半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:2019年09月02日

永谷園 本業を維持しながらM&Aで1,000億円企業へ
ビジネス・ディベロップメント・マネジャー 舩木龍三



永谷園の苦悩と大胆な戦略転換

 永谷園は1952年、「お茶づけ海苔」発売で創業した。その後も「松茸のお吸い物」(1964年)、「さけ茶づけ」(1970年)を発売。さらに「あさげ」「ゆうげ」「ひるげ」(1974~75年)といったスープ類、「すし太郎」(1977年)、「麻婆春雨」(1981年)、「煮込みラーメン」(1993年)などの調理食品と、事業を拡大してきた。その結果2000年までに、お茶づけ・ふりかけ事業、スープ事業、調理食品事業という3本柱が確立された。

 しかし、その後は成長が鈍化する。

 2005年には創業社長が亡くなり、2012年に次男の永谷泰次郎氏が社長に就任した。ここで大胆な戦略を図る。M&Aによる新規事業開発である。これが功を奏し、1,000億円企業にまで成長した(図表1)。


図表1.永谷園ホールディングスの売上高推移
図表


麦の穂ホールディングス買収を通じた新規事業開発

 2013年、同社はシュークリーム専門店「ビアードパパ」を運営する麦の穂ホールディングスを買収した。泰次郎社長が掲げる「新規カテゴリーへのチャレンジ」「創業60周年を迎え、次の30年を乗り切る新機軸」として、思い切った買収に踏み切った格好だ。

 当時の麦の穂ホールディングスは、すでに直営店とFC事業の2本柱で国内約200店舗、アジアを中心とした海外17ヶ国で約200店舗を誇り、2012年度の売上高は84億円に達していた。

 この買収により、2014年度には売上高を100億円上乗せすることができた。その後は店舗のスクラップ&ビルドを図りながら、地道に売上高を伸ばしていく。

 しかし、本来の狙いであった国内での新業態開発を含めた事業拡大、海外での店舗数拡大は思うようにはいかなかった。小売ビジネス、FCビジネスのノウハウ不足があったと考えられる。


海外フリーズドライ会社ブルームコの買収で海外販路を獲得

 2016年には、さらなる攻勢に出る。当時、同社は中国進出のため現地子会社の設立を計画していた。しかしこれを中止し、欧米での事業展開に舵を切った。英フリーズドライ会社のブルームコを、150億円で買収したのである。

 2017年には増強したフリーズドライ設備を最大限に活用し、アメリカ市場での需要拡大に対応。欧州市場ではグローバル企業との取引を拡大した。さらに、永谷園の国内販売チャネルを活かし、日本市場でも売上高拡大に努めた。

 結果として、2018年度の海外食料品事業売上高は、対前年比62億円増の230億円となった。

 この成長は、買収によって販路を拡大したことが何よりも大きい。和食ブームにのって、国内食料品事業をブルームコの販路で拡大できる可能性が生まれたのである。

 このように永谷園は、M&A、とくにブルームコの買収で成長を手にした。しかし、日本企業の海外M&Aの成功率は決して高くない。神戸大学の研究(2014年)では、100億円以上の海外企業買収案件116件について、その成否を判定したところ、成功は9件のみ、約半数の51件が失敗という結果だった。日本企業の海外M&A成功率は1割を切っているのである。

 成功しているM&Aはシナジー効果が発揮できている。永谷園のブルームコ買収の成功は、フリーズドライ技術でのシナジーが効いたと考えられる。


成熟市場で本業を維持するすごさ

 同社はこれまで、2009年の「1杯でしじみ70個分のちから」シリーズ、2013年の「たまねぎのちから」シリーズなどヒット商品を生み、素人がお茶づけを食べるCMで、お茶づけ・ふりかけ需要の拡大を図るなどしてきた。しかし、売上高は660~680億円前後と大きな成長を果たせずにいた。

 それでも同社が着実に業績を上げているのは、上記のようなM&Aに加えて、基軸にこだわった地道なマーケティングが実を結んだといえるだろう。人口減少や少子高齢化、若者のお茶づけ離れといった厳しい市場環境下でも、創意と工夫で商品サービスを常に考え創り出すこと、お客様に実感・満足していただく「美味しさ」を提供し続けること、食を通じて幸せで豊かな社会づくりに貢献していくこと、という三つからなる「味ひとすじ」の企業理念を貫き続けてきたのである。その結果、国内食料品事業の売上高は、2009年度の657億円から2018年度には698億円と、着実な成長を遂げている。

 このように、M&Aによる事業多角化と、国内事業の基軸をはずさないマーケティングによって、老舗企業の新創業運動は大きな成功を収めた(図表2)。

 今後は、長年培ってきたフリーズドライ技術を活用し、国内外で新たな需要創造にチャレンジしていくことだろう。


図表2.事業別売上高の推移
図表

特集:中堅企業の成長戦略



参照コンテンツ


業界の業績と戦略を比較分析する


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツ プレミアム会員サービス 戦略ケースの教科書Online


新着記事

2024.11.20

24年9月の「旅行業者取扱高」は19年比で75%に

2024.11.19

24年10月の「景気の先行き判断」は2ヶ月連続の50ポイント割れに

2024.11.19

24年10月の「景気の現状判断」は8ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.11.18

企業活動分析 アルファベット(グーグル)の23年12月期は、グーグルサービスがけん引し売上過去最高を更新

2024.11.18

企業活動分析 アマゾンの23年12月期はAWSがけん引し営業利益前年比3倍へ

2024.11.15

24年9月の「現金給与総額」は33ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.11.14

24年9月の「消費支出」は5ヶ月連続のマイナスに

2024.11.14

24年9月の「家計収入」は5ヶ月ぶりのマイナス

2024.11.13

24年9月は「完全失業率」、「有効求人倍率」とも改善

2024.11.12

企業活動分析 ローソンの23年2月期は、「地域密着×個客・個店主義」徹底し増収増益

2024.11.12

企業活動分析 セブン&アイHDの24年2月期は海外事業の影響で減収も過去最高益を更新

2024.11.11

24年10月の「乗用車販売台数」は2ヶ月連続のプラス

2024.11.08

消費者調査データ No.416 レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア

2024.11.07

企業活動分析 楽天グループの23年12月期は27期連続増収も、モバイルへの投資で4期連続の赤字

2024.11.07

24年9月の「新設住宅着工戸数」は5ヶ月連続のマイナス

2024.11.06

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場  背景にある簡便化志向や節約志向

2024.11.05

企業活動分析 ファンケルの24年3月期算は国内売上がけん引し、3期ぶりの増収増益へ

2024.11.05

企業活動分析 コーセーの23年12月期は、国内好調も中国事業低迷で増収減益に

2024.11.01

成長市場を探せ コロナ禍の落ち込みから再成長する惣菜食市場(2024年)

2024.10.31

月例消費レポート 2024年10月号 消費は緩やかな改善が続いている-政治が消費回復のリスクに

2024.10.31

消費からみた景気指標 24年8月は6項目が改善

週間アクセスランキング

1位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

2位 2017.09.19

MNEXT 眼のつけどころ なぜ日本の若者はインスタに走り、世界の若者はタトゥーを入れるのか?

3位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

4位 2024.02.02

成長市場を探せ コロナ禍乗り越え再び拡大するチョコレート市場(2024年)

5位 2021.05.25

MNEXT 眼のつけどころ プロ・マーケティングの組み立て方 都心高級ホテル競争 「アマン」VS.「リッツ」(1)

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area