アップルが好調だ。米アップルコンピュータが4月14日発表した99年1-3月期決算は、売上高が前年同期に比べ9%増加(15億3,000万ドル)し、純利益は2.5倍(1億3,500万ドル)に拡大した。5色の中からボディの色を選べる、半透明プラスチックを使ったモニター一体型パソコンiMacが好調で、出荷台数は82万7,000台と対前年同期比27%増、なかでも日本では同52%増と急増した。
iMacをはじめ、ソニーのバイオシリーズなど最近のパソコンは洒落たデザインのものが売れている。このふたつが起爆剤となって市場は活気を取り戻した。ウインドウズ95以来需要を押し上げる好材料がなく、「ビジネス」を中心とする需要が一巡し97年に前年を下回った国内出荷台数は98年には前年を上回る実績が予測されている。(日本電子工業振興協会では前年比105%増となる7,200台と予測)
iMac、バイオは白や黒のモノトーンが主流で「スペック」(CPUのクロック周波数やハードディスクの容量など)と「価格」で選ばれていた市場に、色やデザイン、使い勝手で選ばせる商品を投入し、パソコンの初心者や女性(特に子育て主婦)など新たなユーザーを獲得した。共通するのは、デザインの新奇性もさることながら、コンセプト重視のモノづくりやコンセプトを伝える店頭づくりを徹底したことである。ユーザー理解の独自性がそれを可能にさせた。ここではiMacに焦点をあて、そのモノづくりとマーケティングをみてみたい。
(1)次世代低価格商品としての基本構想
iMacの基礎は1996年2月から約1年半、会長兼最高経営責任者(CEO)を勤めたアメリオによって生み出された。アメリオの就任当時、アップルは危機的状況にあった(96年1-3月期7億4,000億ドルの赤字を計上)。社内プロジェクトを300から50に絞ると同時に、主力パフォーマを捨てる英断によって、次世代商品開発が可能な組織と体制を整えた。
「『パフォーマ』に多くの欠陥がみつかった時には、そのブランド名を使わせないことにしました。そして技術責任者と『次世代の低価格商品』とのテーマで戦略を考えました。(日経ビジネス99.3.22)
その構想こそが『iMac』に他なりません。もちろん、その時にフロッピーディスク駆動装置をつけないとか、周辺機器との接続規格にユニバーサル・シリアル・バス(USB)を採用することは決めていませんでした。それは現暫定CEOスティーブジョブズ(アップル創業者の1人)の功績です。ただ、パソコンの筐体のデザインは今と似た形を想定していて、カラフルな色にしようと考えていた」
iMac開発上の特徴は、先に外見を決めていたことだ。これについては
「私たちは自動車や服を買うとき好きな色を選ぶ。家だって好きな色に塗り替える。しかしiMacが登場するまで、パソコンに色をつけることはできなかった。パソコン産業は少し遅れていたかもしれない」(日経ビジネス99.3.8)
と、のちにジョブズが語っているように、好みの色が選べないパソコンは遅れていたとの認識から発案されたものだった。(ジョブス氏は96年12月よりアメリオの戦略顧問として復帰)
(2)コンセプトと基本設計のプランニング
iMacの開発はアメリオの退任後、97年9月、12年ぶりに暫定ではあるが最高経営責任者(CEO)に復帰した創業者のひとり、スティ-ブ・ジョブズに正式に引き継がれた。
まずは、大幅なラインナップの縮減がなされた。
「2年前、アップルには15種類もの製品ラインナップがあった。私は訊いた。『この製品はいったいどんな客が買うのか?』『どんな客が興味を示すのか?』と。しかし誰も答えられなかった。(中略)だから私は製品を4つ(iMac、タワー型のG3、サーバーG3、ノート型のパワーブック)に絞り込んだ。」(日経ビジネス99.3.8)
そして、iMacの基本設計のベースとなる考えがジョブズにより精緻化されていった。
「今、一般消費者がパソコンを買う1番の理由はインターネットに接続することだ。iMacなら段ボール箱から製品を取り出し、インターネットに接続するまで15分ですむ。iMacは『インターネットを使ったコミュニケーションの道具にパソコンを変える』というコンセプトで作られたものである。」(日経ビジネス99.3.8)(日経ビジネス99.3.8)「デザインも実際に使いやすくデザインされている。私たちはパソコンのユーザーからよく言われたものだ。『機械の後ろから10本もケーブルが出ているパソコンなんていらない。ケーブルをどのプラグに差し込むのか考えるだけで頭が痛くなる。うまく差し込めても子供がいたずらしてプラグを抜いたら、また最初から考えなければならない』と。私たちはこうした声に耳を傾け、従来とは異なったパソコンを作り上げた。iMacは普通に使うには電源コードを差し込むだけ。たった1本だけだ」
iMacのコンセプトはこれからパソコンを使おうとする初心者ユーザーの購入理由に着目したものだった。実際、電源を入れ「MacOS設定アシスタント」と「インターネット接続アシスタント」という2つの設定ソフトに入力すると、数十分でインターネットに接続できる。さらに、従来なら裏側にあるコネクター類も側面下部に集約したうえで、カバーを取り付けて見た目も配慮されている。このような明快なコンセプトにより「コード1本」「15分接続」のようなユーザーの使用レベルと使い勝手を踏まえた設計とデザインのメリハリが生まれた。
業界の業績と戦略を比較分析する
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