発売50周年のロングセラー商品の佃煮「ふじっ子煮」、もう一品ほしいというときに重宝する惣菜シリーズ「おばんざい小鉢」、ねばりと穏やかな酸味が人気の「カスピ海ヨーグルト」。これらは、創業から60年間成長を続けるフジッコ株式会社(兵庫県神戸市、以下フジッコ)の代表商品である。
同社は2009年から増収を続け、この11年の間に売上高を約160億円伸ばしている優良中堅企業だ(図表1)。19年度の連結売上高は662億円(前年度比3.2%増)、営業利益45億円、営業利益率6.8%となっている。
図表1.フジッコの売上高推移
フジッコは、1960年11月7日に山岸八郎氏が社員3名で創業した。当時の社名は「富士昆布」。社名には日本のシンボルであり、世界中の人に知られている美しい富士山にあやかりたいという願いが込められている。また、富士山のように業界の頂点と、味覚の頂上を目指すことを理想に掲げた。
とろろ昆布やおぼろ昆布などを中心商品としてスタート。伝統的な日本の食材であり、健康に良いと言われる昆布を日本人の健康と美容に役立てようとしたことが、フジッコの原点となっている。今では従業員数2,409名(19年3月31日現在)を抱え、今年(2020年)で創業60周年となる。
フジッコは、社会的背景や消費者の生活ニーズの変化をいち早く捉えてきた。昆布や豆などの日本の伝統食をアレンジした商品を提供することで、人々を「健康」にする健康創造企業を目指している。売上は総菜、昆布、豆、ヨーグルト、デザートの五つの商品領域で構成されている。中でも、代表商品「おばんざい小鉢」シリーズを抱える総菜は、フジッコのなかで最も成長している商品領域だ。総菜の売上高(19年度実績、以下同様)は227億円(前年度比8.1%増)である。
昆布の売上高は181億円(同1.5%増)で、発売50周年を迎えるフジッコの代表ブランド「ふじっ子煮」が中心商品だ。豆は、売上高138億円(同1.5%減)、「おまめさん」シリーズが中心となっている。ヨーグルトは「カスピ海ヨーグルト」を中心に、売上高は発売から15年で70億円(同1.5%増)まで成長している。デザート製品の売上高は32億円(同2.8%減)だ。
フジッコは現在、総菜とヨーグルトで成長し、昆布と豆で確実に利益を獲得する事業構造となっている。
成長を続けているフジッコではあるが、順調だったわけではない。事業コンセプトの変更と商品領域の拡大に応じて、「創業期」「成長期」「成熟期」「第2成長期」の大きく四つの節目がある。
1960年~1970年の創業期では、創業精神に基づいて健康と美容に良いと言われる昆布を製造していた。1963年には、創業商品の「磯の雪」のTVCMを打っている。
成長期の1970年~1998年には、伝統食をアレンジし、伝統食を科学するという事業コンセプトのもとで商品領域を急激に拡大した。売上高は数十億円から400億円へと一気に拡大した。1976年は、フジッコのとって非常に重要な年だ。今のフジッコを支える昆布佃煮の「ふじっ子煮」と、今は当たり前になっている合成保存料・合成着色料・漂白剤無添加の「おまめさん」の2大ブランドを発売した。昆布から、伝統食である「大豆」へと領域を拡大。1986年には今の売上の柱となっている総菜の「おかず畑シリーズ」を発売し、総菜商品領域へ進出した。
1999年~2010年は成熟期であり、成長が鈍化した低迷期だった。02年には京都大学名誉教授の家森幸男教授がジョージアから持ち帰った「カスピ海ヨーグルト」の製造、頒布を開始している。
この低迷期から反転攻勢に入ったのが第2成長期だ。「新・日本型食生活」を標榜し、和食の伝統食を現代風にアレンジして、健康に良い新しい形の伝統食を提案している。中期計画「NEXTビジョン2025」では、コア事業として昆布と豆を「極める」、成長事業として総菜とヨーグルトを「広げる」、そして新規事業として機能性食品や通販、海外事業を「伸ばす」とし、三つの事業を明確化。投資のメリハリをつけて、持続的成長を実現しようとしている。
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