格差社会への移行によって、今までとは違ったマーケティングが必要になってきます。ここからは、弊社 松田の基調講演「マーケティングの新しい切り口」でご提案した、「顧客の再選択」「成熟市場のラグジュアリー化」「Webrooming」「IoTによる製品の役割変更」の四つの新しいマーケティングの切り口に基づいて、各社の具体的な成功事例について紹介します。
まず、1億総中流の時代から、格差社会へと移行することによって顧客のリセット(再選択)が必要になります。自社の商品や業界で、顧客が変化してきているという実感はないでしょうか。一例をあげると、ビールです。アサヒスーパードライが1980年代に発売されたころ、ビールはミドルの飲み物というイメージだったと思います。しかし、現在ビールを飲んでいる人は50代、60代です。このほか、リポビタンDなどの栄養ドリンクを思い出してください。バリバリ働く40代のビジネスマンなどが飲んでいるイメージですが、現在の中心顧客は50代、60代です。若い世代は、栄養ドリンクではなく。エナジードリンクを飲んでいるのです。このように、知らず知らずのうちに同じ商品でも今と昔では中心顧客が移り変わっていっています。
セブン-イレブンも中心顧客を変えたことが、今の成功を導きました。2000年代は少子化などの影響を受け、コンビニエンス業界全体が伸び悩んでいました。それを乗り越えて、今また再成長するセブン-イレブンの勢いには目を見張るものがあります。07年に2兆5千億円くらいだった売上は、今では3兆7千億円まで伸びています。つまりこの間に1兆円も売上を積み上げました。ちょうど09年あたりが、同社のターニングポイントになっています。このころから中心顧客が50歳以上になっていきました。シニアへシフトしたということが、読み取れると思います。
同社でどんな変化があったかを見てみると、まずは09年に井阪隆一さんが社長に就任しました。そして、時代の変化や統計データなどから三つの仮説を出して、戦略を立てたのではないかと思います。ひとつ目は、小売店の減少が働く女性や高齢者にとって不便な環境をつくっているのではないかということです。だからこそ、シニアにチャンスを見出すことができました。
ふたつ目は、働く女性やシニアが増えることによって、セブンプレミアムなどの惣菜をコンビニで購入して、おかずとして食事をしている人が増えていくのではないかということです。そして、最後の仮説は、シニア層は夕食の食材を購入する場所としてコンビニを使っているのではないかということです。これらの不便を解消するために、惣菜を充実させることがチャンスにつながると考えて、課題解決に取り組みました。
具体的には、カット野菜、チルド野菜、生鮮食品を充実させ、それに合わせた売り場の見直しを行いました。また、PBであるセブンプレミアムや「金のシリーズ」を充実させ、高価格、中価格、低価格と三つの価格ラインを品揃えすることで、お客様の選択する幅を拡げています。総菜などの商品開発も全国に160以上の専用工場を持つセブン-イレブンは抜きん出ています。店舗を出すだけでなく、物流と工場をセットで構築して出店地域を拡大し、さらに地域ごとの商品の開発も強化しています。そして、セブンミールなど自宅まで宅配するサービスも開始しました。これらの5つの改善によって、シニア層の顧客が伸びて、うまく変化に対応できたのだと思います。コンビニ業界で、一番うまく変化に対応したのが、セブン-イレブンといえます(図表1)。
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