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公開日:2018年05月09日

木内酒造:常陸野ブルーイング
クラフトビールのパイオニアはローカルからグローバルへ
―中堅企業ならではのフットワークの軽さが躍進の鍵
マネジャー 川口健一



 国内のビール系飲料が13年連続減少と長期低迷が続く中、これまで拡大を続けてきたクラフトビール市場も転換期を迎えている。そんな中、特に海外から注目を集めているクラフトビールが「常陸野ネストビール」(茨城県)だ。世界各国に輸出されているほか、都内のターミナル駅にある店舗も訪日外国人に人気となっている。

 東京商工リサーチの「地ビールメーカー動向調査」によると、2017年の全国主要地ビールメーカー出荷量は、2010年の調査開始以来、初めて減少した(2017年1-8月期:総出荷量10,357kl・前年同期比0.7%減)。しかし7割以上の企業の出荷量が前年同期を上回るなど、クラフトビールはブームから定着へとシフトしていることがうかがえる。


図表.地ビール出荷量の推移(各年1-8月期)
図表

 「常陸野ネストビール」を手がける木内酒造は1823年に日本酒醸造で創業した老舗酒造である。その後、米焼酎、ワイン、梅酒とカテゴリーを広げ、規制緩和により1996年に「常陸野ネストビール」発売を開始した国内クラフトビールのパイオニア的存在である。国内クラフトビールメーカーとしては、出荷量でヤッホーブルーイング(「よなよなエール」など)、エチゴビールに次ぐ3位だ。また同社の特徴は海外での評価が高いことである。1997年のインターナショナルビアサミットでの金賞受賞をはじめ、アメリカ、ドイツ、イギリスなど世界各国で開催された国際ビールコンテストで受賞を続けている。

 国内だけでなく、海外でも存在感を高めている木内酒造の成功のポイントは三つ挙げることができる。

 ひとつは、ものづくりへのこだわりと地元の茨城でのブランディングである。材料は、ビールの本場から直輸入している。ペールエールやバイツェンに使用する麦芽はイギリスから、アンバーエールに使用するカラメル麦芽はベルギーから取り寄せ、ホップも商品の個性に応じた産地から輸入。最近では自社栽培の国産ホップでビールを醸造することにも取り組んでいる。また、茨城県那珂市という酒蔵にほど近い酒井出という地は、万葉の昔、井戸から酒が湧き出たという伝承があるお酒づくりに適した地だ。さらに、200年弱に及ぶ日本酒づくりで培ったこだわりのノウハウによるモノづくりというストーリーが、世界中でのファンづくりに繋がっている。

 また同社は、こうしたモノづくりへのこだわりだけに囚われず、その商品の価値を最大限に引き出す「体験の場」づくりにも注力している。「酒と料理を愉しむ場所」として、自前で飲食店を展開しているのである。地元の茨城では、「蔵+蕎麦 な嘉屋」(那珂市)、「酒+蕎麦 な嘉屋」(水戸市)、「常陸野ブルーイング水戸」(水戸市)、「Yasato de toreta」(石岡市)を展開し、蕎麦や常陸牛や茨城県産のサバ、自家菜園の野菜を使った料理とビールをはじめとするお酒のマリアージュという体験を楽しむことができるのだ。

 ふたつめは、精力的な海外でのファンづくりである。「クラフトビール」のブームは、日本だけでなく世界中のトレンドだ。「常陸野ネストビール」は世界50ヵ国以上に輸出され、その輸出量は大手NBメーカーを凌いでトップである。また同社の特徴は、商品を輸出するだけでなく、韓国と香港に工場を持ち、2017年にはサンフランシスコと上海に直営店とレストランを出店するなど、地元茨城と同様に「飲用体験の場づくり」を展開しているところにある。こうした積み重ねにより、海外のクラフトビール好きの間では「日本のクラフトビール=常陸野ネストビール」というほどの支持を得るに至っている。

 三つめは、こうした海外展開の国内への波及効果の取り込みである。2018年4月、JR品川駅構内「エキュート品川」に「常陸野ブルーイング品川Beer&Cafe」がオープンした。「常陸野ブルーイング・ラボ 神田万世橋店」(秋葉原駅)、「常陸野ブルーイング・ラボ Tokyo Station」(東京駅)に次ぐ3店舗目となるが、いずれも乗降客が多いターミナル駅という好立地にある。その中で、来店客の3割弱は欧米など外国人客が占めているという。ネットで評判が形成された「常陸野ネストビール」を生産地である日本で飲む、しかも各店では「店舗でしか飲めない限定醸造品」を提供しているというプレミア感が醸成されている。こうした情報はネット時代ということもあり、すぐに拡散する。こうして現在の訪日外国人増加というビジネスチャンスの取り込みにも成功しているといえるだろう。

 このように、木内酒造「常陸野ネストビール」の成功は、「モノづくりへのこだわり」や、中堅規模の酒造メーカーでありながら「ローカライズ(日本市場)」という狭いドメインにとどまらず、当初から世界市場での展開を視野に入れた展開にあるといえる。



特集:中堅企業の成長戦略


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