売りの現場で競り勝つマーケティング | ||
-生活圏ベースの営業力開発システムの提案 | ||
舩木龍三 | ||
1.なぜ売れないのか
ものが売れない。強者にとっても弱者にとってもせつない時代になった。不況期には強者が有利と言われた時代もあったが、どの競争ポジションにあっても売れない。(1)弱者の売れない理由弱者は、すべてにおいて弱者であるから売れない。市場が伸びないなかで、ブランドの認知浸透度が圧倒的に劣位にある。認知率、トライアル率、現在使用者数、ロイヤルユーザー数の絶対値が強者とは大きな開きがある。教科書的な対策は、広告宣伝投資を強化し、認知率とトライアル率を上げ、ブランド力を強化しましょう、となる。しかし、弱者はそれが無意味なことを知っている。投資原資で強者に勝てないからである。教科書的には正しくとも、成功するには強者と同規模もしくはそれを上回る投資をしなければならず、そんな資金はどこにもない。このほか、革新的な新製品開発、新規チャネル開発、販売方法の差別化など多様な余地が残されているが、論理的な可能性はあっても、現実的な可能性はあまり残されていない。確率論からいえば開発投資をしている強者の方が革新的な新製品を出せるし、チャネルや販売方法も模倣されやすいのである。 (2)強者の売れない理由強者も売れない。マーケティング投資コストや営業人員数などあらゆる面で量的に優位に立っているが売れない。市場の成熟段階のセオリーは、ブランドとアイテムを多様化する、競合をしのぐ価格設定、よりすすんだ開放流通、ブランド差異化とベネフィット訴求となっている。しかし、これらの教科書的対策がほぼ通用しないことを強者は知っている。ブランド多様化は投資の分散とブランドの小粒化をもたらし、価格競争で利益を減らし、開放流通は組織小売業への利益移転につながった。資源の量的優位を活かした成熟突破のための量的拡大は、資源分散と利益減少になってしまったのである。強者が売れないもうひとつの理由は、弱者の集中戦略に1点を突破され、シェアを下げているからである。強者は市場に対して全方位で対応しており、1点を突かれたときの対応はなかなかできない。それでも全体では強者であるからだ。こうしたケースが続き、じわりじわりとシェアを下げていくのである。 (3)時代と不況に負け、売りの現場で負けている現実そして、両者に共通している理由がある。時代と不況に負け、売りの現場で負けていることだ。市場は大きく変わっている。注目すべきは変化は三つある。第一は、世代交代である。若年世代のクルマ離れ、アルコール離れに代表されるが、バブル崩壊を経験した若年世代はその上の世代とは価値意識、行動が全く異なる。消費好きの上の世代から勤勉、禁欲、寛仁の3K消費世代へと交代する時期に入っている。上の世代とはお金をかけている分野が異なり、従来のマーケティングが通用しない。 第二は、不況下でターゲットとする顧客ニーズが変わったからである。不況で売れないのは、節約しているからではない。不況によって変わる消費者の気持ちを掴めていないからである。食品でいえば、リーマンショック前のちょっとした贅沢や癒し、時間充実とニーズが弱まり、割高感のないもの、純粋なおいしさ、絆・関係性といった強まるニーズに対応できていないからである。 第三は、地域格差である。それまでは伸びるチャネルや得意先に重点をおけば伸びていたが、小売業の勝ち組はほとんどいない。伸びているのは東京や都市部など一部の地域で、特定得意先に重点化しても、全体ではマイナスという状況に陥るのだ。 地域が変わり、そこにいる顧客の世代交代やニーズが変化している。売りの現場が変わり、売れていないのである。全体で売れない、負けているのではない。売りの現場で状況は異なる。変わる売りの現場における資源配分の仕方が間違っていること、そこに生活する顧客の変わる気持ちを掴めていないことが問題なのだ。 2.売りの現場で競り勝つ原則―教科書マーケティングの限界
(1)教科書にはない売りの現場マーケティングはアメリカから輸入された。多くのテキストはアメリカのノウハウを教えている。しかし、日本市場には、独自の売りの現場がある。つぎの四つの点で異なる。1) 信頼ネットワークが基礎となるブランド-機能よりもメーカー製品を差別化し、差別化された機能を広告によって訴求しブランドを確立する、と教科書は教えている。消費者は合理的選択をする、という前提に立ったものである。しかし、日本の売りの現場は異なる。単なる合理的選択をしていない。機能よりも信頼が重視されるのである。したがって、どんなメーカーが創っているか、が重視される。機能は日本製と同程度で価格の安いサムスンの家電製品が売れず、日本撤退を決断したのは、ベースとなる信頼のネットワークが形成されていないからだ。逆に、昨今のお取り寄せブームは、多くの人が話題にし、顔のみえる信頼できる製造者が存在しているからである。 2) 売場が多様な業種小売業依存市場-売り方が多様日本の流通は、業種小売業が多数存在する状況から出発した。そこからアメリカ型のある程度標準化された売場や売り方ではなく、多様な売場と売り方が生まれた。その業種小売業は淘汰されたが売場と売り方は多様なままである。ドラッグストアといってもマツモトキヨシの都市型ようなジャングル売場もあればスギ薬局のような通路幅の広い売場もある。同じ業態といってもひとつの企業で最低三つのフォーマットがある。スーパーをみても、地域ごと特徴のある売場と売り方で大手に負けない企業があるように、売り方が非常に多様な国だ。3) 売りの現場に対応する機能=営業営業は、日本独自の売りの現場に対応する機能である。教科書のマーケティングでは、日本の営業にあたるものは、4Pのプロモーション機能のサブ機能としてのパーソナルセリング(販売)であり、セールストークなどの個人スキルを基軸とする顧客との接触活動によって、自社商品サービスを売ること、と位置づけられている。営業力とは個人のスキルレベルが規定し、営業力強化は訓練しスキルレベルを上げるか、優秀な人材を採用するしかない。それが無理と判断すれば、広告宣伝費や販促費を増やすのが常套手段である。日本は違う。日本の営業は、4Pとは独立した機能であり、売りの現場に対応する重要な機能として位置づけられている。 4)営業とはマーケティングの完結機能である営業は、地域などの具体的市場において、自社の商品サービスへの好意と購買を説得するように、関与者をネットワークし、コミュニケーションを設計し、実行することと定義できる。つまり、営業とは、マーケティングの個別化と実行であり、4Pマーケティングミックスを統合し、マーケティングを売りの現場で完結させる重要な機能を担っているのである。 (2)売りの現場で競り勝つ条件1) 競り勝つにはふたつの方法がある売りの現場で競り勝つための伝統的な方法はふたつある。強者と弱者の勝ち方である。弱者は、全体でみれば経営資源の量的優位性はない。勝つための方法は、特定の市場セグメントに対して量的に優位に立つことである。「柔よく剛を制す」個別撃破の勝ち方である。全体では負けていても、個別の特定市場では勝っているという状況をつくり出すことだ。サントリーが、プレミアムモルツで都市部エリアに集中投資し、プレミアムビールでトップに立ち、ビール系飲料市場で三位に躍進した戦略である。 強者の勝ち方は、個別市場での戦い方を避け、包囲することである。「剛よく柔を制す」勝ち方である。経営資源の量的優位を活かし、市場全体を振るカバーし、弱者の出る機会をなくす戦略である。製品のフルライン戦略、マルチチャネル戦略などが典型例である。 2) エリア市場での量的優位では営業が、売りの現場で競り勝つにはどうしたらよいか。基本は、エリア市場で量的優位に立つことである。エリア市場とは、営業拠点レベルと捉えている。第一は、営業戦力の量的な優位性である。営業人員数、営業拠点数、訪問頻度、提案数などである。第二は、顧客接点での量的優位である。配荷率、露出量、店頭での優位置確保、回転率を高める前バケ施策である。これらの営業プロセスは、営業個人のスキルレベルとマネジメントに依存する。 エリア市場レベルでみると、ある意味、アメリカ型のマーケティングが有効なように思える。勝つためには、営業人員の数を増やし、スキルアップ、マネジメントのための教育をすれば良い、という考え方である。 3) 生活圏での個別優位しかし、エリア市場レベルで量的優位に立っていても、勝てないケースが多い。日本市場は地域格差が生じ、生活圏ごとに多様な顧客が存在し、売場や売り方も多様だからである。ここでいう生活圏とは、半径2~5㎞の顧客の顔がみえる市場のことである。現代の日本市場で競り勝つためには、顧客の顔のみえる生活圏で競り勝つ方法が求められているのである。特定の生活圏で個別優位に立つには、量的優位だけではすまない。つぎの四つの条件が必要である。まずは、その生活圏での露出である。露出を確保するには、生活圏における拠点店を設定し、店頭での露出を確保するだけではすまない。店舗に制約されない露出の確保が必要である。ユニリーバが「ダブ」のシェア拡大でやっていたような生活圏での宅配サンプリングやタウン誌の活用、キリンビールがやっている地産地消型の取り組みなどが典型例だ。 つぎに必要なのは、その生活圏の固有名詞の顧客理解である。生活圏レベルではそれが可能となる。顧客理解の視点は、三つある。ひとつは、どのような顧客がその生活圏にいるか、ターゲットは誰かである。ふたつは、そのターゲットのニーズ、悩みは何かである。最後は、どのような生活リズムがあるかである。生活圏固有の歳事である。 第三は、そうした顧客理解のうえでの生活提案による信頼関係の形成である。特売などの条件刺激は短期的には有効かもしれないが、中長期的にはスイッチされてしまう。しかし、生活提案によって信頼関係が形成されれば、その生活圏でのブランド地位は揺るぎないものとなり、安定的地位を維持できるのである。そのためには、生活提案を持続的に展開することが必要になる。 第四は、顧客説得、プロモーションの関与者ネットワークを構築することである。売りの完結の仕組みである。売りの完結のためには、五人の関与者と七つのコミュニケーションユニットをどう設計するかである。その設計は、ペンタゴンモデルによって表現することができる。(図表) (3)空中戦、気合いやプロセス営業でも競り勝てない生活圏での個別優位が競り勝つ条件となっているなかで、これまでのマーケティングは効力を失っている。1) 空中戦は効かないマス宣伝、マスプロモーションといった空中戦は効果がない。需要は、個別生活圏の売りの現場で生まれているからである。空中戦で優位に立っても、個別生活圏での戦いで負ければ、売れないのは当然である。2) 不況では単純接触効果が生きない教科書にあるマス宣伝の量、店頭での露出や優位置確保によって認知度を上げ、トライアルを促進するというような単純接触効果を狙ったマーケティングは通用しない。不況では認知率の高さが購買を保証しないからである。不況で変わる顧客の気持ちを掴み、生活提案によって信頼を形成しない限り、売れないのである。3)プロセス営業で売れないのはなぜか強い営業をつくためには、配荷、優位置確保、前バケ施策といったプロセス営業と一斉配荷に代表される気合い、勢いづくりが必要と言われてきた。しかし、それだけでは売れない。これらは指数化され、量を追うことになるが、肝心の生活接近ができない。多様な生活圏に対し、一律の量的指標を追いかけても意味がないのである。3.どうするか-生活圏優位で市場を制す営業システムへの転換
では、どうしたらよいか。生活圏での個別優位という売りの現場で競り勝つ条件を創り出せる営業システムへと転換することである。つぎの三つが必要である。(1)市場を生活圏で分析し、競り勝つ生活圏に資源を集中する 生活圏とは、顔のみえる顧客理解ができる地域市場の単位である。具体的には半径2~5㎞の市場である。メッシュデータなどを加工し、独自の生活圏セグメントが必要である。 この市場単位で分析すると、格差や変動がリアルにみえてくる。これまで重要だと思われていた生活圏が人口移動と流通変動によって、生活圏の魅力度が変わる。この変動に対応しないと、全体では優位な体制にみえていても、個別生活圏で負ける、という現象を引き起こす。 いち早く生活圏の魅力度変動を捉え、重要な生活圏を特定し、個別優位に立てる資源配分を行い、個別優位を全体優位に波及させることが必要である。 特定の生活圏で個別優位に立つ戦略を、全体優位に結びつける道筋は、オセロゲームのようなものである。10の生活圏があり、競合は1社のみ、シェアが40:60で負けている状況を想定しよう。全市場を100とし、あるひとつの生活圏の市場が20を占めるとしよう。ここでのシェアアップのために資源を投下し、70:30の状況を作りだすとする。その場合、個別生活圏での優位は、全体シェアを46%に引き上げる効果をもたらす。残り9つの生活圏のうち、全市場の20を占める生活圏で、70%にシェアを高めれば、全体シェアは52%と逆転することができる。全市場の10を占める生活圏がふたつあるとすれば、この生活圏を制すればよいという計算になる。10の生活圏のうち三つで優位に立てば全体優位に結びつけることができるのである。 東京23区をメッシュデータをもとに独自の生活圏セグメントをつくり、ハフモデルによる出向人口を分析した結果、約4割の生活圏で売上の80%になることがわかった。この4割のなかで特定生活圏に集中し個別優位に立ち、全体につなげれば良いのである。(図表) セブンイレブンのドミナント戦略がその典型である。今でこそ店舗数は日本一を誇るが、かつては空白地域も多く、店舗数で№1ではなかった。しかしながら、店舗数で劣っていても、売上では№1であったのである。メーカーでみると、得意先別対応を強めていった結果、現在では、参照事例をみることは少ないが、得意先別対応を強めていても、拠点店を設定しているメーカーは強い。カルビー、マンダムが典型例である。生活圏という軸はなくても、そこに根ざしている有力店舗を押さえているからである。 (2)生活圏の課題を解決する競り勝つ生活圏を定めたら、課題を発見し、解決する。課題は計量化されなければならない。漠然とした課題ではなく、計量化された課題は、何が課題か鮮明化すると同時に、客観的目標設定と達成状況の掌握が可能なためである。メトリクス(指標)化による営業のPDCシステムである。我々の考えるメトリクスとは、顧客に根ざすものである。従来から言われている、配荷率、フェースシェア、販促実施率といった小売サイドの指標も必要ではあるが、生活圏で支持された展開ができているかを保証するものではない。従来の指標は、売れる状態づくりでしかなく、売れた結果、顧客に支持されたかどうかはわからない。 課題とは、生活圏におけるターゲット顧客への提案がどの程度受容され、信頼と継続購入につながったかされたかが掌握できて、はじめて明確になるのである。我々が考えるメトリクスとは、認知浸透力、提案浸透力、拠点店浸透力である。これらを計測可能なメトリクスにブレークダウンし、課題を設定することだ。 課題解決策は、生活接近のプロモーションである。生活圏のターゲット顧客の変わる気持ちと生活リズムを捉え、生活提案することである。売れる条件とは、現在の認知資産やネットワークをベースに、想定ターゲット顧客の変わる気持ちを理解し、顧客の信頼を得ることと、新たな価値提案、生活提案をしていくことである。より生活に接近したプロモーションが求められているのである(図表3)。不況下で強くなったニーズとしては、経済性に加え、開放感、食卓の楽しさ、絆や関係性といったものが考えられる。逆に弱まったのは、ちょっとした贅沢や癒し、時間充実などがある。また、変わらないニーズとしては、健康、品質安全性、手軽さなどが考えられる。 業績好調なハウス食品は、このような展開がうまい。この間のプロモーションをみていくと、ファイトカレーキャンペーンや「めざめる朝カレー」提案、シチュープロモーションが典型例である。なかでも、シチュープロモーションは注目できる。同社では、シチューによって野菜を効率的に摂取するプロモーションを展開し、ルーシチューの売上は対前年実質105%と好調だ。これまで冬場のメニューとして認識されていたものを、野菜ソムリエとタイアップしながら、「野菜まるごと」をキーワードに、健康と食卓の楽しさを提案、年6回の需要の山場をつくり、売上拡大に結びつけたのである。変わらない健康ニーズを押さえつつ、不況下で内食機会が増えたことをふまえ、家族との絆を深めるような機会やや野菜本来のおいしさを実感できること提案しているのである。 想定ターゲットごとに、こうした見極めをすることが必要である。特定生活圏であれば、よりリアルにターゲットが見えるだけでなく、生活リズムもリアルになる。リアルなターゲット、ニーズと生活リズムから、生活接近型のプロモーションテーマを組み立て、提案することが、顧客のブランドに対する信頼を形成し、売れるのである。これを持続的に展開し、特定生活圏で揺るぎない地位を確立することができる。 (3)生活圏の課題を追求するシステムを構築するこれまで述べてきた展開を追求できるシステムが構築できて、はじめて営業のシステム優位が確立できる。そのためには、つぎのようなサブシステムが必要である(図表4)。1) 生活圏を捉えるリサーチシステムまずは、競り勝つ生活圏を捉えるリサーチシステムが必要となる。生活圏の魅力度を捉える生活圏メッシュ分析システム、生活圏の課題を掌握するための顧客浸透度分析ができるリサーチである。顧客の声を聞かなければ課題は見えない。花王では、年に1回、大規模な生活者調査を実施している。その結果は、営業現場にフィードバックされ、営業拠点とその下の営業チームの政策に活用されている。従来では莫大なコストがかかっていたが、インターネットリサーチの普及によって、コストは劇的に安くなっている。新しい時代に営業システムで優位に立つためには、こうした投資が不可欠になっている。2) 営業メトリック管理システムリサーチによって課題を計量化し、マネジメントするシステムが必要である。「生活圏・営業管理シート」が必要だ。生活圏ごとに1枚でコンパクトに実態と課題が整理され、政策立案、顧客への提案の基礎資料とするものである。そのうえで、課題解決策の到達点となる目標を設定する仕組みをつくる。こうした管理システムは、半期や年に一回更新し、課題解決策の結果としての目標達成状況、新たな課題の発見に役立てていく。 3) 生活接近プロモーションシステム課題解決策としての生活接近のプロモーションを持続展開するための仕組みが必要となる。生活圏ごとにプロモーションテーマが開発できるシステムが必要である。その生活圏のターゲットそのニーズ、生活リズムを組み合わせ、アイデアを豊富かし、最適な生活提案テーマが開発できるようにする。生活提案テーマを営業が商談に活かせるサポートの仕組みも準備する。プロモーションカレンダーと商談シートである。その体裁事態は、既に採用している企業も多いと思われるが、違いはリアルな生活圏とそこに住む顧客理解のうえで作成されていること、計量化された課題が提示されていることである。 4) 営業推進システム最後は、これを推進・チェックしていく仕組みである。課題を計量化したメトリクスは、解決策が効果的に実施されたかの指標にブレークダウンされ、その進度や達成状況が把握できる「生活圏・営業管理シート」に更新される。そしてそのノウハウが共有される仕組みが必要である。カゴメでは、営業日報の代替手段として「情報カード」がある。店頭でそのような展開をしたか、その結果はどうだったかを報告する仕組みである。その結果は、通年で使えるもの、シーズンで使えるものに分類・蓄積され、そのストックは累計二万件以上に及び、すぐに使えるノウハウとして常時500の提案テーマが全社員に公開されている。 4.勝てる営業組織
生活圏ベースの営業力開発システムの構築と展開を通じて、勝てる営業組織をつくることが必要である。システム構築と同時に体質づくりが求められる。その鍵は、つぎの三つにある。(1)ホームランよりも連続ヒットの打てる営業今、求められているのはホームランを打つことよりも連続ヒットを打つことだ。顧客への生活提案の打率を高めることが必要なのである。営業現場は忙しい。月間に書ける提案書の数も数も限られる。そのためには、まず営業個人個人が顧客理解を深め、生活提案打率を高めることだ。生活圏ベースで発想すれば、リアルに顧客の顔がみえ、悩みやニーズが理解できるはずだ。売りの現場を見て、実感することから出発しなければならない。営業個人がそういうマインドを持ったときに、ノウハウ共有などのシステム的なサポートが有効になるのである。 (2)営業は生活圏での顧客説得のインテグレータ営業に求められるのは、生活圏での顧客説得のインテグレータとしての役割である。これができないと売りは完結しない。売りの完結とは、顧客のニーズにあわせて、生活提案のテーマに翻訳し、本社のマーケティング施策を取捨選択し、売りの関与者構造のなかで顧客説得する仕組みとして統合することである。 こうした役割を成し遂げることができる営業を育成しなければならない。 (3)生活圏優位を市場の長期優位に結びつける風土づくりこうした営業個人のマインドとスキルを高めることが生活圏での個別優位を創り出すことができる。この短期的な個別優位を長期の優位に結びつける風土づくりが勝てる営業組織づくりのための総仕上げである。組織には、限界質量の理論が作用する。この理論は、ある社会集団において、協力関係が高位に安定するか低位に安定するかは、一定の限界質量を超えるか否かにあるという理論である。過去の研究成果では、その限界質量は42%となっている。つまり、42%の人達が協力関係にある状態にあれば、最終的には87%の人達が協力する安定状態になる。逆にこのラインを下回れば、協力関係は次第に薄れ、結局は6%の人達しか協力しなくなってしまうというものである。 したがって、特定生活圏で築いた優位性を、組織で共有し、42%のメンバーが「自分もあのようにしたい」という風土づくりが、最終的には、全体での長期的優位性に結びつけることができるのである。特定の生活圏での優位を創り出し、全社へ波及させる、新たな体質づくりに転換する運動的アプローチを展開する必要がある。 日本には日本独自のマーケティングがある。その鍵を握るのは、売りの現場でマーケティングを完結させる営業である。変わる時代と不況に勝つには、生活圏で勝てる営業システムづくりが有効であると考えている。 (2009.10)
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本論文執筆は、当社代表松田久一による貴重な助言や協力のもとに行われました。ここに謝意を表します。 |