永谷園は1952年、「お茶づけ海苔」発売で創業した。その後も「松茸のお吸い物」(1964年)、「さけ茶づけ」(1970年)を発売。さらに「あさげ」「ゆうげ」「ひるげ」(1974~75年)といったスープ類、「すし太郎」(1977年)、「麻婆春雨」(1981年)、「煮込みラーメン」(1993年)などの調理食品と、事業を拡大してきた。その結果2000年までに、お茶づけ・ふりかけ事業、スープ事業、調理食品事業という3本柱が確立された。
しかし、その後は成長が鈍化する。
2005年には創業社長が亡くなり、2012年に次男の永谷泰次郎氏が社長に就任した。ここで大胆な戦略を図る。M&Aによる新規事業開発である。これが功を奏し、1,000億円企業にまで成長した(図表1)。
図表1.永谷園ホールディングスの売上高推移
2013年、同社はシュークリーム専門店「ビアードパパ」を運営する麦の穂ホールディングスを買収した。泰次郎社長が掲げる「新規カテゴリーへのチャレンジ」「創業60周年を迎え、次の30年を乗り切る新機軸」として、思い切った買収に踏み切った格好だ。
当時の麦の穂ホールディングスは、すでに直営店とFC事業の2本柱で国内約200店舗、アジアを中心とした海外17ヶ国で約200店舗を誇り、2012年度の売上高は84億円に達していた。
この買収により、2014年度には売上高を100億円上乗せすることができた。その後は店舗のスクラップ&ビルドを図りながら、地道に売上高を伸ばしていく。
しかし、本来の狙いであった国内での新業態開発を含めた事業拡大、海外での店舗数拡大は思うようにはいかなかった。小売ビジネス、FCビジネスのノウハウ不足があったと考えられる。
2016年には、さらなる攻勢に出る。当時、同社は中国進出のため現地子会社の設立を計画していた。しかしこれを中止し、欧米での事業展開に舵を切った。英フリーズドライ会社のブルームコを、150億円で買収したのである。
2017年には増強したフリーズドライ設備を最大限に活用し、アメリカ市場での需要拡大に対応。欧州市場ではグローバル企業との取引を拡大した。さらに、永谷園の国内販売チャネルを活かし、日本市場でも売上高拡大に努めた。
結果として、2018年度の海外食料品事業売上高は、対前年比62億円増の230億円となった。
この成長は、買収によって販路を拡大したことが何よりも大きい。和食ブームにのって、国内食料品事業をブルームコの販路で拡大できる可能性が生まれたのである。
このように永谷園は、M&A、とくにブルームコの買収で成長を手にした。しかし、日本企業の海外M&Aの成功率は決して高くない。神戸大学の研究(2014年)では、100億円以上の海外企業買収案件116件について、その成否を判定したところ、成功は9件のみ、約半数の51件が失敗という結果だった。日本企業の海外M&A成功率は1割を切っているのである。
成功しているM&Aはシナジー効果が発揮できている。永谷園のブルームコ買収の成功は、フリーズドライ技術でのシナジーが効いたと考えられる。
同社はこれまで、2009年の「1杯でしじみ70個分のちから」シリーズ、2013年の「たまねぎのちから」シリーズなどヒット商品を生み、素人がお茶づけを食べるCMで、お茶づけ・ふりかけ需要の拡大を図るなどしてきた。しかし、売上高は660~680億円前後と大きな成長を果たせずにいた。
それでも同社が着実に業績を上げているのは、上記のようなM&Aに加えて、基軸にこだわった地道なマーケティングが実を結んだといえるだろう。人口減少や少子高齢化、若者のお茶づけ離れといった厳しい市場環境下でも、創意と工夫で商品サービスを常に考え創り出すこと、お客様に実感・満足していただく「美味しさ」を提供し続けること、食を通じて幸せで豊かな社会づくりに貢献していくこと、という三つからなる「味ひとすじ」の企業理念を貫き続けてきたのである。その結果、国内食料品事業の売上高は、2009年度の657億円から2018年度には698億円と、着実な成長を遂げている。
このように、M&Aによる事業多角化と、国内事業の基軸をはずさないマーケティングによって、老舗企業の新創業運動は大きな成功を収めた(図表2)。
今後は、長年培ってきたフリーズドライ技術を活用し、国内外で新たな需要創造にチャレンジしていくことだろう。
図表2.事業別売上高の推移
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