戦略を読む | |
企業戦略分析 新バージョンの読み方 | |
1.はじめに 新バージョンの狙い | ||||||||||||
メンバーシップ会員の皆様に好評のコンテンツ、「戦略200+・企業活動分析」が弊社の企業分析の粋を集め、独自分析を加え、新フォームでリニューアルしました。今後は既存の掲載企業の最新版を新フォームで整理し直すと共に、急速に成長しているIT企業など、注目企業を新規で追加して参りますので、ご期待下さい。 本コンテンツでは新フォームを有効に活用していただけるよう、その読み方について、ご案内させていただきます。これまで弊社サイトでは、100社の「企業活動分析」と427の「戦略ケース」(2008年6月10日現在)をそれぞれ別々に提供して参りました。今後はこれらを統合した「戦略分析の3点セット」、
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2.読み方の五つのステップ | ||||||||||||
新フォームの読み方は、五つの基本ステップにわけることができます。「ソニー2005年版」(限定公開中)を例に、それぞれの解釈のポイントを追ってご案内していきます。
(1) STEP1.実績の掌握まず、有価証券報告書や決算報告書を情報ソースとして、単独決算と連結決算それ ぞれについて、「売上」「営業利益」「経常利益」の基本3指標を押さえています。「過去10年間の業績推移」のグラフでは1995年からの10年間についての売上と営業利益を表していますが、基本的には1990年からデータの推移をみることができます。さらに、セグメント情報として直近2年分の「事業セグメント別の売上と利益」「地域別の売上」を掲載しています。ここから、皆さんに読み取っていただきたいことは、「収益の変節点」がどこにあるかということです。企業や事業にもライフサイクルがあることは周知の通りですが、売上や利益が「上昇を続ける」または「下落を続ける」ことの裏側にはその企業の戦略の巧拙が密接に関係しています。 ソニーの場合、1996-97年の2年間で収益が大きく伸びています。ちょうどこの時期は出井伸之社長が就任して「デジタルネットワーク戦略」を打ち出し、「サイバーショット」や「VAIO」というヒット商品が登場しています。しかし1998年以降は売上が頭打ち状態になり、営業利益は下降の一途を辿っています。この10年間の業績推移を見る限り、ソニーは1990年代後半を変節点として凋落の道を歩んでいたとみることができます。
(2) STEP2.時系列活動分析表を読む本コンテンツの骨子と言えるのが「時系列活動分析表」です。年表を価値活動分析 のフレームで整理したものになります。対象企業の社史をベースに、ニュースリリースや新聞記事、雑誌記事を情報ソースとして、年表にブレークダウンすることにより、大局を捉えます。大きなポイントは「中期経営計画」「トップ交代」「重大な組織改革」の三つです。特にポイントとなるのは、おおよそ3年スパンの中期経営計画で、基本的にはこれをベースに個別活動が展開されていきます。もちろん計画通りに活動が進捗するとは限らないので、その変節点となる情報を捉えることが重要です(詳しくは「戦略を読む 競争戦略立案のためのデータベースの手法と提案」参照のこと)。ソニーの場合、2002年度から3年間「トランスフォーメーション60」という構造改革が推進されています。基本的には主軸のエレクトロニクス事業のコスト削減を核とした「リストラ」です。そしてちょうど2005年6月には出井氏からハワード・ストリンガー氏へと社長が交代するなど経営陣が刷新されました。その経営陣が打ち出した2005年度から3年間の中期経営計画の中身もリストラが中心です。ソニーは新たな成長に向けた布石を打てるのか、それともこのまま衰退していくのか、大きな転機を迎えています。
(3) STEP3.価値活動分析時系列活動分析表で捉えた事実から整理していきます。ここでは九つの活動(四つ の支援活動-全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動/五つの主活動-購買物流、製造、出荷物流、販売マーケティング、サービス *弊社のモデルでは調達活動と購買物流をまとめて、主活動に分類している)について、企業の競争優位につながる重要なものをピックアップして価値活動分析表のフレームに落とし込んでいきます(詳しくは 「戦略を読む2 21世紀の競争戦略-ネット時代の戦略原則」参照のこと)。
(4) STEP4.HPA分析(歴史経路分析)今回の新フォームの変更ポイントとなるのが弊社独自のこの分析の導入です。HPAとは「歴史経路(Histrical Path Analysis)」の略です。弊社では市場と競争の変化によって攻守が変わる節目を、競争戦略における「局面」と定義し、その局面を分析する手法としてHPA分析を活用しています(詳しくは 「戦略を読む2 21世紀の競争戦略-ネット時代の戦略原則」参照のこと)。業績の推移と活動を照らし合わせると、よりその局面が理解しやすくなっています。ソニーのこの10年をみると、出井氏が社長に就任した1995年から1997年までの攻勢から一転、デジタルネットワークが空回りし始めて、主力のエレクトロニクス事業が低迷し、それが現在まで続いていると解釈できます。経営陣の刷新や構造改革が攻勢への布石となるかが注目されます。
(5) STEP5.競争優位と競争戦略のサマリーさいごに、現在の戦略をIR情報などから集約し、基本戦略を判断し、「強み」と「弱み」を特定化します。強みと弱みは表裏一体ですから、強みを分析すれば自ずと弱みも分析することができます。そして「今後の課題と新しい競争優位の方向」は、強みの持続性、または弱みの克服といった観点から判断します(詳しくは「戦略を読む 競争戦略立案のためのデータベースの手法と提案」参照のこと)。ソニーの場合、その歴史的な背景から「他社に真似できない商品」を開発し、提供することで家電業界でも差別的な地位を獲得してきましたので、基本戦略は「差別化戦略」であると解釈しています。強みは、こうした強い商品に支えられた「ブランド力」であり、単独でハードからコンテンツ・サービスまで融合できる事業領域の広さです。しかし、要となる「ものづくり」の失墜、特にエレクトロニクス事業における低収益構造が全体の悪循環を招いています。従って、「水平分業」によって弱みに転じたものづくりの復権を基点として、強みであるコンテンツ・サービスとの融合を果たすことが「ソニーらしさ」の復活につながる、とまとめています。
以上のステップに従って、各社の事例を読んでいただければ、より理解が深まると思い ます。もちろんこれらの事例については、それぞれの市場環境や業界事情があるので、自身の直接的な課題解決策にはなりません。ただ、他者の経験と理論に基づいて整理された分析結果を参照して戦略思考を磨くことで、課題解決策のヒントや切り口を得ることは可能です。より多くの企業事例をオリジナルな戦略構築の素材として活用していただければ幸いです。 | ||||||||||||