同社は数年ごとにOSをグレードアップして買い換えを促す。さらに対応するアプリケーションソフトも合わせてバージョンアップし、新OSを起爆剤に連鎖的に買い換えが進む仕組みを確立している。こうした戦略により、日本語ワープロやブラウザー(閲覧ソフト)などで次々とライバルを駆逐し、パソコンソフトで絶対的な覇権を築いた。ワープロの「ワード」、表計算の「エクセル」を含むビジネスソフト「オフィス」シリーズを中心としたビジネス部門の売り上げは全体の約3割(06年度第3四半期)を占め、経営の柱となっている。
ところが、インターネットの急速な普及が、マイクロソフトのビジネスモデルに風穴を開けようとするライバルを生み出した。それがネット検索最大手の米グーグルだ。
アプリケーションソフトはこれまで、CD-ROMなどのパッケージを店頭で買うか、ウェブサイトからダウンロードするのが一般的な流通形態だった。この場合ソフトはパソコンのハードディスクにインストールしたうえで利用されていた。
ところが、回線が高速化し、常時接続も常識となったことから、ウェブ上でソフトの機能だけを提供する「SaaS(software as a service)」と呼ばれる新たな流通形態が生まれてきた。この場合、利用者はソフトをパソコンに取り込んで「所有」するのではなく、インターネットを通じて「利用」するだけだ。たとえば、ワープロの場合なら、インターネットにつないでブラウザー画面で文章を書いて、ネット上に保存する形になる。常にネットにつながることが条件になるが、その代わり外部の端末からでも簡単に使える。
流通面でのSaaSの利点は、ソフトを柔軟に販売できることだ。パッケージソフトと違って、必要な機能、期間に限って利用してもらえるため、比較的低価格からの提供が可能になる。その結果、新たな利用者層の開拓も期待される。
そこでグーグルが乗り出したのが、SaaSによるビジネスソフトの提供だ。2006年、オンラインワープロソフト「ライトリー」の開発会社を買収し、その他のソフト群と併せてビジネスソフト「グーグル・ドックス・アンド・スプレッドシーツ」の提供を始めた。それも、検索サービスと同様、画面上に広告を表示することで無料提供を実現したのだ。
無料という究極の「価格破壊」を決行するグーグルに対し、有料(「オフィス・プロフェッショナル2007通常版」の実勢価格は約6万円)でパッケージソフトを販売しなければならないマイクロソフトは窮地に追い込まれたかに見える。だが、勝負はそう単純ではない。
※本稿は代表の松田監修のもと、社会経済研究チームで議論した結果を執筆したものです。
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