消費経済レビュー Vol.18 |
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消費者からみた消費税増税のインパクト | |
2009年8月の総選挙での政権交代を受けて誕生した民主党政権は、2011年3月の東日本大震災を挟みつつ2年半あまりが経過したが、その間、消費者の政治スタンスは大きな変化をみせつつある。2013年8月の衆議院任期満了前の解散の可能性を孕みながら、民主党政権に対し、消費者からは厳しい審判が突きつけられようとしている。 弊社インターネット・モニターを対象とした質問紙調査の結果から垣間見える、消費者の政治スタンスとして注目すべき点は、「大きな政府」志向が退潮しつつある中で、政府を当てにせず、目先の景気よりは長い目でみた財政健全を重視しつつも、借金返済最優先へと闇雲に走るような行動には慎重さを示すといった、巧みなバランス感覚である。 欧州での債務危機の連鎖を契機に、肥大化を続ける日本の政府債務への懸念が広がる中で、増税をも視野に入れた財政再建の論議が高まりをみせている。民主党政権は、2009年の総選挙時に掲げた「消費税増税論議を4年間封印する」との公約を事実上御破算にし、2010年7月の参院選で大敗を喫してもなお、2014年4月に8%、2015年10月に10%へと消費税を2段階で引き上げる「税と社会保障の一体改革」案を2012年の通常国会に提出するなど、消費税率上げの実現に躍起となっているが、成立はおろか議論の見通しすらもまともにはたたないままだ。 消費者の中でも、増税に対しては賛否が分かれ一枚岩ではないものの、政権交代当初と比べた変化としては、増税への態度はむしろ慎重化の傾向がみられる。今から10年後の消費税率予想をみても、消費税率10%については、消費者の過半数はいずれにせよやむなしと考えているようであるが、税率10%を上回るような増税を議論できる土壌には到底ない。増税許容の姿勢が弱まる傾向にある中では、消費税率の引き上げはますます難しくなる。前述の消費税の増税プランを前提に、「将来の消費税率予想を踏まえた今後の自身の支出態度」の回答をみると、支出を「今からすぐに減らしたい」人が約29%を占めており、ほぼ3割の人たちにとっては、将来の消費増税予想は、今の消費にマイナスのインパクトをもたらすこととなりそうである。 鳩山・菅・野田の3内閣による民主党政権の2年半に対する消費者の眼は厳しい。内閣に止まらず、民主党そのものも消費者から見限られつつあり、民主党政権はもはや瀬戸際に追い込まれている。消費者が民主党政権に最終的に突きつけるのはおそらくレッドカードによる退場、政権からの下野であろう。ただ、今後の総選挙や政権交代の可能性に対する消費者の回答を見る限りでは、大阪維新の会とみんなの党など新たな風として期待できる存在はあるとしても、民主党が政権交代を果たした、2009年総選挙前後の時期のような熱狂は今のところ見られない。 目下、消費増税法案の議論は事実上棚上げされたままであるが、今回の法案成立の如何を問わず、いずれ、消費税率引き上げの議論は避けられないだろう。消費税率の引き上げが最終的にいつになろうとも、必要な税率引き上げ幅の試算が具体化した時点で、消費者には支出を下押しする材料として織り込まれ、結果的に増税前の時期から既に消費を抑制する方向に作用することは否めない。現状ではカラ手形にすぎなくとも、蓋然性の高いものであれば、消費税増税はその事実を認識した時点で消費の頭を重くする、ありがたくない「置き土産」であることに変わりはない。 (2012.04)
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