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消費経済レビュー Vol.16
電子書籍:現在、近未来、未来

 本稿では、電子書籍にかんする技術の現在を確認したうえで、Web技術をふまえた電子書籍の近未来、そしてさらにもっと先へ――電子書籍のまだ見ぬ未来について考える。はじめに、電子書籍にかんする現状の技術についてのべる。電子書籍の行く末を知るのにまず必要なのは、電子書籍フォーマットや、著作権保護技術(DRM)についての正確な理解であると考える。電子書籍のフォーマットには、大きくわけて二種類ある。ひとつは、「構造化テキスト型」、もうひとつは「ページ記述型」である。前者はリフローが可能で、いろいろな媒体で表示しやすいのがメリットである。後者はレイアウトが自由で、従来の書籍作成プロセスに乗せやすいことがメリットである。それぞれに特長があるので、両方のタイプが共存し、前者ではePub、後者ではPDFが優勢になるとみる。DRMは、電子書籍のフォーマットとは、本来独立のものである。DRMはそもそも避けられない脆弱性があるが、ちゃんと脆弱性を受けいれてしくみをつくれば、DRMは必要な範囲では機能しうることについてのべる。つぎに、上記の技術についての理解をふまえて、電子書籍の近未来予想図を展開する。電子書籍のフォーマット間競争は、たとえば家庭用ビデオテープレコーダにおけるVHSとベータの争いや、光ディスクの規格競争とは異なり、多様なフォーマットの共存をゆるすものである。電子書籍を制作したり、販売したりするのは紙の書籍にくらべてかんたんなので、潜在的な参入者が無数にいる。そのうえ、webサービスなどでプラットフォームをオーバーラップする技術が、電子書籍の世界にどんどん持ちこまれることで、プラットフォーム間競争は無意味になる。そうした見地から、たとえばハードウェアメーカにとっては、どのフォーマットに対応するかや、電子書店の運営といったことよりも、端末自体の使い勝手を良くすることのほうが本質的であると考える。さいごに、電子書籍の未来を考えるための基礎作業として、そもそも「電子的」「書籍的」であるとはどういうことかについて私見をのべる。「電子的」であるという性質から、古くからある「デジタル性」と、新しく生まれた「ネット性」がうまれ、それらは「再編集可能性」をみちびく。いっぽう「書籍的」であることは、「参照可能性」があるということを意味する。電子書籍をつくるというのは、書籍を電子化する営みであると同時に、電子文書(あるいは、文書以外のさまざまなデジタルなもの)を「書籍」化する試みでもある。そうした見地から、電子書籍のひらく未来を想像する。
(2011.06)


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