
相模屋食料(以降、相模屋、群馬県前橋市)は、近年売上を急拡大させている豆腐メーカーだ。2003年に28億円だった売上は2016年に212億円となり、13年間で8倍もの成長を遂げた。08年には豆腐業界トップに躍進している。なぜ、中堅企業だった相模屋がここまで成長できたのだろうか。その理由は、同社のマーケティングのうまさが鍵となっているようだ。
図表.相模屋の売上実績推移~13年で売上が約8倍に急成長

相模屋は1951年に設立の老舗だ。しかし、売上は横ばいが続き、典型的な地方の豆腐メーカーだった。その相模屋の転機は、現社長の鳥越淳司氏が入社した2002年だ。鳥越社長は雪印乳業の営業だったが、創業家の会長の娘と結婚した。ここから相模屋の躍進が始まった。
鳥越社長は「ヒットを追うよりも、多くの人に豆腐を広めたいという思いが強い」と語る。相模屋のビジョンは「おとうふをもっともっとおもしろくし、おとうふのマーケットを広げていきます」だ。
しかし、入社当初は「今さら何をやったって無駄だよ」と言われたという。伝統食品の豆腐はこれ以上変わらない、やり尽くしたという思い込みが強かった。停滞という危機の状態からのスタートだった。しかし、意識を変えて、だからこそ大きなチャンスがあると信じ、誰もやらなかったことに挑戦した。
まず一番初めに力を入れたのが基本を徹底的に追求することだ。絹と木綿、その美味しさを極めることに注力した。その土台の上で、相模屋のホームページにある「新しいおとうふの世界の創造」に取り組み、「おとうふの世界を広げる」ことに集中した。おいしさに徹底的にこだわり続け、それにより培った視点と技術力を活かす。伝統を守りながらも、新しい豆腐の価値を創り出すことが相模屋の強さだ。
相模屋の特徴は、業界の常識を覆す商品を次々に開発、投入していることにある。主な商品は「焼いておいしい絹厚揚げ」、「木綿とうふ3個パック」「ザクとうふ」、そして「ナチュラルとうふシリーズ」だ。
「焼いておいしい絹厚揚げ」は、1日16万パック出荷しているヒット商品である。もっちりとした新食感が特徴で、その食感を実現するために業界では邪道と言われるでんぷんを入れている。豆腐の固定観念から抜け出すため、作り手の発想ではなく、お客様ニーズから生まれた商品だ。「木綿とうふ3個パック」も業界でありそうでなかった商品だ。これまで3個パックは絹しかなく、木綿は難しいとされてきたが、機械メーカーと検討し1ヶ月半で商品化した。
中でも、相模屋を全国的に有名にした商品が「ザクとうふ」だ。ヒットしたポイントは四つ挙げることができる。
ひとつは豆腐でターゲット設定をしたことである。従来、豆腐は老若男女誰もが食べるものであり、業界ではターゲットはいらないと言われていた。しかし、この「ザクとうふ」では、豆腐にもっとも関心のない30~40代男性をターゲットに設定した。ふたつめは、豆腐は四角容器に入っているものという固定観念を変えたことだ。「ザクとうふ」はガンダムに登場する人型兵器を模した容器を使っている。
三つめは豆腐をシリーズ化させたことだ。「ザクとうふ」を開発し、その後「Gとうふシリーズ」として、「ドムとうふ」などを展開し、「Gとうふシリーズ」専用のホームページも開設している。最後は、ターゲット層に対して、おつまみとしても、即食もできる食シーンの提案を行ったことである。
現在注力しているのが、F1層(20才から34才までの女性)をターゲットにした「ナチュラルとうふシリーズ」だ。これまで若年女性の豆腐の位置づけは、ダイエットのための商品であり、おいしさはさほど気にされていなかった。
その視点を変えて、ダイエット食ではなく、豆腐を美味しい食品として再定義して完成したのが「ナチュラルとうふシリーズ」だ。特に有名なのが、これまで300万パックが売れている「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」だ。豆腐をよりチーズの風味に近づけるために、大豆臭や青臭さをなくし、濃厚さを出すために豆乳クリームを使った。醤油ではなく、オリーブオイルをかけて食べる商品になっている。
相模屋の成長のポイントは四つある。ひとつは、あくまでも豆腐にこだわり、豆腐に集中していることだ。ビジョンに「おとうふマーケットを広げていきます」と明言している。ふたつ目は、豆腐を作るためのコア技術の強化、製品・製造方法の見直しだ。これにより、事業の基盤となる強さを創り出している。通常、豆腐は冷ましてからパックに入れる。しかし、同社の「ホットパック製法」では、豆腐がまだ熱いうちにパックを上からかぶせ、できたての美味しさをそのままとじ込めることができる。相模屋がヒット商品を連発しているのは、奇をてらったものではなく、その土台にある美味しさが理由である。
三つ目は、業界の伝統を疑い、消費者ニーズの変化に対応した商品開発を行ったことである。「ザクとうふ」は男性30~40代が家でお酒を飲む食シーンに着目して開発された。消費者は豆腐ではなく食シーンを求めている。つまり消費の高質化に対応している。四つ目は、「ナチュラルとうふ」「Gとうふ」にみられるようにブランド化していることだ。これまで豆腐はブランドがなく、指名買いされるものではなかった。相模屋はターゲットを設定して、ブランドが提供する価値を明確にすることで、差別化を図り、中堅企業でもブランドづくりができることを証明している。
鳥越社長は量販店の営業を担当していた経験から、「顧客視点」で市場のチャンスと脅威を明確にして、マーケティングをしっかり展開している。このマーケティングのうまさが、相模屋の躍進の秘訣といえるだろう。
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