消費経済レビュー Vol.16 |
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Economic Outlook for Japan | |
東日本大震災と福島原発事故が日本経済にもたしたダメージの深さが、徐々に明らかになりつつある。実質GDP成長率は2四半期連続でマイナス成長を記録、特に民間最終消費支出は2四半期連続でのマイナスとなり景気失速の主役となっている。輸出はかろうじてプラスを保ったものの、その勢いは弱い。設備投資は、製造業では堅調な回復が期待できる反面、非製造業では回復の足取りは重い。大震災により消費財や資本ストックが毀損したことで、消費財では在庫調整が強制的に進み、投資財では在庫が強制的に取り崩された反面、生産財のダブつきが目立っている。 政策効果の息切れが見え始めた2010年12月以降、消費の失速ぶりは鮮明だ。商業販売は総じてマイナスであり、供給サイドからみても消費の不振は明らかだ。消費者のマインドは、大震災や原発事故を契機に大幅に落ち込んでいる。マインドの冷え込みが長引けば、消費の回復への足かせはますます重くなる。雇用環境はこれまで堅調さを保っているが、所得環境は2010年後半以降悪化の兆しがみられる。 弊社の独自調査によると、景気と雇用環境の見通しはいずれも悪化の傾向が進んでいるが、収入状況は実態と見通しともに悪化の気配はみられない。支出は、実態面では支出増加の傾向が鮮明であり、支出意向も現状維持が優勢で底堅い。 2011年度の日本経済の先行きを占うと、中国の景気は安定成長が続き、米国の景気も回復の足取りは重いが腰折れまでには至らない。ただし輸出は海外の景気の波乱要因や円高含みの相場展開の下で、伸び悩みはしばらく続きそうである。設備投資の調整はようやく終了し、伸び率もプラスに転じたことで、今後も回復の動きは続くと期待される。在庫・生産調整については、東日本大震災を機に一時的に在庫不足、生産能力不足に転じるが、復興特需が立ち上がってくれば状況は改善していくであろう。物価は、2011年にはデフレ脱却を果たし、緩やかなインフレの状況が景気にもプラスに作用することとなろう。 不確定要因となっている「政府財政規模」「雇用・収入環境」「個人消費」について弊社の見解を示すと、政府財政規模については、与野党間で論議がまとまらず、震災復興事業への予算の手当ては不十分な規模にとどまる。雇用・収入環境については、生産の回復の遅れや消費の冷え込みなどで非正規雇用を中心に雇用は減少するも、正規雇用層にまでは広がらず、雇用環境の悪化に歯止めがかかる。企業業績の低迷で賃金上昇は抑制されるが、正規雇用層を中心に基本給カットにまでは至らず、収入環境の悪化も回避される。消費については、消費マインドの悪化が急速に進み、大型耐久財やブランド品に加え、旅行や外食、レジャーなどの購入も敬遠されそうだ。 2011年度の日本経済の先行きに対する弊社の総合的な判断は、政府の財政規模は不十分なものにとどまり、雇用・収入環境は持ちこたえるものの、個人消費は低迷状況に陥る「景気悪化・消費低迷シナリオ」を採用したい。次善のシナリオとしては、政府の財政規模は不十分なものにとどまるが、雇用・収入環境は何とか持ちこたえ、個人消費も堅調さを保つ「消費堅調・一時的景気低迷シナリオ」と、政府の財政規模は10兆円を超え十分な手当てがなされ、雇用・収入環境も持ちこたえるが、消費マインドの悪化が尾を引き個人消費の低迷が続く「マインド悪化・一時的消費低迷シナリオ」のふたつを挙げておきたい。 (2011.06)
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