現在、日本と米国との間で大きな金利差が存在しています。
米国債10年物金利と日本国債10年物金利について、2022年1月初から2024年5月初にかけての推移をみると、米国債10年物金利は日本国債10年物金利を大きく上回り続けています。
国債10年物金利でみた日米の金利差は、2022年1月初の時点で1.5%程度にすぎませんでしたが、徐々に拡大を続け、2023年10月半ばから10月下旬辺りで4%を超える時期が見られました。その後、12月末にかけて日米の金利差は縮小傾向にありましたが、2024年に入り再び拡大傾向に転じています。2024年5月2日時点で、米国債10年物金利は4.589%に対し日本国債10年物金利は0.908%、日米の金利差は約3.7%となっています。

更に、米国債と日本国債それぞれのイールドカーブを比較すると、10年物だけでなく、対比可能な残存期間の全てで、米国債の利回りが日本国債の利回りを大きく上回っていることがわかります。イールドカーブの形状をみると、米国債では残存期間7年を境に、一貫して緩やかなダウンワード・スローピング(逆イールド)から、わずかながらもアップワード・スローピング(順イールド)の傾向に転じております。
他方、日本国債では、一貫してアップワード・スローピング(順イールド)となっており、イールドカーブの傾きも、米国債よりも明らかにきついものとなっています。

ここで、米国債と日本国債のイールドカーブの情報から、期待理論に基づき、将来の短期金利の予想値を算出してみましょう。算出の手続きは、以下の通りです。
予想する短期金利は1年物の金利とします。イールドカーブで残存期間10年までの情報を活用し、今から9年後までの短期金利を予想します。計算に際しては、マーケティング用語集「イールドカーブ」で解説した数式を活用したものです。まず、残存期間1年の国債の利回りを、現在の短期金利の水準とします。例えば、残存期間1年と2年の国債の利回りから、1年後の短期金利の予想値が算出されます。同様に、残存期間2年と3年の国債の利回りから、2年後の短期金利の予想値が算出されます。
残存期間3年と5年の国債の利回りから、3年後と4年後の短期金利の予想値を求めますが、この際、4年後の短期金利は3年後の短期金利よりも高く、かつ、2年後から4年後にかけて短期金利の値は同じ幅で上昇していくものと仮定します。仮にその幅が0.2%とした場合には、3年後の短期金利の予想値は2年後の短期金利の予想値よりも0.2%高く、同様に4年後の短期金利の予想値は3年後の短期金利の予想値よりも0.2%高いものとして算出されます。上記と同様の方法で、残存期間5年と7年の国債の利回りから、5年後と6年後の短期金利の予想値を求められます。
最後に、残存期間7年と10年の国債の利回りから、7年後、8年後、9年後の短期金利の予想値を求めますが、上記と同様の考え方で、6年後から9年後にかけて短期金利は同じ値で上昇していくものと仮定します。
期待理論に基づき、日本と米国のイールドカーブの金利水準から試算された、米国と日本の国債1年物金利の予想値を示したのが、図表3です。
米国債1年物金利は、現在の水準である5.174%をピークに、4年後にかけて低下を続けた後、わずかながら上昇に転じますが、6年後をピークに再び低下に転じ、9年後の時点では4.563%になると予想されています。
他方、日本国債1年物金利は、現在の水準である0.095%を底に、概ね上昇を続けていき、9年後の時点では1.851%になると予想されています。
更に、日米間の短期金利差の予想値は、現在時点では5.079%と、5%を超えていますが、今後は若干の上下動を伴いつつも低下傾向で推移していき、9年後には2.712%と、3%を割り込む水準まで縮小していくことが予想されています。

以上より、短期金利の将来予想値からみた日米間の金利差は、将来的には縮小していくことが期待されますが、それでも、米国の金利が日本の金利を上回り続ける状況は、中長期的には持続していく可能性が高いです。
この先、こうした日米間の金利格差が解消され、場合によっては日本の金利が米国の金利を上回るといった逆転現象が生じるとしたら、大きくふたつの可能性が考えられます。
ひとつは、日本の中長期的な成長率予想が上昇に転じ、日米間での成長率格差が徐々に縮小していき、状況次第では日本の成長率予想が米国の成長率予想を上回ることで日本の金利が米国の金利を上回る、といった可能性です。この場合は、日本経済の再復活のシナリオといえるでしょう。
もうひとつは、中長期的に日本のインフレが加速し、当初の予想以上のペースで日本の金利が上がり続けていくことで日本の金利が米国の金利を上回る、といった可能性です。このとき、日本の実体経済の回復のペースがインフレのペースに追いつけなければ、こうした金利上昇は日本経済に悪影響を及ぼすものとなるでしょう。