日本経済は回復軌道に乗りつつありますが、その道筋はなお盤石ではありません。現状では、輸出主導での景気回復が続いており、在庫調整もほぼ完了して新たな循環の局面に入りつつありますが、外需からの設備投資への波及効果は相変わらず鈍く、消費支出と設備投資の伸び悩みが本格回復への足かせとなっております。 2010年度以降の日本経済の見通しについては、2010年度は外需を中心に消費の下支えを得て景気が回復していき、2011年度には設備投資を中心に外需のバックアップを得て景気回復を続けるというのが主流のシナリオであり、景気の腰折れを懸念するシナリオはむしろ少数派です。 消費支出の動きはいまだ方向感が定まりませんが、小売業売上など販売サイドからは明るい材料が出始めています。雇用・所得環境にも明らかな改善が認められるとともに、消費者のマインドも改善傾向を鮮明にしています。雇用、所得、マインドの3点セットの改善が、今後の消費の回復を力強く後押しすることが期待されます。 今後の景気と消費へのリスク要因として、ギリシャ財政問題に端を発するヨーロッパ経済の動揺が世界経済、ひいては日本経済に及ぼすマイナスの影響が材料視されるとともに、宮崎県での口蹄疫の感染拡大がもたらしたダメージは農畜産業に対する物理的・金銭的なものに止まらず、消費者のマインド悪化に波及しかねないものとなりつつあります。もたつきと不手際を繰り返し世論の支持を急速に失った鳩山内閣が総辞職に追い込まれて後、菅内閣が新たに誕生しましたが、財政再建を含め積み残しとなった政策課題はほとんど今夏の参議院議員選挙後に先送りされており、経済政策運営は今後も波乱が続きそうです。内外の政治的・経済的波乱要素がもたらす下ブレリスクを巧く回避または緩和しつつ、消費者のマインド悪化をいかに抑止できるかが、需要改善の裾野を広げ消費回復の道筋をつける鍵となりそうです。 今号の概要は以下のとおりです。 「Economic Outlook for Japan」では、前号が発刊された2010年2月以降の経済情勢を整理し、最悪期を脱し緩やかながらも回復への歩みを進めている、日本経済の見通しと今後の消費の読み方を提示します。 「家計調査を用いた食支出の変化の分析」では、家計調査データから家庭における食支出の推移を整理した上で、コウホート分析を用いて食支出の変化要因を特定し、今後の傾向の予測も試みている。 2010年夏至、日本経済の底流で生起しつつある変化の予兆を捉えて、一歩先を見据えた戦略的判断と行動の一助となることを企図して、「消費経済レビュー」第14号を実務家のみなさまにお届けいたします。
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