ収集にあたっては、第10回WWW User Survey(1998年10月10日から12月15日に実施)を利用した。これは、米ジョージア工科大学(GVU)が主催し1994-1998年まで計10回実施された世界的なネットユーザー調査である。対象者は、ネット関連のニュースグループ・ポータルサイトなどでのバナーや、GVUのメーリングリスト、新聞や雑誌などでの告知を通じて集められた。サンプリング手法が非確率論的であり自由意志での参加を前提としているためサンプルの代表性はやや弱い。特に、一般のウェブユーザーに比べてネット利用年数が長いという傾向が確認されている。WWW User Survey自体は全部で九つの個別調査から成り立っており、対象者は参加したい調査を任意に選ぶことができる。全体のサンプル数(最低ひとつの調査に回答した人)は5,206名であり、フローに関する個別調査に参加した人は1,312名、うちフロー体験について記述できた人は588名という結果であった。 (2)質問およびコーディングのプロセス今回提示したフローに関する質問項目は、以下の三つである。
これに対し、例えば以下のような回答が得られた。
このような回答の一語一語を、2人の評価者がコード表にしたがって分類した。コードは既存のフロー研究における理論的基盤をベースに、今回の回答内容を組み込んで作成されたものである。最初に35のリストを作成し、重複分を除いて最終的には10のコードに絞り込んだ。この10のコードを用いてまず著者がダミーの回答を分類し、それを例として評価者に分類法を伝授、評価者はさらに25のダミー回答を自ら分類してみてから本番に入るというプロセスを踏んだ。10のコードは図表3のとおりである(尚、ひとつの回答に複数のコードを割り当てることも可)。
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