ポーラオルビスグループの育成ブランド「THREE」が快進撃を続けている。
「NATURAL」「HONEST」「CREATIVE」をコンセプトに、ライフスタイルブランドとして2009年に導入された「THREE」は、9年間で売上を80億円にまで伸ばし、2016年には黒字化を達成している。とくに2014年以降、急成長している。当時はオーガニックコスメがブームになっていたが、その波には乗らず、かといって機能競争がすすんでいる大手メーカーとも一線を画した展開をしてきている。今や多くの製品が、毎年ベストコスメを獲得するほどの人気ブランドに育った。
図表.「THREE」成長の軌跡(一部推定を含む)
ブームや機能競争にも乗らず、なぜ「THREE」は成功することができたのだろうか。その成功要因は、三つある。
ひとつ目は、競合メーカーに対して、同じ土俵に立たないブランディングが挙げられる。大手企業はマスを狙い、多くの顧客に受け入れられるようなブランディングをするが、「THREE」はそうではない。ニッチでもトンガリのあるブランディングで、特定顧客にフィットするブランディングをしているのである。「THREE」を運営する株式会社アクロの石橋寧社長はこう語る。
「当社のブランドは100%自然由来ではなく、それを最良とも考えていない。天然由来率は99%が最高値で、自然の力と科学の力、互いの良い点を最大限に活かし、化粧品としての機能を十分に発揮することが重要と考えている。都会的で洗練されたスタイリッシュさが失われぬよう、内容物だけでなく、外箱や容器などの細部にも強いこだわりを持ち、ブランディングを行ってきた」(週刊粧業 2014年6月2日)
導入当初は、ほかのブランドと同様に百貨店に限定したチャネル展開を図っていたが、転機を迎えたのは2012年である。この年、来店客自身が複数のブランドから自由に商品を選び、購入できるセミセルフ業態・コスメセレクトショップである「イセタンミラー」1号店が新宿ルミネにオープンした。2013年には同業態の「フルーツギャザリング」がオープンし、セミセルフ業態の出店ラッシュが続いた。
この流れに乗り、2012年以降セミセルフ業態への出店を強化した。これがふたつ目の要因だ。
2017年末の国内取扱い店舗数は、百貨店38店、セミセルフ59店、直営店9店となっており、百貨店拡大と同時にセミセルフ業態へのチャネル拡大が成長に大きく貢献している。
いまでこそ、外資系ブランドを含め、セミセルフ業態や直営店を出店しているものの、それまで百貨店をメインチャネルとするブランドは、「しがらみ」もあり出店できなかった。しかし「THREE」はいちはやく、マルチチャネルを展開していたのである。
チャネル展開に拍車をかけるきっかけになったのは、直営で展開するコンセプトショップの出店である。そのフラッグシップとなったのが化粧品だけでなく、カフェやスパを併設した「THREE AOYAMA」である。
というように、シンプルで洒落た2階建て店舗である。「『自然体で生きることこそ美しい』というTHREEのフィロソフィーを、体感を通してお届けするフラッグシップショップです。一日のはじまりから心・からだ・肌のバランスをニュートラルに整えることができる三つの空間 -SHOP DINING SPA - の中で、知性と生命力、そして一人一人の自分らしさを、新しい気づきとともに呼び覚まします。」(同社ホームページ)
また、"日本のハーブで作る、マイブレンド薬草茶"といったメーキャップやスキンケアだけでなく幅広いテーマでワークショップが、月5~6回開催されている。
結果、生活感度の高い生活者を集め、メディアでも取り上げられ、セミセルフ業態への出店拡大につながると同時に既存店への送客効果も生んでいる。
「世界で通じる日本発ブランドを」が石橋社長の夢である。日本発を謳うためには、まず日本人に評価されなければならないと国内展開に集中してきたが、2015年以降は海外展開も加速させている。
海外店舗は現在では、タイ、台湾、インドネシア、マレーシア、 香港、韓国、シンガポールの7ヶ国に進出し、店舗数は36店になった。今後は、欧米へも展開していくだろう。
以上のような「THREE」の戦略から、中堅企業が勝つための競合メーカーと「同じ土俵に乗らない」ブランディング、「しがらみに捉われない」という原則が学べるはずだ。
好評につき、本コンテンツの続編を執筆いたしました。
THREEの成功の要因である、巧みなターゲティングについて詳しく解説しています。
快進撃続くTHREE―「ブルーオーシャンターゲティング」で第3の価値創造
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参照コンテンツ
- 戦略ケース 快進撃続くTHREE ―「ブルーオーシャンターゲティング」で第3の価値創造(2019年)
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