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公開日:2021年08月17日

アフターコロナの営業戦略
対立から協業へ メーカーと小売の信頼関係構築事例
―相互成長のパートナーづくり
大澤 博一



 本コンテンツは弊社代表、松田がコロナ禍での営業の必要性と再構築を提案しているコンテンツ「コロナ渦の訪問営業は時代遅れなのか?―『会うのが、いちばん。』」を理論的ベースにした営業実践シリーズの第3弾です。

 これからの営業は、様々な場面で得意先との「共同」を実現できるかが重要です。メーカーと小売業は、「対立」から「共同・協業」に変化しています。メーカーも全ての小売業に均等対応するのではなく、協力していく得意先をパートナー化し、取り組みを強化することが当たり前になってきます。本コンテンツでは、パートナー選定を行うための具体的な視点などを、メーカーの事例を参考にして紹介します。


進むパートナー化の動き

 メーカーと小売りの取り組み強化のうまい例として、掃除機で有名なルンバを製造するiRobotを挙げることができます。iRobotは、取引販売店とのパートナーシップ強化により、お客様が安心して商品を購入できるように認定販売店制度を導入しています。

 ルンバがどのように掃除をするのかを見ることのできるスペースをつくる、アプリを使った実演販売、ルンバの部屋スペース認識・自律動作の実現環境をつくるなどの指定販売条件をクリアできる企業に対して、自社の商品を優先的に取り扱えるようにしています。そのことによって、価格やブランド伝達を管理しています。

 家電量販店売上No.1のヤマダ電機はルンバを扱っていません。売上規模ではなく、iRobotが考えるルンバの良さが伝わる売り方をしてくれる企業とパートナー化を行っているからです。

 よくメーカーから、「重点得意先を決めた」という話を耳にします。しかし、「何社ですか」と聞くと、「30社」と返答がありました。これでは決めたことになっていません。

 最近では、より一層絞り込んで得意先との関係づくりを行っているメーカーが多いです。H&BC業界でも、重点ドラッグストアを数社に絞るメーカーも出ています。例えば、ファンケルは21年4月からマツモトキヨシの専売製品「ファンケル・アクアクレンジング・リキッド」を販売しています。戦略的ブランドの留め型対応、もしくはダブルブランド対応となり、これまでの取り組みより的を絞っています。同じような事例が、様々な業界で見られるようになっています。


小売業の悩みとニーズ

 「メーカーと信頼関係があるなら、安く売るための方法や、安売りしなくても商品を売る工夫を一緒に考えることができる」、「お客さんを動かすには、スーパーからの情報発信よりも、メーカーの力の方が圧倒的に大きい。メーカーと協力する価値は大きい」。ヤオコーの元常務で、コーネル大学RMPジャパンのプログラム・ディレクター大塚明氏はそう指摘します(「チャネルの見極めとメーカーとの信頼関係づくり 元ヤオコー常務、大塚明氏に聞く」参照)。コロナ禍によるスーパーの特需が一巡し、これからのスーパーの課題が浮き彫りになってきたとき、頼ったり、相談したりできるメーカーがあるかが重要になっています。

 特に最近では、オンライン商談が増えたことで、バイヤーはメーカーから得られる情報量が不足していると感じています。オンライン商談では前後の雑談時間がなくなり、商品・ブランドだけの話になりがちだからです。お客様の情報が得られなくなったと感じているバイヤーが多いそうです。

 大阪を基盤としているスーパーのバイヤーは、「コロナによる家飲みの増加に着目して、酒売り場の近くにプレミアムのスナック菓子を置く提案を受けた。結果的には、ビールをまとめ買いする人が、ついでにスナック菓子も購入するという流れができた」と、商品・ブランド以外の話から生まれた提案のメリットを強調。商品説明だけでなく、売り方やシーンを想定することの重要性を指摘します。また、関東に基盤を置くスーパーのバイヤーは、「よその店の話で、参考になりそうな話をしてくれる営業さんは評価が高い。断片的でもいいので、販促のヒントになるような話は助かる」と言っています。このように、スーパーのバイヤーは消費者の新しい購買行動のスタイルを知りたいと思っています。

 バイヤーの評価基準は担当分野の売上と、利益をいかに上げるかだといいます。元大手ドラッグストア社長は「交差比率を重視している」と言います。今でも一部存在していますが、昔ながらのバイヤーは値入率やリベートの交渉が中心でした。ですが今は、売上と利益をいかにあげるかが重要となっています。消費者の生活変化をいち早く察知してMDにつなげていくことが求められており、情報の優位性により得意先をリードすることがメーカーには必要となっています。


メーカーはどのように得意先をセグメントすればよいのか

 メーカーは、様々な基準で得意先のパートナー選びを進めています。ある大手菓子メーカーでは、これまで得意先を売上規模に応じて三つに分類していました。上位グループの数十社には、営業担当が1企業1名専任で配置されていました。しかし、現在はこの制度をやめています。

 規模だけの関係からの脱却するために、売上の大小だけでなく、メーカーと小売業の双方が持続的成長できるパートナーとなりうるのかという観点から見直しを行いました。背景には、提案の質を上げ、得意先のカテゴリー横断的な広がりを踏まえた対応ができるようにするという目的があります。具体的には売上規模に加えて、勉強会が共同開催できること、どうやって市場を作るのか、お客さまにリコメンドしていくのかをディスカッションしながら取り組みを進められるかが指標のひとつになっています。

 ある調味料メーカーでは得意先ポートフォリオを構築しています。売上・インストアシェアと自社の利益額のふたつの軸で選定し、四つのタイプに分類しています。インストアシェアは、各スーパーの有価証券報告書にある食品売上と自社の売上から算出しています。インストアシェアが高く、利益額も大きい得意先は「最重点」、インストアシェアは低いものの利益額が大きい得意先は「きっかけづくり」、インストアシェアが高く利益額が小さい得意先は「利益改善」、2軸とも低い得意先は「省力化」としています。

 「最重点」は積極的に伸ばすチェーンとして、販促費をかけてでも得意先とともに新商品や新ニーズを育てていくように取り組み、戦略的留め型対応やオリジナル商品対応も行っています。「きっかけづくり」はインストアシェアを改善することが課題となりますので、店内シェア拡大に向けた種まきの提案を行っています。「利益改善」や「省力化」はマーケティング費があまりかからない誰もが知っている定番商品の取り扱い提案を行っています。各社とも営業戦略を明確にして、それを実現できるように得意先のパートナー化を行っています。


得意先を分類して重点パートナーを選定する

 得意先のパートナー選定の進め方には、三つの基本軸があります。ひとつ目は、売上規模や前述の調味料メーカーのような得意先のシェア、収益性などの業績軸です。シェアは得意先におけるメーカーの関係の深さ、発言力の強さを示す指標です。

 ふたつ目は、自社ブランド・商品をちゃんと育成してくれるのかを示す得意先の販売戦略に関する軸です。極端な低価格販売を行うのか、EDLP(Everyday Low Price)型なのか、あるいは比較的安定した価格で一緒に売り方、育成を行ってくれるのかという定性的な指標です。例えば、いかに売上が大きく販売力があっても低価格志向のドラッグストアやEDLP型のス―パーはパートナーと設定せず、取り組みブランドの価値を伝えて、育ててくれるスーパーなどをパートナーとして設定しているメーカーが多いです。

 三つ目は、得意先との信頼関係レベルの軸です。コロナ禍においてオンライン商談が中心になっている状況では、「対面で会える」「オンラインで商談できる」「まったく商談できない」の対応に分かれます。「対面で会える」得意先は、双方の信頼関係レベルが高いと判断できます。当社では、クライアントの営業サポートの経験から、図表のように四つの信頼関係レベルを設定しています。


図表.得意先との関係レベル



 レベル4は「バイヤー商談レベル」です。バイヤーしか商談に出てこない、バイヤーの課題への対応のみになっているレベルです。レベル3は「取り組み会議実施レベル」です。バイヤーの上司が出席した取り組み会議を年1~2回実施し、商品部方針に対して役立つ提案をして、店舗運営部などのバイヤー以外の複数のキーマンと会えるレベルです。レベル2は「信頼関係レベル」で、取り組み会議には商品部長が必ず出席し、商品部長の課題解決に取り組み、定番売場の主幹になっているレベルです。レベル1は「パートナーレベル」です。双方がパートナーと認識し、取り組み会議にはトップが出席し、得意先全体の課題解決に取り組み、新しいテーマを真っ先に相談し、価格以外の取り組みテーマが進んでいるレベルです。

 この信頼関係レベルをもとに自社の現状に合わせて得意先との信頼関係を客観的に判断して、自社のポジション、位置づけを明確にすることが重要です。

 様々な軸を設定して、得意先を分類し、重点パートナー企業でどのくらいの売上構成になるのか、どのくらいの利益がでるのかを確認します。そのうえで、営業費、販促費、人員配置や営業体制の検討を行います。

 前述の調味料メーカーは、営業担当と販促プランナー、栄養士、サポートスタッフのチーム営業体制をとっています。営業担当者は定期商談、陳列作業、予実管理、POS分析、得意先との関係づくりを行います。一方、販促プランナーは提案シナリオ、市場顧客分析、52週販促立案、商談を行います。栄養士はメニュー開発や情報発信、消費者コミュニケーションを考え、サポートスタッフはデータ支援、商流物流管理、決済業務を行います。

 チームで情報優位性を構築し、パートナーの得意先にお客様のライフスタイルに応じたメニュー開発、食シーン提案を行い、双方で食の新しい美味しさ、楽しさ、健康を伝えています。これらの活動に必要な費用は、「戦略費」として機動的に対応できるようにしています。また、iRobotのように指定販売条件を充足できるようにサポートを行うこともあります。


メーカーと小売の協業による付加価値の売り方競争の時代に

 これまでメーカーと小売業は、値入をさげる、リベートを厚くするといったメーカーからの搾取構造にありました。しかし、アフターコロナを見据えたこれからの環境下では、双方が疲弊し、顧客に良い提案が出来ず、さらに売上をカバーするために強引な低価格化に拍車がかかり、顧客が離脱するという悪循環に陥っていきます。

 それを避けるために、メーカーと小売業がパートナーとなり、共同で付加価値提案を行う取り組みで競争する時代になっていきます。例えば、当社がサポートしている静岡県の農作物(トマトやいちご、セルリや芽キャベツなど)の販売促進があります。ヤオコー店頭での試食やクッキングサポートコーナーでのレシピ提案を通じて、静岡県産農産物の販売・育成を5年間続けています。これにより、首都圏の消費者に認知され、比較的高価格でも確実に売れるようになっています。

 今後は双方でパートナーに選ばれない企業も出てきます。そうした取り組み競争に参加できないメーカーは、強引な低価格を受け入れるか、OEM化するしか生き残る方法はなくなってくると考えられます。得意先と有効なパートナー関係が構築できれば、そうした要請を回避することが可能です。また、小売にとっても生活スタイル提案による需要創造というメリットも生まれます。メーカーと小売企業それぞれが相手に選ばれるよう取り組んでいくことが、今後さらに重要になっていくでしょう。



シリーズ アフターコロナの営業戦略

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