農地や土にこだわる減農薬・有機農法などが脚光を浴びる一方で、室内で人工光源などを利用することで、外界の天候に影響されずに安定数量を収穫できる「野菜工場」が広がっている。価格変動を抑えられることで需要家だけでなく、生産者にとっても収入のメドがたちやすいなどの利点もあり、先進的な営農家が将来有望なビジネスと見込んで取り組んでいる例が多い。施設は野菜や果物での従来のビニールハウスより数段進歩したもので、温室管理、養液管理などはコンピュータで24時間自動処理される。日本植物工場学会によれば、1998年度は全国17カ所にある工場から野菜だけで年間7百万トンが出荷された。
積極的にこの事業に取り組んでいるメーカーがカゴメである。農地法の規制で株式会社は農地を持てないが、カゴメは同法の制約を受けない工場生産方式で野菜ビジネスに参入している。
カゴメは1899年創業。今年100周年を迎えた。現在でこそカゴメは「農業食品企業(メーカー)」を標榜し、「野菜とトマト」を中核とした事業展開を推進しているが、今から遡ること約15年、1980年代はじめ、「総合食品メーカー」を目指し、多角化と国際化を推進した。
(1)SKY計画(1983年~1987年)の成功
低迷していた業績の中、700億円企業からの脱却を図り、中長期(5カ年)経営計画をスタートさせた。その第一段となるのが1,000億円企業へ羽ばたこうという意味を込めて展開されたSKY計画である。SKYとは、「S=積極性、K=効率化、Y=躍進性」を示しており、実際にいくつものヒット商品を生み出し、海外企業とのビジネスを成功させた。またトマト加工品自由化に際し、アメリカ進出という積極的な対応を見せるなど、目標通り1,000億円企業への成長を果たした。
(2)ニューSKY計画(1988年~1991年)の頓挫
SKY計画で自信を得たカゴメは、SKY計画の3年目に若手社員により「21世紀委員会」を発足させた。彼らに21世紀のビジョンを作らせ、ポスト・SKY計画づくりのベースとして活用ようとしたのである。こうして打ち出されたのが、SKY計画を越えて「多角化・国際化」を目指し、1,500億円企業を目指した「ニューSKY計画」である。脱トマトを狙うCI戦略により、穀物や乳加工品といった食品新規分野のみならず非食品分野への参入を図った(ちなみに現在でも引き継がれている「自然を、おいしく、楽しく」というキャッチフレーズはこのときに採用れている)。1年間に100アイテム以上を市場に投入し、最盛期には1,200アイテムまで達した。しかし、次第にカゴメらしくない商品があふれ、どんどん店頭から消えていった。折しも1991年4月のバブル崩壊が重なり1990年、1991年と2年続けての低収益にあえいだ結果(業績推移参照)、1991年に5カ年中期計画の4年目にして頓挫してしまった。
(3)運動スタート(1992年~現在)
ニュースSKY計画を失敗と認識し、早急に打ち切ったカゴメは「カゴメらしさとは何か」を再度追求した。その結果、2000年の101周年を迎えるに当たり、より強いカゴメを作ろうを合い言葉にスタートしたのが「カゴメ101運動」である。ここでドメインを「農業食品企業」に再設定し、五つの指針を確認した。
- 人中心の経営
- 収益力の極大化
- 経営基盤の拡充
- 業務改革の推進
- 農業食品メーカーの実体化
これ以降、主だって展開された施策を列挙すると、以下の通りである。
- 基幹商品への戦略集中化:1995年までに400アイテム強に
- 新取引制度(1993年):公平かつ透明感のある取引制度へ
- ケチャップの価格改定(1994年):平均20%引き下げ
- カゴメ・ロジスティクスシステム(KLS:1990年~):物流効率化
こうした施策を通じ、「キャロット100」(1992年発売)のロングセラー化や「価値訴求営業」と呼ばれる営業活動変革などにより、売上は1,000億円台で推移しながらも収益性を回復させ、現在に至っているのである。
参照コンテンツ
- 企業活動分析 カゴメ株式会社
- 戦略ケース カゴメ 価値訴求営業への挑戦(1995年)
- 戦略ケース カゴメ 情報開発による価値訴求営業(1995年)
- 戦略ケース カゴメ 「適正在庫の維持・管理」の徹底へ(1993年)
- 戦略ケース カゴメ 飲料事業の製品開発-野菜系飲料(1991年)
おすすめ新着記事
消費者調査データ サブスクリプションサービス 広く利用される「プライムビデオ」、音楽サブスクには固定ファンも
調査結果を見ると、「Amazon プライムビデオ」が全項目で首位となった。「プライムビデオ」は認知率で認知率は8割強、利用経験では唯一4割強、今後の利用意向でも3割を超えている。
成長市場を探せ コロナ禍の壊滅的状況からV字回復、売上過去最高のテーマパーク
コロナ下では長期休業や入場制限などを強いられ、壊滅的ともいえる打撃を被ったテーマパーク市場、しかし、コロナが5類移行となった2023年には、売上高は8,000億円の大台を突破、過去最高を記録した。
消費者調査データ シャンプー(2024年11月版) 「ラックス」と「パンテーン」、激しい首位争い
調査結果を見ると、「ラックス(ユニリーバ)」と「パンテーン(P&G)」が複数の項目で僅差で首位を競り合う結果となった。コロナ禍以降のセルフケアに対する意識の高まりもあって、シャンプー市場では多様化、高付加価値化が進んでいる。ボタニカルやオーガニック、ハニーやアミノ酸などをキーワードに多様なブランドが競うシャンプー市場の今後が注目される。