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ポイントシステムの顧客ニーズと企業の対応事例
本稿は、「産業新潮2007年10月号」掲載記事のオリジナル原稿です。
舩木 龍三

 企業がユーザーの商品サービスの利用状況に対してポイントを発行し、蓄積したポイント数に応じて何らかのベネフィットを提供するポイントシステムは、様々な企業、業種にわたっており、発行企業数は数百社にのぼると言われている。
 ここでは、弊社の独自調査の結果から、消費者のポイントシステムの利用実態、ニーズを明らかにし、企業に何が求められるかを明らかにしたい。

生活に浸透したポイントシステム
 ポイントシステムは、広く生活に浸透するようになった。多くの場合、ポイントカードという形式で消費者に発行されるが、その所有率は91.4%に達する。カード所有者の平均所有枚数は8.5枚、ふだん携帯しているのは5.3枚となっている。1ヶ月当たりの利用頻度は7.4回、週2回以上利用する割合は60%を超えている。
 発行元業種別の所有率をみると、家電量販店(51.7%)、スーパー(41.7%)、ドラッグストア(39.6%)の順となっているが、幅広い業種に分散している。また、業種ごとに中心となるユーザー層は異なる。家電量販店は男性20~40代、スーパーやドラッグストアは女性、映像ソフトのレンタル店は男女10~30代、航空会社は男性30~60代というようにユーザー層の違いがみられる。

図表 ポイントカードの所有・利用実態


ポイントシステムの利用価値
 このようにポイントシステムが生活に幅広く浸透しているのは、現金割引と極めて似た機能、利用価値を持っているためである。その利用価値は現金割引と比較して制限されるが、ポイントシステムの利用価値を高める条件を調査結果から探ると、つぎの四つがあげられる。
 ひとつは「少額貯金としての機能」を高めることである。利用理由をみると「後でお金の代わりに使えるから」、「割引やキャッシュバックがあるから」といった現金値引きの理由に加えて「貯金をしている気分になれるから」が上位にあがっている。実務的にはポイントの付与率や有効期限、利用条件をどう設定するかによって利用価値は変わってくるのである。
 ふたつは、ポイントの利用範囲の「オープン化」である。一企業に限定されたクローズドなポイントシステムよりも利用可能な店舗の制限のない方がユーザーの利用価値は高まる。発行企業のみの利用に限定されず他の企業でもポイント交換・利用できるようにすることが求められている。クレジットカード会社が自社の利便性を高めるために加盟店舗を増やすのと同様、どの程度オープン化するかは企業にとっても重要な意思決定となってくる。
 三つは、「発行枚数を多くする」ことである。ユーザーの今後の利用意向をみると、発行枚数が多い企業ほど利用意向が高くなる傾向がみられる。発行枚数が多ければ、「他の人も使っているから」という理由で安心して利用することができると同時に「使う人が多いからサービスも充実してくる」という期待感を生んでいると思われる。
 四つは、ユーザーのポイント蓄積数を増やすことである。満足度や利用意向とポイント蓄積数とは高い相関関係があることが確認できた。ユーザーの利用頻度を高めて蓄積ポイント数を増やすことで他社への流出を抑止することができるのである。

ポイントシステムの満足度を形成する2大要因
 利用価値を高めることがポイントシステムの満足度を上げ、来店・購入頻度を増やし固定客化につなげることができる。現状、所有するポイントカードのうち、もっともよく利用するカードの満足度は54%となっている。業種別では、家電量販店、コンビニエンスストア、航空会社の満足度が高い。
 満足度を形成する要因を重回帰分析という手法によってその影響度を総合的に分析すると、つぎのふたつの影響度が高いことがわかった。ひとつは「ポイントの貯まりやすさ」である。ポイントをいつでもどこでも貯めやすくするようにするには自社だけでなく、よりオープンなシステムへ進化させていくことである。提携も視野にいれたシステムを考える必要がある。
 ふたつは、「発行元で買える商品サービス」である。すなわち、欲しい商品サービスの入手可能性を高めることである。ポイント交換によって得られる商品サービスの魅力度をいかにして高めるか、ターゲットを見据えた対応が求められるのである。

ケーススタディ
 様々な業種にわたって発行されるポイントシステムであるが、業種ごとの代表的企業18社を取り上げ分析してみた。発行枚数は1社平均で980万枚、最大で2,000万枚を超える企業(ヨドバシカメラ、楽天)もある。しかしポイントカードの運用方法は企業によって異なる。今回取り上げた18社では還元率は0.1%~25%と大きな巾があり、有効期限は1~2年、異業種との提携の有無、提携の広さなど様々である。ここでは、成功するポイントシステムとはどんなものか、発行枚数が多く、満足度の高いヨドバシカメラとANAをケーススタディとして取り上げ、先に確認したユーザーニーズとの関連性をみていこう。
 家電流通業界のデファクトスタンダードとなっているのがヨドバシカメラの「ゴールドポイントカード」である。満足度は約75%ともっとも高い。このシステムの最大の特徴は還元率の大きさである。通常、現金購入すれば10%のポイントが付与される。他業界の還元率が数%の域を出ないのと比較しても極めて大きい。こうした還元率の大きさは単なる値引き以上の効果をもたらしている。つまり、現金値引きよりもポイント還元することによって、ポイントの消化のために顧客の来店頻度を上げ、関連購買を増やし、店舗の利用満足度を高めることによって、ストアロイヤリティを上げ固定客化を図り、大型商品の買い替えや買い増し需要を獲得することができる効果である。このうまい善循環のシステムが作用することによって、顧客の固定客化、囲い込みに成功している。利用範囲は自社だけであるにもかかわらずポイントの貯まりやすさを実現し、多くのユーザーが欲しいと応える大型家電製品の購入機会を提供することに成功しているのである。
 ヨドバシカメラとは異なる方法で会員数を増やしているのが「ANAマイレージカード」である。発行枚数は約1,500万枚を誇る。満足度は約65%と平均(54%)を上回る。特徴は利用範囲の広さである。提携企業は約40業種、企業数は300社、利用可能店舗は5万5,000店を超えている。提携企業の業種は、飛行機の関連性の高いホテル、旅行会社を超え、ドラッグストアや電子マネーのエディなど日常生活に密着した業種へとその巾を拡げている。多くのユーザーにとってANAの無料航空券は魅力的な商品サービスであることは間違いない。問題はポイントの貯めにくさにあったといえる。ポイントシステム導入当初は航空券購入でしかポイントが貯まらず購入頻度が少なければ有効期限(2年)がきてポイント失効というユーザーが多数いたと推測されるが現在では、約5万5,000店で利用可能である。とくにコンビニエンスストアでのエディ利用やドラッグストアの買い物がポイント加算されるようになってからはポイントの貯めやすさが増したことは明らかである。
 このように2社のポイントシステムは、満足度を形成する2大要因に上手く対応してきた。両社の違いは一企業限定か否かというオープン化の程度にある。ポイントシステムは一企業限定で展開している限りは会員数も頭打ちになり還元率や付加サービスも差別性のない同質化競争に陥りやすい。今後は、よりオープン性を高めていくことが必要となってくるであろう。事実、ヨドバシカメラと競合するヤマダ電機は紳士服のアオキ、通販の千趣会、ANAなど提携先を拡げてきているし、ヨドバシカメラもエディなど電子マネーとの連携を深めている。ユーザーは、よりオープンなポイントシステムを求めている。

(2007.10)

本稿は、当社代表・松田久一による助言・指導をもとに、舩木が代表執筆しております。本稿の内容は、松田からのアイデア・構想に大きく負っております。ここに謝意を表します。あり得べき誤りは筆者の責に帰します。

この提言コンテンツは、弊社オリジナル研究、「ポイントカードシステム利用実態調査」の結果をもとにして作成されています。

「ポイントカードシステム利用実態調査」

所有率91%、所有枚数8.5枚。流通企業や航空会社などが発行するポイントカードは人々の生活に深く浸透する一方で、企業にとっては顧客の固定化に有効な手段となっている。ユーザーのポイントカードの満足度と期待ニーズを探るオリジナル研究レポート。
定価49,000円 (本体46,666円+税) A4版 17頁

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