バブル期に匹敵する雇用環境の良さにも関わらず、消費は足許で伸び悩みが目立っている。
消費低迷の要因のひとつとして、消費者の過半数が、2014年4月からの消費税増税に伴い、消費税の負担感の重さを感じている。そうした消費税負担の重さが、支出意欲の減退や低価格志向を招いている。
消費低迷のもうひとつの要因として、老後資金や教育資金のための目的的貯蓄が、消費者の支出水準や支出意欲を、中長期的に押し下げている。
老後資金に関しては、長寿化や老後資金不足への不安などを背景に、老後資金のための貯蓄意欲は高まり続けている。定年退職後からリタイアするまでの短期間で、家計は、崖のような労働収入の急落に直面する。老後の生活資金の負担は、リタイア後の年金受給だけではカバーできない。老後の収支差想定が大きいほど、老後の生活資金準備はより重視され、そのための貯蓄行動も積極化する。老後の収支差想定が拡大すると、老後の生活資金準備のための目標貯蓄額も高まり、老後資金準備に要する時間も長くなる。老後の生活資金準備のための貯蓄を行っている層ほど、また、高収入層で目標貯蓄額が高まるほど、家計の貯蓄割合は上昇する。老後の生活資金準備のための貯蓄を行っている層や目標貯蓄額の高い層では、貯蓄意欲も顕著に高い。
教育資金に関しては、子供に望む最終学歴が「大学・短大以上」になると、子供の教育費準備の必要度は高いものとなる。子供に「大学・短大」卒を望んでいる家計で必要となる子供の教育費総額や、子供の教育費のための目標貯蓄額はともに、1,000万円を超える。子供に「大学・短大」卒を望む場合、教育資金の準備にかかる期間は、15年を超える。必要となる教育費総額や目標貯蓄額が高くなればなるほど、教育資金の準備期間も長くなっていく。子供の教育費準備のための貯蓄を行っている層ほど、また、低収入層で必要な子供の教育費総額が高まるほど、家計の貯蓄割合は上昇する。
老後資金準備や教育資金準備といった目的的貯蓄を行っている層では、行っていない層に比べて、消費水準が押し下げられる効果が働いている。そこで、目的的貯蓄による消費押し下げの効果を試算すると、老後資金準備では消費押し下げの効果は1年当たり21.4兆円、民間最終消費支出比で7.1%分に相当する。その影響は11年程度続き、老後資金準備に起因する今後の消費抑制総額は238.5兆円と見込まれる。教育費資金準備では消費押し下げの効果は1年当たり3.4兆円、民間最終消費支出比で1.1%分に相当する。その影響は7年程度続き、教育資金準備に起因する今後の消費抑制総額は22.7兆円と見込まれる。老後資金準備と教育資金準備の双方を合わせた消費押し下げの効果は、1年当たりで合計24.8兆円、民間最終消費支出比では8.2%分にも上る。今後の消費抑制総額の合算値は、261.2兆円である。今後の消費抑制総額の合算値と1年当たりの合計から逆算すると、消費押し下げの効果の平均持続期間は10年程度と見積もられる。
単年でのインパクトだけでなく、その影響の持続期間の観点からみても、老後資金準備に伴う消費下押し圧力は、今後もますます高まり続けると見込まれる。老後資金準備は、中長期的な観点から、単年あたりでは緩やかな変化を積み重ねながら、時間をかけて対応していくのが望ましい。短期間で劇的な低下に見舞われるような収入の崖に対しては、崖の上下の差を極力縮める狙いから、崖への対応をできるだけ前倒しにすると同時に、対応を終える時期もできるだけ後ろへずらし、対応にかけられる時間をできるだけ長くすることが肝要となる。