私たちが服用している医薬品は、医師の処方せんにもとづく「医療用医薬品」を処方せん不要でも購入できる「一般医薬品」の大きくふたつにわけられます。後者は、ドラッグストアなどで販売されている風邪薬、胃腸薬、解熱鎮痛剤などTVCFでも放送されているもので、「大衆薬」とも呼称されています。現在市販されている大衆薬は約1万1,400品目あり、2009年6月の薬事法改正によって副作用の発生リスクに応じて第1類から第3類までに分類されています。
2002年11月に医薬品と健康食品のネット通販事業者「ケンコーコム」が大衆薬のネット販売を開始しましたが、2008年9月に厚生労働省が副作用リスクの高い「第1類と第2類の大衆薬」のネット販売を一律に禁止する省令を発表。これに対して、2009年5月にケンコーコムとウェルネットが省令の無効を求めて提訴しました。一審の東京地裁はこれを退けましたが、二審の東京高裁は逆転判決。2013年1月に最高裁が二審の判決「ネット販売規制は違法」を支持して国の上告を棄却しました。
判決以降、原告2社は販売を即日開始し、他の通販サイトでも薬のネット販売への参入が合い次ぐ、「事実上の解禁状態」となっています。これによって約6,000億円と推計される大衆薬市場は拡大が見込まれる一方、安全性に配慮して、医療用医薬品から大衆薬に転用して間もない薬(スイッチOTC)に限り、副作用の危険性などを配慮して、その検証期間として一定期間は販売対象から外す例外措置も検討されています。
こうした中、2013年6月に閣議決定された安倍政権の成長戦略において、第1類のうち、「ロキソニンS(解熱鎮痛薬)」や「リアップX5(発毛薬)」切り替わってから期間の短いスイッチOTCと劇薬の計25品目(全体の0.2%)は例外として「全面解禁」を表明しています。薬局チェーンなどでつくる業界団体「日本チェーンドラッグストア協会」もこれに倣って、25品目のネット販売自粛は継続しながらも残りの99%の商品についてネット販売の解禁を発表しています。
また、2013年4月からは家電量販店のビックカメラが第3類のネット販売に参入するなど、多くのチャネルで取り扱われることは必須です。しかし、実際に大衆薬の副作用の報告と死亡症例が「0(ゼロ)」でない以上、「全面解禁、あとは消費者の自己責任」ということに異論が多いことは事実です。国民医療の向上とセルフメディケーション(自己健康管理)普及は大きな課題ですが、「安全性と利便性」を両立させたネット販売の仕組み構築とルールづくり、さらには消費者側の理解を高める活動まで含めた議論が足りないと言わざるを得ないでしょう。
参照コンテンツ
- 戦略ケース 改正薬事法で変わるドラッグストアの競争軸
- 戦略ケース 大衆薬販売へ向けて加速するファミリーマートとセブン-イレブン(2008年)
- マーケティング用語集 改正薬事法
- 戦略ケース 大衆薬のネット販売本格化で始まるメーカー・小売の業界再編~アマゾンが薬のネット販売を開始~
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