消費経済レビュー 臨時増刊号(2010年9月) |
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少子化世代は微熱消費 | |
少子化世代はバブル後世代に比べて支出意欲は高く、領域別にみても支出増加の牽引役となっているなど、消費に積極的である。少子化世代は大型耐久財への関心が薄く、「即効美容」「スキルアップ」「IT」などを含む七つの領域を重点支出領域としている。少子化世代で目立つ節約行動は「食費切り詰め」「安値狙い」「支出意欲抑圧」などを含む五つのパターンに分類でき、貯蓄と借金への態度や行動として「支出旺盛・借金寛容層」と「堅実収支管理層」層とが拮抗している。総合すると、少子化世代で目立つ消費行動は「好消費層」「即効美容&おしゃれ重視・支出制御層」「レジャー&スキルアップ重視・借金寛容層」「嫌消費層」などを含む八つのパターンに分かれる。 消費行動の違いを生み出す背景要因として、チームでの達成体験や就職成功体験などの生活体験に着目すると、チームでの達成体験の存在は借金への寛容さと自動車の保有意欲を高め、更に就職成功体験が加わると支出は高くなる傾向が認められる。消費行動の違いの背景にある生活体験の違いは、誕生から就職を経て現在に至るまでのライフステージを各世代がどのように通過してきたかに左右されるが、少子化世代はバブル後世代に比べ明るい社会風潮の中で中高時代を過ごし、前向きな生活体験を積み重ねてきたことが確認できる。また、少子化世代が共有する楽観的スタンスは、少子化世代の消費意欲の底上げに寄与している。 少子化世代の消費の方向を探ると、少子化世代の男性はスキルアップと交際費、趣味関連、音楽・映画・ゲーム等のコンテンツへ、女性はファッション、音楽・映画・ゲーム等のコンテンツ、理美容サービスへ向かっていくと考えられる。ファッションと理美容サービスは重点支出領域の「おしゃれ」「即効美容」に結びつくが、これらの支出の背景にあるのは見た目のよさへのこだわりや変身願望であり、「見た目で負けない」姿勢が垣間見える。スキルアップと交際費は重点支出領域の「スキルアップ」「人づきあい」に結びつくが、これらの支出からうかがえるのは、就職氷河期で苦しむ先輩たちを後ろで見ながら、正規雇用であっても組織に安住せず、自分のやりたい仕事をつかむため他人に負けないように己を磨き続ける態度である。音楽・映画・ゲームは重点支出領域の「コンテンツ選好」に結びつくが、特に少子化世代で強いのは音楽への選好である。それらの支出には、(仕事ではなく)音楽・バンドといった自らの趣味・特技へのこだわりによる「自己実現」の追求姿勢が垣間見える。 少子化世代にとってより本源的な欲望を解明するため、「欲望とは他者の模倣欲望である」と捉える松田(2010)の理論的立場を立脚点に、最近のヒット曲などを素材として少子化世代の欲望の解釈を試みた。それらに共通するのは、恋人やパートナーなどの自分から半径1メートル以内の身近な人物を模倣対象として互いに密着・依存しあおうとする欲望、彼らとの日常生活や人間関係の永続への願いであり、その根底にあるのは「幼児期の万能の母への依存欲望」である。依存欲望を源泉とした、内向きの生活スタイルと日常への回帰は、少子化世代の欲望とそこから派生するニーズを読み解くキーワードとなろう。 (2010.09)
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