図表1.新規事業が分けた明暗 |
第一の明暗はデジタル化への対応である。デジタルカメラのユーザーは写真のショット数は多いが、写真用フイルムは使わず、写真をラボでプリントする率も低い。写真は主にパソコンで鑑賞する。フイルムと印画紙を中心とする両社は写真フイルム事業の急速な縮小に直面した。デジタルカメラへの取り組みは両社とも同じだったが、ラボの現像機器の開発で差が出た。富士フイルムは、デジタルカメラ専用の現像機器の自社開発を進めたがコダックは自社の機械を持っていなかった。後れをとったコダックを尻目に、富士フイルムは自社製品を全世界のラボに入れることに成功した。
第二の明暗は、将来を見据えた事業の多角化である。富士フイルムは写真フイルム部門のリストラ(人員削減や配置転換等)、デジタル化への対応のあと、約40社に総額6,500億円を投じるM&Aを行い、攻めの経営に転換する。2001年には富士ゼロックスの事務機器事業を取り込み、オフィスを顧客とするドキュメントソリューションビジネスとして梃入れをし、2004年にはフイルムに代わる新規事業を加速するため「第2の創業」を宣言した。2005年には液晶パネル用光学フイルムに参入、2006年には社名から「写真」を外し、化粧品、医薬品と次々に新規事業を開発。これらの事業をインフォメーションソリューションとして第3の柱にし、業容をさらに拡大した。創立80周年となる2013年度には、売上高2兆5,000億円、営業利益1,800億円を最低目標として掲げている。成長の原動力は化粧品、医薬品などの「ライフサイエンス事業」である。
他方、同じ10数年間を、コダックはデジタルカメラ、デジタルミニラボ、デジタルプリントなど写真関連事業におけるデジタル化を進めた。しかし写真関連事業だけでは足りず、加速度的に減少する写真関連事業に代わる新たな事業を作り出せないまま、寿命を迎えた。写真に依存したコダックに対し、脱写真で多角化した富士フイルムは、リスクをとった新規事業の開発と多角化が、対照的な経営成果につながった。
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