消費経済レビュー Vol.19 |
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消費者からみたソーシャルゲーム市場 -今後の拡大可能性を占う |
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社会問題としてクローズアップされるなど、ソーシャルゲームの存在は世間でも広く知られるようになったが、ユーザーとして定着しているのは1割程度に過ぎず、ユーザーも若い世代が中心であり、市場の裾野の広がりは乏しい。長時間、大金をつぎ込んでやっているのは、ユーザーの大半を占めるヘビーユーザーの中の、さらに一握りでしかない。ソーシャルゲームのヘビーユーザーはゲーム好きではあるが、PCやゲーム専用機を使ってパッケージソフトをプレイしてきた旧来のゲーマーとは、異質な人たちである。ソーシャルゲームに対する今後のプレイ意向をみる限り、ソーシャルゲームのユーザー拡大の可能性は乏しい。ヘビーユーザーとミドルユーザーは根強く残るが、ライトユーザーでは離脱が進み、ノンユーザーからの新規流入は限定的である。既存のユーザーで態度を保留している層の帰趨が、今後のユーザー拡大の可能性を左右する。 ユーザー維持・拡大の鍵となるのは、ソーシャルゲームのプレイの動機や目的である。ソーシャルゲームのプレイ理由は主に、「ひまつぶし」「ストレス発散」「癒し」などといった、生活の主目的・動機に対する補完物として位置付けられるものと、「何らかの達成感を得るため」といった生活の主目的・動機に直結するものとに大別できる。ヘビーユーザーでは後者にあたる、何らかの達成感ないし克服感と、その結果として得られる満足や喜びを、ソーシャルゲームのプレイの動機や目的に置いている傾向が強い。ソーシャルゲームを通じて何らかの達成感の充足を求め、その結果として得られる満足や喜びにプレイの意義を見出す人では、ソーシャルゲームのプレイ継続意向は極めて強い。「達成感の充足」を重視する人たちに好まれるジャンルが、「冒険・バトル系ロールプレイングゲーム」「育成・経営系ロールプレイングゲーム」などのRPGである。これらは、MobageやGREEなど、ソーシャルゲームを提供する主要サイトが現在注力しているジャンルであり、「コンプガチャ」の仕組みなど、ゲームでの「達成感の充足」につながりゲームへの執着を高めるような工夫が凝らされているジャンルでもある。 ソーシャルゲームに対しては、根強い批判の声が存在する。ソーシャルゲームというバーチャルな世界のモノ、絵空事にリアルなマネーをつぎ込む人間が、若い世代を中心に少なからず存在していることは、世間の一般常識からみれば理解しがたいものがあろう。ただ、ソーシャルゲームのプレイ理由として「達成感の充足」を主目的としている人は、ソーシャルゲームとは別のリアルな世界に "生きがい"となることが存在しないがゆえにこそ、リアルな世界では決して得られない"生きがい"を見いだせる活路として、ソーシャルゲームというバーチャルな世界に全身全霊をかけているのである。彼ら自身にとっては、バーチャルな世界で自らが成し遂げていくことこそが、リアリティの感じられる唯一の「現実」なのである。リアルな世界への希望を失った人たちに、バーチャルな世界であっても自分自身が生きているという手ごたえや自分自身の存在価値を感じられる「居場所」を、更に言えば"生きがい"を提供できることが、ソーシャルゲームの存在意義であり、そうした"生きがい"に直結するような「達成感の充足」をもたらす仕組みへの深い洞察と探求こそが、ソーシャルゲーム市場の維持・拡大の鍵となるはずである。 (2012.08)
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