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「NEXT VISION 2007」より
革新の「見えないエンジン」とプラットフォーム
-業界リーダーシップ獲得のための新しい競争手段
MPDプリンシパル、米ハーバードビジネススクール準教授
Andrei Hagiu(アンドレイ・ハジウ)

本コンテンツは、2006年11月15日に行われた当社イベント「NEXT VISION 2007」の講演録と、同日使用したプレゼンテーションをもとに構成したものです。
構成
 1.革新の「見えないエンジン」-ソフトウェアプラットフォーム
 2.マルチサイド(多面的な)ソフトウェアプラットフォーム
 3.ソフトウェアプラットフォームの起源と進化
 4.マルチサイド(ソフトウェア)プラットフォームの設計とビジネスモデル
 5.マルチサイド・ソフトウェアプラットフォームの競争的ダイナミズム
 6.マルチサイドプラットフォームの活用
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 本日の私のプレゼンテーションテーマは、「革新の『見えないエンジン(インビジブルエンジン)』とプラットフォーム」です。これは、市場が多面化し複雑さを増している現在のあらゆる産業と、その産業に属する企業にとって、競争優位の鍵を握る非常に重要なコンセプトとなるものです。

1.革新の「見えないエンジン」-ソフトウェアプラットフォーム
 皆様のご理解の手助けとなるよう、最初にソフトウェアプラットフォームを事例にとり、お話をしたいと思います。コンピューター関連業界では、実際にさまざまなプラットフォームというものが存在しております。
 もう既によくご存じのものもあると思いますが、まず、パーソナルコンピューターのOSとしてウインドウズ、MacOS、リナックスなどが例として挙げられます。PDAや、携帯電話サービスであるiモード、auなどもプラットフォームの例です。これ以外にも、デジタルメディアのプラットフォームが数多くあります。
 これ以外にももちろんたくさんあるわけですが、基本的に私どもが今現在のこの業界や市場でのいろいろな現象やビジネスモデルの説明をするときに、主要な例としてこれらを中心に取り上げています。
 プラットフォームとはどのようなものか、については後ほど詳しくご説明しますが、ここではまず、なぜ、これらをインビジブル・エンジン、すなわち見えないエンジンと呼ぶかについてご説明します。
 パソコンや携帯電話の世界では、消費者が直接利用したり触れるのは、携帯端末やPC機器といったハードウェアや、ワードやエクセル、動画やゲーム・GPSサービスなどのコンテンツ・アプリケーションの部分であることがほとんどです。ハードウェアやコンテンツといったものは、消費者側から見えるわけですが、それを駆動しているのはソフトウェアのプラットフォーム、すなわち消費者側から見えないエンジンであるということです。
 例えばPDAとかPC、この場合の見えないエンジンといいますのはOSに当たります。すなわち、ウインドウズ、MacOS等々であります。非常に明確です。これに対し、例えば携帯電話やスマートフォンの分野になると、どれが本当に消費者の利用を促進する「見えないエンジン」なのかということが、複雑でなかなか見えてこないことがあります。
 携帯電話やスマートフォンは、三つの主要なソフトウェアのプラットフォームが存在すると考えられます。1番目は、いわゆる携帯のOS、シンビアン、リナックス、ウインドウズCEといったものです。2番目は、ミドルウェア、これはクアルコム社のBrewなどを指します。それから、皆さまよくご存じのネットワークサービスのインターフェイス、iモードやauといったものが第3番目です。
 携帯電話産業界のなかでは、この三つのソフトウェアプラットフォームがお互いに競争している状況にあるわけです。つまり、携帯電話の世界での見えないエンジンとなり、業界の主導権を握ることを目指して、この3者間で争いが続いているのです。
 コンピュータ関連業界のエコシステムの中で、リーダーとしての存在となるのがソフトウェアプラットフォームです。エコシステムという言葉が出てきましたが、これは非常に重要な概念です。日本語でエコシステムというと、通常は生態系と訳されますが、ビジネスあるいは経済学においては、非常に頻繁にこのエコシステムという概念を使います。そのサービスあるいは製品自体が非常に補完性の強いものを持っている業界、または各産業や企業が密接に連関している、そういったものを指して、エコシステムという概念で定義しております。
 例えば、PlayStation3などは、非常にリッチなエコシステム(企業・製品あるいはサービス間が高度に連関した状態)を持っていると言えます。プレイステーションのプラットフォームが真ん中にあり、これを取り巻く、いわゆるサードパーティーのメンバーがエコシステムの中に存在しています。例えばナムコとかセガといった企業です。もちろん非常に重要なPlayStation3のエンドユーザーも入っております。
 例えば、PCの場合には、ウインドウズなどを見てみますと、非常に単純なエコシステムということになりますが、それ以外の例えばビデオ業界などを見てみますと、エコシステムというのはそれほど簡単ではありません。例えばハードウェア、ソフトウェアなどにもまたがっているわけです。

2.マルチサイド(多面的な)ソフトウェアプラットフォーム
 次に、マルチサイドのプラットフォームに関して話をしたいと思います。
 マルチサイドプラットフォームとは、ふたつ以上の複数のサイド(市場)を持っているプラットフォームという意味です。マルチサイドプラットフォームの特徴は三つあります。第1は、ふたつ以上の異なる種類の顧客が、ふたつ以上のサイドに存在していることです。例えばオンライン上の恋愛や結婚のマッチングサービスである「Match.com」は、片方が男性、片方が女性のふたつから成り立っています。
 第2は、それぞれが互いの存在を必要としていることです。eBayあるいは楽天はマルチサイドプラットフォームの例ですが、買う側と売る側が楽天の仮想商店上に存在し、お互いを求めています。
 第3は、プラットフォームはその顧客同士を繋げることで付加価値を生むということです。楽天の場合、距離に関係なく売買する場をネット上に提供することで、お互いのサーチコストを下げるという付加価値を提供しています。

 ここでの重要なポイントは、複数のサイドが相互依存的に様々な作用をすることによって、サイド間で利用価値を生み出し、各サイド間のネットワーク効果でさらに価値を生み出すということが、通常のソフトウェアのプラットフォームと異なり、非常に重要であるということです。この効果をネットワーク外部性と呼んでいます。これは、各サイドのメンバーが増えるにしたがって、各サイドに対してさらに大きな価値をもたらすという特徴があります。例えばソニーのプレイステーションでは、開発者サイドでゲームソフトが開発されていく、それによってさらにプレイステーションのユーザーが増える、ユーザーが増えることによってさらに開発者サイドで開発されるゲームソフトが増えるといった効果を生み出します。
 この特徴は、プラットフォームにとって非常に重要なことです。今申し上げたのはコンピュータ関連業界の一例ですが、これは必ずしもソフトウェアだけに限らず、すべての産業界に共通していえます。相乗効果、あるいは相互関係によってさらにそれが善い循環になっていくという形態です。これによって非常に高度なビジネス戦略を立てることが可能になります。

3.ソフトウェアプラットフォームの起源と進化
 ここで、ソフトウェアプラットフォームがどういうことを起源として成り立ってきたか、進化していったかについて話をしたいと思います。
 先ほども申し上げましたが、ソフトウェアのプラットフォームがベースになり、コンピューター関連業界の進化を促進させてきた、あるいはこれからも促進させるであろうと考えられる経済的・技術的な要因というのが三つあります。
 ひとつは、モジュール化です。これまでの経緯を見ても、これから考えられるものとしても、ひとつのトレンドとして、特にハイテク産業においては、さらにモジュール化というものが活用されていくというふうに考えられます。
 もうひとつはやはり製品自体の複雑性というものが増していくような技術的な革新、技術的な進歩というものが挙げられます。
 それから、もうひとつ非常に重要な点ですが、消費者の方から、やはりさまざまな多様性、バラエティーに富んだものに対しての要求、ニーズというものが高まっています。
 この三つの要因により、産業界はこれまでの垂直統合から垂直非統合へと移ってきています。
 実際にいろいろな産業界を見てみますと、コンピューター関連産業におきましては、このような垂直非統合というのが、いろいろな業界において同時並行的に起こってきています。従来は垂直型であったため、1社あるいは幾つかのサプライヤー、ベンダーというものが実際に製品あるいはサービスというものを提供し、それ自体が垂直に統合された形で提供されていました。IBMメインフレーム時代のような、ずっと以前のパソコン業界がその例です。
 ところがその後、消費者の側からいろいろなバラエティーが要求としてあがってきます。多種多様なアプリケーションを提供して欲しいというニーズです。そうすると、それに即応した形で、モジュール化というものがさらに進んでいきます。それまで1社ですべてを提供していた状況にかわり、様々な分野の多数の会社がサプライヤーとして登場し、各部分をパーツとして提供する、しかもその各部分を提供するもの自体がそれぞれに補完的な機能を持っているという形で進化していくわけです。
 これらの変化の結果、さらにソフトウェアプラットフォームの重要性が増します。各レイヤーで異なる企業が分業体制をとる垂直非統合という形ですから、どこかで誰かがコーディネートしてあげなければいけない。実際にさまざまなパーツを統合し、それを調整するという役目をソフトウェアプラットフォームが担ってきたということです。

 このような動きの中で、業界のリーダー的立場がこのソフトウェアのベンダーとなってきました。その業界の中でリーダー的な立場であることで、さらに革新的な動き、開発というものを促進してきていますし、それと同時に市場の重要な部分の価値というものを確保してきたのも、このリーダー的な立場であるベンダーです。

*モジュール化:製品やサービスの構成要素を分割し、分業すること
(2006.12)

【アンドレイ・ハジウ氏のプロフィール】

  • 仏国立理工科大学(Ecole Polytechnique)にて経済学士、修士を取得後、米プリンストン大学にて博士号(経済学)取得。
  • 1999年 仏経済金融産業省のアジア担当財務部、National Economics Research Associatesコンサルタント (2000-03年)を経て、2004年 RIETI(独立行政法人経済産業研究所)研究員(2005年09月30日まで)。
  • 現在、MPD(マーケット プラットフォーム ダイナミクス)プリンシパル、米ハーバードビジネススクール準教授を勤める。
  • 近著に「Invisible Engines」, David S. Evans, Andrei Hagiu, Richard Schmalensee. MIT Press. 2006.


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